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クラスのギャルと兄妹になりました  作者: たかちょ


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二十四話 笑顔の練習

ここ数日ラップに巻かれた夕食を電子レンジで温めて1人で食べている。母と2人暮らししていた時を思い出す。あの頃は何も思わなかったけど、1人で食べる夕食が寂しいことを実感する。


「魔法の精霊よ、僕の願いを叶えてくれ!…」


明日の演劇のセリフを口ずさみながら、緊張と不安で胸がはち切れそう。それに、昨日の珠凛が怒った顔が頭から離れない。


食事を終えて、珠凛に声をかけて明日の練習でもやろうか悩むけど、なかなか立ち上がれない。


「僕を信じて…」


頭を抱えながらセリフを言いながらも、頭の中では、いつも通り声をかけようか、少し暗い感じで話しかけようかと、ふざけた感じでいこうか、何通りのパターンを考えている。


「よし!貴大がんばれ!」


自分を鼓舞して、大きく深呼吸。重い腰をあげて珠凛の部屋に向かう。心臓の鼓動が痛いほど全身に響く。いざドアの前に行くと、足や手が震えて気づけば、そのまま向かい側の自分の部屋に入ってしまった。


「なにしてんだよー、俺。」


勉強机に置いてあるスマホを手に持ち、『仲直りの方法』と検索してみる。


「えーーと、喧嘩した相手と仲直りするには、まず自分の非を認め、誠意を込めて謝罪することが最も重要です。その上で、冷静に話し合い、相手の意見を聞き、自分の意見も伝えることで、関係を修復できます。なるほどね」


一通り読み上げたけど、自分の非がわからない俺は、尚更困惑した。そもそも「怒ってない」と言っていた珠凛。そう思うと、じゃあいっかと急に開き直って珠凛の部屋の前に向かった。


「やっぱり無理だ…」


小声でUターンして自分の部屋に戻り、ベッドにダイブした。息を吸っても、うまく奥まで入っていかない感じがする。クラスメイトにも迷惑はかけられないと思いながら、震えた手で珠凛に連絡することにした。


「演劇の練習しよ」


「いいよ」


スマホが震えた瞬間、心臓が一拍遅れて跳ねた。珠凛が自分の部屋に来るのか、俺が珠凛の部屋に行くのか、リビングに行くべきなのか、どうでもよいことで悩んで、ドアに耳を当てて、珠凛が外に出てくるか様子をうかがった。


「全然、動かないじゃん」


居心地の悪い静けさの中、時計の針の音だけが響いていた。俺はドアノブに手を回し、一気に珠凛の部屋のドアをノックした。


「珠凛ちゃん、練習始めよう」

「入っていいよー」


珠凛の声はいつもより高い気がする。俺も少し震えた声で同じようなものだけど。


部屋に入るとベッドの上で、うつ伏せの体勢で台本を眺めている珠凛がいる。緩めのTシャツから、無防備に胸元が見えている。瞬間的に目を逸らす俺。目線も合わせずに珠凛が口を開く。


「たかぴーは、セリフは完璧ー?」

「んー、大丈夫だと思うけど。自信はないかな…」

「そうなんだー。じゃあ全体を通してやる?気になるところだけ?」

「通してやってもらえるとありがたいかな」

「いいよー」


いつも通りなんだけど、冷たさを感じる話し方に、手に持った台本が小刻みに震える。それを隠すように、台本を持つ手に力を込めて、セリフを言い始めた。


「一歩先に行け…」


通し稽古が終わったのは、21時頃。2時間やってこの気まずい雰囲気に解放されると思うと、心がホッとする。


「ふぅー。終わったー。俺大丈夫だった?」

「けっこう完璧だね。問題ないよ」

「ありがとう。明日はなんとかなりそうだね。じゃあ、お風呂入ってくる」


俺は逃げるようにお風呂に向かう。熱いシャワーを浴びながら大きくため息を吐く。シャワーを浴びながら目を閉じると、練習中、一度も目が合わなかった珠凛の姿が何度も浮かぶ。


「やっぱり怒ってるじゃん」


身体洗っている時に溜めた浴槽に浸かるけど、熱いのに身体の芯まではなかなか温まらない。

体育座りをしながら、ぶくぶくとお湯の中で息を吐く。手を合わせて、お湯をぱしゃっと飛ばしてみる。


お風呂にいるのに、全然落ち着かない。


「ダメだ。早く出て寝ちゃおう」


明日の演劇に緊張しているのか、珠凛との気まずさに緊張しているのか、よくわからなくなっていた。

脱衣所にある鏡は俺から出る湯気で曇っている。


「なんだよ。めんどくさいな」


曇った鏡を手の甲でクルクルと綺麗にすると、目の前に不安そうな顔をした俺がいた。頬を上げてみて、無理矢理に笑ってみても、瞳に光がない。


「あれ?おかしいなぁ〜」


何度も鏡の前で笑顔の練習をする。ぎゅっと目を瞑ってから、パッと目を開いてみたり、指で頬を上に吊り上げてみたり。


ガチャ


「何してるの?ウケるんだけど。もういないと思ってた」


着替えを抱えた珠凛が脱衣所に入ってきた。その瞬間、久しぶりに目が合った気がする。


「いや、明日に向けて笑顔の練習だよ」

「別に演劇中、顔なんてハッキリ見えないでしょ?すごい顔してて、面白すぎてー!あははー」


珠凛と久しぶりに目が合って、その笑顔を見た瞬間、周りが白く光った気がした。俺は何度も瞬きをしてしまう。


「確かにそうかも。でも珠凛ちゃんにはハッキリ見えるじゃん」

「ウケるー!明日はたかぴーの最高の笑顔でも見せてもらおうかな!」

「でも上手くいかないんだよ!ぎこちなくて」

「今の笑ってる顔、普通だけどね」


珠凛に言われて、鏡の方を見ると、自然に笑えていた。瞳はさっきと違って見えた。それに重かった空気が、少しだけ軽くなる。


「ってか、早く出てってもらっていいかなー!私も早くお風呂に入りたいんだけどー」

「あ、ごめん!」


さっきまでの気まずい雰囲気は、なんだったんだろう。小さなことで喧嘩をして、また戻る。いつも物事全てはそんなもんな気がする。


「うめぇー!アイスとコーラ最高!」


リビングのソファでバニラのカップアイスを食べながら、コーラを飲む祝杯の時間。

俺は適当につけた恋愛ドラマを見ながら、なかなか減らないアイスを食べる。



「あれ?たかぴーだけずるい!私にもちょうだいよ」

「えっ。いいよー!あーん」


髪を乾かしていない珠凛がリビングに来るとアイスを欲しがる。スプーンですくったアイスを珠凛の口元に運ぶ。内心バクバクだけど、珠凛が来る前にドラマでも同じシーンがあったから、やってみただけ。


「んーー!うまぁー!お風呂上がりのアイス最高だね!さらにコーラもいいねぇー!」


ドラマでは女性がときめいていたけど、何も起こらなかった。でもいつも通りの珠凛に戻った嬉しさに、俺はアイスで冷やした手で頬を触った。


「面白いシーンでもあった?」

「特にないかな?まだ始まったばっかりだしね」


さすがにアイスをあげるシーンがあったとは言えない。普通に恥ずかしすぎるからと頭の中で独り言。


いつもの会話は続く中、肩と肩が触れ合いながら、珠凛が言う。


「緊張してきたかも!」

「珠凛ちゃんでも緊張するんだ!俺はハオウィーン祭が始まってからずっとだよ!」

「明日は頑張ろうね!緊張するけど、楽しみでもある!」

「全然楽しみじゃないよー!緊張で吐きそう!」

「あははー!みんなの前で吐いたらウケるねー!」

「それは地獄だよ!」


カップに残ったアイスは、全て溶けてしまっていた。

不安も、少しだけ軽くなった気がする。やっぱり珠凛とはずっと仲良くしていたいなと思った。


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