第二十一話 近くて遠い
ハオウィーン祭当日を迎えて、カボチャや魔女の仮装で溢れた廊下。写真を撮る声と笑い声が響く中、安物のドラキュラ衣装を纏う優也が、黒いハットに青いスーツの俺に
「今週1週間、仮装するのも大変だよな!まぁ貴大はスーツだから楽だろうけどな!」
「Missyの真似をしたかったんだよ!この日ぐらいしかスーツなんて着ないからね」
「俺のやつはどうだよ?」
「似合ってるよ!それで5日間?」
「いや、あと2つは用意してるぜ!貴大はスーツだけ?」
「俺は演劇あるから、その時の衣装で後半は回るよ!」
「じゃあ俺、3つになったな!」
「ランプの魔神で歩くのはなかなかだぞ!」
俺たちは仮装しながら、展示会や3年生がやっている屋台などを一通り回る予定。すれ違う女子生徒の仮装をチラ見しながら歩いていると、急に後ろから女性に呼ばれる
「おい!貴大!返信しろよ!」
その声の方に振り返ると黒髪のショートで、少し大胆な服装の女子がいる。横にいる優也は胸元から見える谷間と、ショーパンから出る生足に鼻を伸ばしている。
「お、花もう来てたの?久しぶりじゃん!」
「どうせなら最初から楽しみたいじゃん!」
「ふーちゃんは?一緒じゃないの?」
「お姉ちゃんも一緒だけど、はぐれちゃった!でも友達もいるから大丈夫!」
「じゃあ一緒に回るか!」
俺と花の会話を羨ましそうに見ている優也に俺は
「俺が小学生の時によく遊んでいた花だよ。性格強いから気をつけて!」
「川澄花です!よろしく!ってか、貴大一言余計だから!」
「痛っ!」
久しぶりに会っていきなり蹴りをくらう俺を見て、優也は凛とした態度で
「俺、優也!花ちゃん!よろしく!」
「優也!なんか好青年の感じ出してんなよ!」
「優也君ね!貴大がお世話になってます!」
「花は親みたいな感じ出すなよ!痛っ!ふざけんな!暴力女!」
「これは貴大が悪いな!」
小学生の時から変わらない花の蹴りは、あの頃よりも強く、久しぶりに会うことでの緊張を全て吹っ飛ばすほどの威力だった。
一通り回って、花の腹の減り具合がピークに達したお昼頃。3年生がやっているメイドカフェで休憩している俺たち。
「貴大と花ちゃんってめっちゃ仲良いよな!こんなに貴大が女子と話したの見たことない」
「まぁ貴大は女子を前にすると、昔っから無口になるもんねー」
「うるさいわ!そんなことないし!」
小馬鹿にするように悪魔のような顔で、こっちを見る花。久しぶりに会っても、花と一緒にいるとイラッとしてしまう。目の前の水を一口飲んだ時、優也が立ち上がって
「一瞬、トイレ行ってくるわ!」
「あ、わかった!」
優也が手をつけてないコップを見て、急に2人きりの状況に、手先から血が引く感じがした。お互い何を話そうか悩んでいるような、ちょっとした間。乾いた喉に、咳払いをして
「優也いいやつでしょ?」
「そうだね!あの貴大が仲良しなんだから、優也君は良い人なんだと思うよ!」
「なんだよ!あの貴大って!」
「だって人見知りで、他人のことをよく見ている貴大だよ!なかなか仲良くならない、ぼっち貴大君だよ」
「めちゃくちゃディスってるな!」
「でも良かったよ!元気そうで!」
遠くを見て少し頬が上がった顔で話す花は、変わらず俺のことをよく理解している。急にホッとして自然と笑みが溢れてしまった。
「4人ご案内します!」
「いらっしゃいませー」
カフェに入ってきたのは、珠凛、乙葉、美華、友也の4人。最初に気づいたの友也だった。さすがサッカーをやっているだけあって視野が広い。
「貴大君じゃん!あれ?2人きりなの?」
「優也も一緒だよ!」
「なんだー!デートかと思ったよ!」
友也が話しかけてくるも、珠凛の方に視線がいってしまう。珠凛以外はこっちに興味がありそうな仕草をしているけど、珠凛とは一切目が合わない。
「あっちの席だって!」
無表情のまま席に向かう珠凛、後を追うよう乙葉と美華が歩き出す。なんか悪いことをしたのか、俺は心配になった。
「友也〜!こっちだよ〜!」
「わかった!またね!貴大君!あと彼女さん!」
「違うわ!」
乙葉に呼ばれて離れていく友也から、花に目を向けると少し顔が赤くなっている。
「なんか顔赤くね?あの感じがタイプ?」
「全然タイプじゃねぇわ!」
「逆に花にそういうの興味あったら、ビビるわ!うぅ」
「貴大!マジでうざいわ!」
明らかにいつもより威力のあるパンチを受けた俺は、あまりの痛さに言葉を出なかった。肩を抑えながら見た花の顔は、本気で怒っているような顔だった。
「ただいま!トイレ混んでたわ!ってか、友也とギャルグループも来てんのかよ?あれ?2人ともどうかした?」
「いや攻撃を受けまして…」
「貴大がマジでムカつくから。」
「やっぱり2人は仲良いなー!」
異様な雰囲気を感じ取っても、いつも通りな優也に俺と花は同時に
「全然!」
俺たちの声は教室にいる生徒がみんな振り向くほどの大きさだった。
たくさんの視線を向けられる中で、目が合ったのは珠凛。でも次の瞬間、何もなかったみたいに逸らされた。
その後にすぐに運ばれてきた料理。不思議だなと思いながら、食べるオムライス。
視界の右からスプーンが横切る。
「美味しそうだから、一口もらうわ」
「おい、ふざけんな!」
残り少なくなったオムライスを見て腹が立つ。そんなこと気にしてない花はルンルンな雰囲気全開に
「いやー、お腹いっぱい!じゃあ次はどこいく?」
ケチャップが付いた花の頬を見て、気が緩んでしまう。
「じゃあフリースローでもやりに行こうぜ!今回は俺が勝ちをもらうよ。負けた方ジュース奢りな!」
俺は頬についたケチャップは教えないまま、俺たちはカフェを後にした。
ハオウィーン祭初日も残りわずか。花とのお別れが近づいていく。なんだかんだ楽しかったから、寂しさが胸をすり抜ける。
優也は先輩に呼び出されて、正門の前で校舎を2人で見ている。
「すごい楽しかったよー!優也君にもよろしく言っといてよ!」
「うん!俺も楽しかった!」
「また遊びに行こうよ!」
「それなら来週、買い物付き合って欲しいんだけど!」
再来週は珠凛の誕生日。プレゼントを買いに行くのに、女性のお店に入りづらいからちょうど良い。
「別にいいけど!何買うの?」
「ちょっと女性物を!」
「何?女の子になりたいの?」
「いや、いつもお世話になっている人に渡すだけだから!」
珠凛と同じ家に住んでいることは言えなかった。言ったら馬鹿にされそうだったから。たぶんそうだと思う。
「へぇ〜。まぁ良いわよ!私がアドバイスしてあげるわ!」
「おう!よろしく!」
校舎に背を向けて、一度も振り返らない花の背中を見つめる。もうこれは振り返らないなと確信して、振り返ると、珠凛達が帰宅をしていた。
「藤崎君おつかれー!」
「おつー」
「…」
乙葉と美華の挨拶をしてくれるが、目も合わせない、口も開かない珠凛が俺の横を通り過ぎる。
すれ違う瞬間、何か言われる気がして、でも何もなかった。
オレンジ色に染まったグラウンドがやけに遠くに感じた。少し肌寒くなった風が身体を冷やす。
「なんか悪いことしたかな?」
呟きながら校舎に戻る俺。最終日の演劇までには許してもらえるかな。そもそも怒っているかもわからないけど、気になりすぎて、頭から離れなかった。




