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クラスのギャルと兄妹になりました  作者: たかちょ


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二十九話 明日は君と立つ舞台

仮装の生徒と制服の生徒が入り混じる教室。いよいよ明日が演劇の日である。演劇会場に絨毯や、ランプなどの小物を運ぶ女子生徒と一緒にいる私。


「もう演劇の方は大丈夫?家で藤崎君と練習してるの?」

「あ、大丈夫だよー!やってる!やってるー!」


突然の遠藤さんの質問に、思わず嘘をついてしまう。貴大とはもう2日ほど会話していない。


「私も魔法のランプ好きだから、明日楽しみにしてるんだよ!珠凛ちゃん頑張ってね!」

「う、うん!頑張るねー!」


急にプレッシャーを感じ、顔が一瞬強張る。そして頭によぎった貴大に、自然と肩が落ちた。


萩谷君と話しながら大きな箱を運ぶ貴大。意識的に目で追いかけて、話しかけるタイミングを探してしまう。


「やっぱり制服は楽だね〜〜」

「乙葉!もっと持ってよ〜!あっ」


乙葉と美華がこちらに気づき、手を振りながら近づいてくる。


「いよいよ明日だね〜!藤崎とは練習してるのー?」

「う、うん!大丈夫かなー」

「それ、大丈夫じゃなさそうだね」

「そ、そうだねー」


私の自信の無さにすぐに気づいた美華は、鋭い目で少し大人びた雰囲気を感じさせる。その姿を見て、自然と背筋が伸びてしまう。


「全然、藤崎と話してないでしょ?ってか、私たちも避けられてる気がするし」

「それね〜!仲直りしないよ〜」

「藤崎とは、別に喧嘩してるわけじゃないでしょ?」


心配してくれる2人に、モヤモヤした気持ちをうまく言葉にできないのがもどかしい。


「珠が感情的になるのって、珍しいよね〜」

「それなんだよね。一緒にいる時間が長いと取れちゃう気持ちになるのかもね」

「それはわかるかも〜」

「珠は藤崎のこと好きだったりしないの?」


急に直球な美華の質問に、瞬きが増えてしまう。

少し考えているように斜め上を見つめる。


「うーん。そうねー」


「別に恋人とかじゃなくても、家族とか友人でも」

「一緒にいると楽しいから、好きかな」


上手く逃げ道を作ってもらえて、美華のさりげない優しさにホッとしながら答える。


「恋とかじゃないけど、嫉妬してるんじゃないの?家族を取られちゃうとかで」

「なるほどー」


理解はしてないけど、思わず口をついて出る『なるほど』


「まぁ明日本番だし、今日中には話しといた方がいいよ」

「そうだよ〜!珠とたかぴーのプリンス、プリンセス姿早く見たいんだから〜」


「うん!家で話しかけてみるよ」


美華の話を聞いたら、重かった身体が、少し軽くなっていく。モヤモヤしているものに、家族を取られてしまう嫉妬と意味付けると気が楽になる。



でも家に帰れば、結局軽くなった身体を元に戻ってしまう。なんて話かけようかなと考えながら、無意識に夕食にラップをかけていた。


「あ、まぁそのあとでいいか」


貴大が夕食を食べて部屋に戻ってから、声をかけようと、夕食を一緒に食べることを選ばなかった。


部屋のベッドで横寝になりながらスマホを触って、何度もSNSをスクロールしてしまう。まだ誰も新しい発信はしてない。だから同じ投稿を眺めてしまう。



ガチャ


「ただいま」


無音の家に響く貴大の声に、息をするのも躊躇う。

足音が向かいの部屋に吸い込まれて、少し経つと足音はリビングの方へ消えていった。


「ごめんね、このまま一生を終えたくないの」


気持ちのこもらないまま、セリフを読み続ける。集中出来るはずもなく、リビングから漏れるわずかの音に、いちいち反応してしまう。


時計をチラチラ見ながら、20分は経った頃。やっとリビングのドアから足音が近くなる。一瞬止まった足音が、向かいの部屋に消えていく。


「ふぅーーーー」


浅く吸った息を、細く長く吐いてから、一度立ち上がってみる。少しドアを見つめて、またベッドにダイブ。


ガチャ


貴大が部屋から出てきて、私は一瞬で心臓の鼓動が速くなるのを感じる。少し乱れた髪を整えて、澄ました顔で台本に目をやる。


ガチャ


貴大は部屋に戻っていてしまった。私はホッとするも、力が抜けるように顔をベッドに埋めた。その瞬間、耳元にあるスマホのバイブ音にドキッする。


スマホのディスプレイに映る貴大からのメッセージ。


「演劇の練習しよ」


私は冷たくなった手、すぐ返信をする。嬉しさと気まずさが交差して、身体の内側がゾワゾワする感じが気持ち悪い。


「どうしても外の世界で自分の暮らしをしてみたいの」


突然、“ちゃんと練習してた”アピール。貴大がいつ部屋に来てもいいように。それでもなかなか来ない。


「どうしても外の世界で自分の暮らしをしてみたいの。」


同じセリフを何度読み続けるんだと、自分に言いたくなるほど、言葉にしてみる。


コンコン


「珠凛ちゃん、練習始めよう」


「入っていいよー」


自分でも緊張してて、いつものような声が出せてないことがわかる。心の中で「恥ずかしすぎ、恥ずかしすぎ」と呟いてしまう。


意識的に落ち着いた話し方にして、視界の端に映る足に向かって私は口を開く。


「たかぴーは、セリフは完璧ー?」

「んー、大丈夫だと思うけど。自信はないかな…」

「そうなんだー。じゃあ全体を通してやる?気になるところだけ?」

「通してやってもらえるとありがたいかな」

「いいよー」


なぜか貴大の顔が見れない。なんか急に口が乾いてきた。貴大はその場で腰を落として、あぐらをかき始めた。

台本の文字を見つめて、顔を直視できないまま。


「宙に浮いているの?」


「魔法の絨毯さ」


チラチラと貴大が私の顔を見ているのは、気づいているけど、目を合わせられない。そろそろこの体勢を疲れてきたかな。でも内容はまだ半分しか進んでいない。


「僕を信じて」


セリフを読んでいる貴大を、目の下を触るフリをして一瞬、目を移す。


周りが見えてないと思うほど、真剣に台本を見つめ、想いが言葉に乗っているようだった。

その瞬間だけ貴大が眩しく見えて、その顔に見入ってしまった。


貴大がセリフ言い終えると、ハッと我にかえり、耳がじんわり熱くなる。貴大のあの顔を意識して集中できないまま、時間とセリフだけは先に進んでいく。


2時間しか経っていないのに、倍の時間をやったような疲労感を感じた。


「ふぅー。終わったー。俺大丈夫だった?」

「けっこう完璧だね。問題ないよ」

「ありがとう。明日はなんとかなりそうだね。じゃあ、お風呂入ってくる」


終わると逃げるように部屋を出ていく貴大を見て、謝る時間さえもらえなくて、ベッドに顔を埋める。


「とりあえず練習したから、明日は大丈夫」


いつもの距離には戻っていないけど、自分に言い聞かせて、安心しようとしていた。


さっきより居心地の良くなった部屋にホッとすると、スマホが触りたくなる。2時間も経つとSNSの情報はかなり増えている。


「あ、やばっ。お風呂入らないと」


ぼーっとスマホを眺めて、あっという間に30分が過ぎていた。

ゆっくりと部屋を出て、お風呂場から音がしないことを気にしながら、無音の廊下を進んでいく。


静かに脱衣所のドアを開けると、鏡に顔を近づけ、不気味な笑顔を作っている貴大がいた。


「あれ?おかしいなぁ〜」


顔をいじりながら笑っている貴大を、数秒眺めて、わざと音を出しながら、さらにドアを開けた。


頬を上に摘んだまま振り向く貴大と目が合うと、誤魔化すように私は


「何してるの?ウケるんだけど。もういないと思ってた」


じわじわと笑いが内側から溢れてくる。もう口元はニヤッと


「いや、明日に向けて笑顔の練習だよ」

「別に演劇中、顔なんてハッキリ見えないでしょ?すごい顔してて、面白すぎてー!あははー」


笑顔の練習があまりにも酷すぎ、こらえていた笑いが一気にこぼれた。

不思議と、今までの気まずさが一気に消えた。


「確かにそうかも。でも珠凛ちゃんにはハッキリ見えるじゃん」

「ウケるー!明日はたかぴーの最高の笑顔でも見せてもらおうかな!」

「でも上手くいかないんだよ!ぎこちなくて」

「今の笑ってる顔、普通だけどね」


急に近づく心の距離に、冷えていた色んなものが温かくなる。貴大が脱衣所から出た後に鏡を見ると、頬が上がっている私が映っていた。


無意識に出る鼻歌は、ここ最近バラードだったけど、いつの間にかアップテンポに変わっていた。


今日のお風呂はいつもより短く、すぐにリビングに行ってしまう私。

貴大から一口もらったアイスは、明日の演劇は大丈夫だと教えてくれている気がした。

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