二十七話 オムライスよりナポリタン
香水の匂いが広がる女子更衣室で、セクシーな魔女の衣装を着た乙葉と美華を見ながら、露出少なめの魔女の衣装に着替える私。
「珠も、私たちと同じにすれば良かったのに〜!ねぇ、美華!」
「まぁ珠は、あんまり露出が多いの着ないもんね
〜」
「やだよー!恥ずかしいしー」
「美華みたいに少しは、大人になることも必要だよ〜」
「乙葉も私とあんまり変わらないじゃーん」
露出もあんまり好きじゃないし、去年のハロウィーン祭もあって、そこまで目立ちたくない。私の着替えが終わると、私たちは更衣室を出た。
「あ、みんな可愛いじゃん!」
声かけられた方に目をやるとかなり完成度の高い海賊が目の前に立っている。
私たちはゆっくり見上げると、深く海賊帽子を被った友也だと気づく。
「友也めっちゃ海賊じゃーん!やばー!」
「珠凛も魔女似合ってるね!2人はセクシーすぎるよー!」
「俺も3人と一緒に回っていい?」
私は乙葉と美華の方に顔を向けると、
「私は全然いいよ〜!美華は〜?」
「いいよ〜。とりあえず4人で今日は回ろうか」
「ありがとう!美華ちゃんも、乙葉ちゃんもどこか行きたいところあるの〜?」
ギャル3人とイケメン1人の組み合わせで、廊下を歩いているだけで、
すれ違う生徒たちは、振り返る人もいれば、二度見する人もいる。
友也が女子に人気なのは、嫌でも耳に入ってくる。
「今日のお昼ご飯、3年生のメイドカフェ行かない?サッカー部の先輩が来いってうるさいんだよ!」
「乙葉と珠はどうする〜?」
「私はなんでもいいよ〜」
「私も大丈夫だよ!」
特に意思のない私は、乙葉と同じようなことを言葉にした。ただ衣装の魔女のマントが動くたびに、関節を締め付けてくる。重くて熱くて、それどころじゃなかった。
衣装で性能の悪さにイライラがピークに達しようとしている時に、やっとメイドカフェに到着した。早く座りたいと思っていると、意外と空いているみたいで受付の先輩にすんなりご案内された。
「4人ご案内します!」
「いらっしゃいませー」
やっと解放されると、安堵の気持ちでカフェの中を見渡した。青スーツの貴大と胸元が大胆に開いた女子に目が止まる。
横並びで笑い合っている2人。私は一瞬で視界の端に追いやると、友也が声かける。
「貴大君じゃん!あれ?2人きりなの?」
視界の端で、3人は会話をしている。隣にいる乙葉と美華も貴大たちに興味がありそうに見つめていた。
また違う女の子と楽しそうにしているのを見て、胸がムカムカした。
貴大の自由なんだから、私には関係ないと自分に言い聞かせて、席に座るとイライラの原因である重いマントを脱いだ。
「ふぅ〜。マジでマントきついわ〜」
愚痴を言いながら手で自分を煽ぎながら、テーブルに置かれたメニューを見る。一番上に大きく書かれたオムライスに目が止まると、後から座る3人にオムライスを指差しながら
「私、オムライスにしようかなー」
興味津々で3人も前のめりでメニューを覗くと、
「全然!」
貴大の席の方から大きな声が2人分、重なって聞こえた。教室が一瞬静まり返り、私は反射的に貴大の方を見てしまう。
貴大は私を見ていた。
目が一瞬合って、イラッとしてしまった。なんでこっち見てんだよ。そんな気持ちで奥歯を強く噛んでいた。
乙葉がなかなか決まらず、少し時間が経って店員さんが注文をとりにくると私は
「オムライスが3つで、えーっと…友也は…ナポリタン1つで!」
「かしこまりました!オムライス3つとナポリタン1つで…」
「あ、やっぱり私、ナポリタンにするー!」
私は奥の席でオムライスでイチャイチャしている人たちを見て、ナポリタンに変えることにした。それを聞いて友也は嬉しそうに
「やっぱりナポリタンだよね!食べたいもの合うねー!」
「私、ナポリタン子供の頃から好きだからさー」
本当はオムライスが好きなのに、意味のない嘘と作り笑いで、疲れが増した気がした。
生ぬるい暑さと、部屋中に広がるケチャップの匂いで、少しぐったりしていると乙葉が
「1年生のお化け屋敷気合い入ってるらしいよ」
「それ面白そうじゃん!美華も乙葉も行こうよ」
「明日さー、2人で回ろうよ!珠凛!」
女子3人は、「えっ?」という顔で友也の顔を見ていた。
ちょっとした間の後に美華が
「いいじゃん!いいじゃん!」
「そうだよ〜!美華と私は、彼氏でも呼ぶかもだしね!」
少し焦った言い方で、どうぞどうぞの素振りをする2人に、断れるわけもなく私は
「そうだねー」
押し負けたように、明日は友也と2人で回ることが決まってしまった。心のどこかで貴大への対抗心があるのも不思議な気持ち。
夕陽が照らす下駄箱で、制服姿に戻った女子3人が革靴に履き替えていた。
「あ〜、今日は楽しかったね〜!」
「マジで友也、珠凛のこと狙ってない?」
「美華もやっぱり思う?」
「絶対狙ってるよね?」
乙葉と美華が目を丸くして盛り上がるのを、私は手を横に振りながら
「ないよー!友也は私のこと仲の良い友達ぐらいだよ」
「もし告白されたどうするの〜?」
「そんなこと考えたことないしなー」
乙葉が聞いてくるも、友也には中学の頃のような熱量でもないのが、今の正直な気持ち。3人で横並びで外に出ると、正門で制服と私服の2人に目がいく。
「あ、藤崎じゃん!あれ彼女?」
「あの2人はどういう関係なんだろ〜?美華も彼女だと思う?」
「んー?彼女と言われれば、彼女にも見えなくはないな〜」
「ちょっと仲良すぎる感じもあるんだよね〜」
2人が、私の気持ちを代わりに言葉にしているようで、同じことを考えていた。
3人で腕を組みながら、正門に歩いていく。
貴大がこっちに気づいたのは、目を合わせなくても、ちょっとした驚いた動作で分かる。今日は近くにいるだけで、ムカムカしたり、胸が締め付けられたりと、貴大とは話したくない。
「藤崎君おつかれー!」
「おつー」
「…」
すれ違う時に、何かを期待してるような雰囲気を感じた。でも話しかけてこなかった貴大に、そっちから話しかけろよ、と思いながら正門に向かう。
「あれ〜?なんかあった?藤崎君と!」
「たかぴーと?特に何もないよー」
「そっか!ってか、私もたかぴーって呼ぼうかな〜!そっちの方が呼びやすいし〜」
少しずつ貴大を知っていくたびに、自分だけが知っていたものだと思っていたことが減っていく。
自分だけが「たかぴー」って呼んでいたのも、乙葉も呼ぶなんて…。
「いいじゃ〜ん!乙葉も呼びなよ〜!」
乙葉の顔が夕陽が眩しくて見えない。目が開けられなくて、うまく笑えてない気がする。




