第十四話 放課後は甘い匂い
夏が終わっていない夏休み明け。色々ありすぎて、この教室にホッとしている。いつも通り振り返りながら話しかけてくる優也。
「マジで地獄だったよ!夏休み終わってくれてありがたい」
「俺も今年は終わってくれて良かったよ」
「お前なんかしてたっけ?」
「まぁこっちも色々あるんだよ」
机に顔を伏せながら、乾ききった声で答える俺。
ポケットから伝わるスマホの振動にビクつく。
「なんだ?」
先生が来る前に急いで確認すると珠凛からメール。
「今日、お父さんのプレゼント買いに行かない?」
この前の夏祭りの後から、少し珠凛には話しかけづらい。
「おっけー!」
「じゃあ学校帰り、買って帰ろう!」
当たり障りのない返信に、珠凛からの返信は一瞬だった。
スマホを鞄に戻しながら、優也に目を移して
「優也って!親にプレゼントあげるの?」
「まぁ姉ちゃんが選んだやつを半分出してるやつだな」
こいつはあげていないと思っていた分、意外で思わず前のめりになった。
「でもあげてるんだな」
「急にどうした?なんかあげるの?」
「義父がもう少しで誕生日なんだけど、何あげればいいかわからないんだよ」
「上本さんに聞けばいいじゃん」
「いやー、ここだけ話、あんまり仲良さそうじゃないんだよ」
「それは厳しいな!姉ちゃんは去年はネクタイ、その前は帽子だったな!」
優也が腕を組みながら、天井を見上げていると
「みんな久しぶり。夏休みはどうだった?」
担任が入ってきて、朝のホームルームが始まろうとしていた。
「きゃー、かっこいい」
「やばー」
隣のクラスの異常な歓喜が、俺らのクラスをざわつかせる。それを落ち着かせるように机に日誌を置いた先生が
「転校生が隣のクラスにくるのよ〜。イケメンだったわ〜。うふふ」
「先生!面食いですか!!」
先生の一言にクラスのざわめきが笑いに変わる。
朝のホームルームが終わって、教室に1人の男子が入ってくる。
「えっ」
「あいつじゃん!貴大!あいつだよな!」
俺と優也は目を丸くして、目を合わせる。教室中がその男子に釘付けだった。女子だけじゃない。男子まで。
高身長で、涼しげな目元。笑うとえくぼができる。まさにイケメン。
「珠凛!隣のクラスか!」
「そうだねー!クラスはどう?」
イケメンと話す珠凛を見ると、胸が苦しくて目を逸らしてしまった。
俺の知らない珠凛の顔だった。
俺らのクラスもざわめき始めて
「男子とあんなに楽しそうに話すの初めて見たわ」
「まぁ藤崎はちょっと特別だからな」
「でもあのイケメンくんと2人はお似合いだね」
学校であまり見慣れない珠凛の姿だった。
頭から離れず、あっという間に放課後になっていた。
下駄箱で待ち合わせた珠凛を待っていると、あのイケメンとすれ違う。
「なんか見覚えあるんだよな」
顎に手を当てて、振り絞って思い出そうとするが、なかなか出ず気持ち悪さが残る。
「ごめん!先生呼ばれちゃって!」
「全然待ってないよ。何あげればいいかな?」
モヤモヤを隠すように平然を装い、卓哉さんのプレゼント探しに頭を切り替える。
「んー、悩むなー」
「なんか卓哉さんの趣味とかってあるの?」
「仕事ばっかりだし…」
珠凛を見ていると、イケメンの顔と卓哉さんの顔が頭の中でごちゃごちゃになっていく。
頭を整理するため、遠くのグラウンドを見つめる。サッカー部にイケメンがいた。
「あ、卓哉さんサッカー好きだし、日本代表のユニフォームでもあげる?喜びそうじゃない?」
「それはいいねー!じゃあスポーツショップだね」
学校帰りに2人で買い物なんて、高校生カップルがやることじゃん。この瞬間だけは夏祭りのことなんて忘れていた。
2人でユニフォームを探しながらスポーツショップの独特な匂いにテンションが上がる。あえて遠回りしてシューズエリアを通る俺に気づいていない珠凛。
「この靴かっこいいなぁ」
「ねぇ、ユニフォーム探しでしょ!日本代表のユニフォームってどれー?」
「日本のやつは青いやつだよ!」
珍しく買い物で怒られる俺はユニフォームに囲まれた通路をキョロキョロとしながら、壁のポスターに目が止まった。ネーム入り2着以上無料と書いてある。
「ねぇ、珠凛ちゃん!みんなの分も名前入りで買わない?」
「いいよー、みんなお揃いでいいね!」
「オッケー!じゃあ店員さんに言ってくるよ」
青のユニフォームを4着持ちながら、みんなで着るのが楽しみで胸が躍りながら、軽快な足で店員の方に向かった。
「1時間ほどお待ちください」
「わかりました。お願いしますー」
手続きを終えた俺は、振り返ると珠凛はスポーツショップの入り口にいた。どうやら自分の買い物じゃないとすぐに飽きるようだ。
「なかなか書くことが多かったから、時間かかったよ!1時間ぐらいかかるって!」
「えー、そんなかかるのー?じゃあなんか食べに行こうよ」
不満ダダ漏れの珠凛を見て、改めて可愛いと思う。思わず口元を手で隠しながら周りを見渡す。
「前はパフェだよね?今日は…」
「あれがいいじゃーん」
珠凛が髪をなびかせ駆け出した方には、パンケーキ屋さん。入り口には花がたくさん置いてあるから、オープンしたばかりだろう。
「珠凛ちゃん甘いもの好きだよねー」
「もち!なかなかこの辺にパンケーキのお店ないから嬉しすぎー」
生クリームやチョコ、メイプルシロップの香りが食欲を誘惑する。
お店に案内されると店内は女性ばかりで、周りの目線に寒気を感じながら、絶対1人じゃ来れないと唾を飲み込んだ。
向かい合わせに席についてメニューを2人で覗く。
珠凛の微かな香水の匂いが通り過ぎながら、メニュー表の左上のカップル割が気になる。
「珠凛ちゃん何食べるの?」
「これかな?」
珠凛が指さす写真はパンケーキ3枚に生クリームたっぷりでいちごもバナナもフルーツ具沢山のデラックスパンケーキだった。
「マジでこれ食べるの?1人で大丈夫?」
「1人じゃないよ!カップル割あるし、一緒に食べるんだよ」
不意の言葉にドキッと胸を強くうち、顔が赤くなってしまった。恥じらいから、そっぽを見ながら
「俺の決定権ないじゃん」
「ダメかな?」
「全然いいけど!」
珠凛の甘えた声と上目遣いで頼まれたら、断れないじゃん。ますます恥ずかしくなって、ため息を吐きながら両手で顔を隠す。
店員が空気を感じ取って、注文を取りにくる。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「これで!」
俺は店員の顔を見れずデラックスパンケーキを指さすと、食い気味で珠凛が…
「デラックスパンケーキのカップル割でお願いします!」
「カップル割第1号ですよ!おめでとうございます!あとで写真撮らせてもらいますね」
ニコッと笑ってルンルンで厨房に戻る店員を見て
「今なんて言ってた?写真撮るって言ってなかった?」
「これ見て!書いてあるじゃん!カップル割の人は写真をお店に貼るって!しかも1番だってよ!」
「えーーー、なんでーー」
「別にいいじゃーーん!減るもんじゃないんだし!割引されるんだから!」
焦る俺を見て、今日1番の笑顔見せる珠凛。
「ありがとうございました。またのご来店よろしくお願いします」
「ご馳走様でしたー」
お店に外壁に貼られた俺とパンケーキと珠凛の写真。
照れて微妙な顔になっている俺と、芸能人負けしていない笑顔の珠凛がいて、恥ずかしさを感じた。
「あー、お腹いっぱい!たかぴー全然食べれてなかったじゃん!」
「珠凛ちゃんが食べすぎなんだよ!あ、写真2枚もらった」
「めっちゃいいね!部屋に飾ろーっと!」
「そろそろユニフォームも出来たタイミングだし、行こっか」
スポーツショップへ向かう間に、気づけば何人にも追い抜かれていた。甘い香りをまといながら浮かれていた俺。この時間をゆっくり感じていたい。




