三十一話 魔法の絨毯の上で、君に恋をした
「あなたの夢を叶えてあげましょう!」
優也の掛け声で、複数の色で照らされてステージが明るさに包まれる。その隙に舞台裏に戻ると、クラスメイトから白をベースにした金色が入ったマントを渡されて、俺は急いで着て舞台に戻った。
「すごい!王子様だ!」
「さぁ王子、今から宮殿に向かおう!」
俺と優也はニコニコしながら、肩をぶつけ合って、舞台裏に戻っていく。入れ替わりでステージに上がる珠凛を見つめながら俺は言う。
「優也やばいな!めっちゃ笑いとれてたじゃん」
「まぁランプの魔人だからね」
「裏ぐらい、普通にすればいいのに、あははー」
「そろそろ魔法の絨毯のところだな!」
今回の魔法の絨毯のところは、男子生徒が俺と珠凛が乗る絨毯を持ち上げて、空を飛ぶ演出になっている。
「練習では俺たちのことを持ち上げられたから問題ないでしょ?」
そんな雑談をしていると、クラスメイトの1人が引き攣った顔で
「ごめん、さっきのダンスで足捻ったわ」
「まじ?大丈夫?」
「俺たちだけでいけると思うけど…」
絨毯を持ち上げる6人が5人になるぐらい、そんなに気にする必要もないと俺は思いながら、王子として、初めて王女に会うためにステージに向かう。
「私は遠くの国からきた王子です」
いよいよ魔法の絨毯は次だなと思いながら、セリフを語る。それにしても一番好きなシーンをやるとなると、無意識に演技に気持ちが入るのがわかる。
始まった時の緊張は嘘のように、本当に魔法がかかったように凛々しく王子を振る舞っている俺。
「私なら王女にお似合いと思います」
「冗談じゃない!私の将来を勝手に決めないでよ」
王女が怒りながら、ステージからドタドタと足音を立てて、消えていく。王女の後ろ姿は、この前怒っていた珠凛の後ろ姿を思い出して、内容は違うけど、またも重ねてしまっていた。
俺も舞台裏に戻ると、クラスメイトたちは少し心配そうに
「藤崎君と上本さんは大丈夫そう?」
一応、聞かれた俺と珠凛は目を合わせて、
「大丈夫だよね?」
「珠凛ちゃんが平気と思うなら、大丈夫だよ!」
そこまで心配していない珠凛に、俺は冗談っぽく。
「まぁ何かあったら王子が助けるさー」
「頼むよー!王子!」
笑いながら先にステージに進む珠凛は、本当の王女のような後ろ姿で、ライトの光がまた俺の目を釘付けにした。
俺は舞台裏に目線を移して、魔法の絨毯に足をかける。
「じゃあ乗るね。」
「よし、せーの!」
「なんか教室とは違う感じで、けっこう怖いな」
教室では持ち上げられた時は、天井に手をついてバランスをとっていた。思い出すと、思っていたよりも安定しない絨毯に不安を感じていたが、なんだかんだでバランスが取れている。
「藤崎!大丈夫?」
「平気!バランスはとれてる!」
そのまま絨毯の上に乗せられて、王女の方に向かうことになる。王女の前に辿り着くと、体幹に力を入れて、身体を支えて、俺は言う。
「魔法の絨毯さ」
「とても綺麗」
「一緒に空を飛んでみないか?宮殿抜け出して、世の中を見るんだ」
「平気なの?」
俺はセリフを言いながら、今までの珠凛とのことを思い出していた。そしてこれからも珠凛のことは、大切な家族だし、守ってあげたいと思いながら、輝く珠凛の目を見つめて
「僕を信じて…」
「何ですって?」
俺は珠凛に手を差し伸べて、もう一度、
「僕を信じて」
王女は絨毯に足をかけて、俺は王女を引き上げる。浮かび上がる絨毯に腰を下ろした。曲が流れ始める。
「見せてあげよう♪」
絨毯から見る景色は、色とりどりの光に包まれていた。肩寄せ合う王子と王女は目が合うたびに、ニコッと微笑み合う。
「ときめき胸、初めて、あなた見せてくれた♪」
俺はその瞬間、もう認めるしかなかった。
珠凛のことが、好きだと。今までも、良い人だなと思うことはたくさんあったけど。
「2人きりで明日を一緒に見つめよう♪」
曲が終わりに近づくにつれて、絨毯が少し不安定になっていた。
ちょっとずつ傾き始める絨毯に、腕を掴む珠凛の力が強くなる。
「きゃっ」
小さな声で俺に抱きつく珠凛に、俺も強く抱きしめていた。正直、余裕なんてなかった。俺は小さい声で、足元のクラスメイトに
「ゆっくり低くしていいよ」
ちょうどキスをする場面で、俺たちはハグをしている。
予定外の展開に、俺は帽子を外して、客席から見えないように俺と珠凛の顔を隠した。
顔を合わせて、見られてないことを良いことに、2人で変顔していた。
2人でクスクスしていると絨毯が下ろされた時の揺れで、帽子を落としてしまった。
その瞬間、鼻と鼻がぶつかった。
一瞬、息が止まる。
顔が、一気に熱くなる。
「えっ?今キスしてた?」
生徒の1人がつぶやくと、会場がざわめき始めたが、俺たちは何事もなかったように振る舞いながら、舞台裏に戻った。
舞台裏に戻るとさっそく、優也が駆けつけてきて
「お疲れー!俺見たぞ!キスしてただろ?」
「してねーわ!鼻がぶつかっただけだよ!」
俺をいじる優也の元に、絨毯を持ち上げてくれていた人たちが
「わりぃ!練習の時はあんなに歩いてないから、けっこう後半ふらついたわ」
「いやいや、ありがとう!俺たち重かったでしょ?」
まぁまぁ強い力で頭を引っ叩かれ、振り向くと顔を少し赤くした珠凛がいた。
「全然、重くないし!すごい大変だったでしょ?ありがとう!」
「けっこう痛かったけどー」
「たかぴーが悪い!」
言葉に上手くできないけど、なんか嬉しいことでもあったかのような雰囲気を出している珠凛。
「たかぴー!ラストがんばろうね!」
俺が好きだったシーンが終わると、終わるまではあっという間だった。
カーテンが閉じると、ホッとして、少しよろけてしまう。支えるように優也が横に来る。
「王子!大丈夫か?よくやったよ貴大!」
「ありがとう!優也!すごい疲れた!」
「たかぴーも萩谷君もまだ終わってないよ!挨拶あるから!」
俺は珠凛と優也と手を繋いでステージに上がり、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの拍手を浴びた。
カーテンコールで鳴り止まない拍手に俺は少しうるっときてしまう。
不運でなってしまったハオウィーン祭の責任者、やらされた王子役、珠凛と仲が悪くなった数日、色々大変だった。両手が塞がっているから、涙を拭くこともできない。だから俺はただ上を見ていた。
天井がハッキリ見えてきて、珠凛の方に目をやると、ウルウルしている。俺は握った手を離して、珠凛の頭を撫でながら
「珠凛ちゃんも頑張った!えらい!えらい!」
真面目にやるのは俺には合わないと思って、少し小馬鹿にするように言うと
「うー、うーん」
泣き始めてしまった。それを見た客席の拍手は、MAXになった。
カーテンが閉じると、すぐに珠凛は乙葉と美華が抱きつけられている。その光景を見ている俺に美華は
「女の子を泣かせるなんて最低!」
「あ、俺が悪いのかな…?」
「たかぴーに泣かされたー」
泣きながら笑う珠凛に、俺も笑ってしまう。
「今回は珠もたかぴーも打ち上げ行くでしょ?」
「俺は行くつもり」
乙葉に聞かれて、演劇が終わると少し寂しい気持ちにもなっていたが、打ち上げが終わるまではハオウィーン祭だなと、その寂しさに、まだ気づかないふりをしていた。




