第十一話 音もなく消えた火
屋台がどこまでも続く一本道で、浴衣姿の人たちとすれ違う私服の2人。お祭り独特な雰囲気に失望感が漂う俺と優也。
「おいおい、夏祭りで男2人ってやべーだろ」
「彼女いないからしょうがないじゃん」
「貴大は上本さんと行けばいいだろ」
「珠凛ちゃんは、いつもの2人と行くって言ってた」
「前鶴さんも笹川さんも浴衣似合いそうだな!上本さんの浴衣姿見た?」
「見てないな…」
「マジ?着付けのところ見ないとか勿体無い!」
「流石に見てたらやばいだろ」
学校と変わらない優也だけど、終業式ぶりに会ったからか一緒にいるとすごく落ち着く。
そんなことを思いながら、目線は浴衣姿のカップルに目がいってしまう。
「おう!元気かー?」
「イッテ」
横から衝撃によろけそうになる。振り返るとそこにいるのは、涼と前川さんだった。それを見て優也が
「何ー?お前ら付き合ってのー?」
「ちげーよ。あと2人いるけど、はぐれたんだよ」
「女子と祭りとかいいじゃねーか」
俺には絶対聞けない。そして涼の答えに安堵の気持ちになる。
「前川さん、浴衣姿似合ってるね!」
「ありがとー!」
「貴大!俺のはどうよ」
「まぁいつも通りだろ、涼ならなんでも似合うだろ」
「お前テキトーか!はははー」
浴衣姿の前川さんに夕暮れの屋台の背景が、俺の瞬きを早くさせる。そして笑った時に口元を抑える手がドキドキを加速させた。
結局4人で歩いている俺たち、前を歩く優也と涼に俺は
「他の2人と合流しなくていいの?」
「あいつら付き合ってるから、いいでしょ?」
「そうだね、うちらお邪魔かもだし」
前川さんが俺の横で答えるけど、どうしても涼の背中を見てしまう。いざ横にいると照れて顔も見れない。
「貴大君は、あの女の子と来なかったんだね」
「あ、珠凛ちゃんは他の人と行くみたいで」
「2人お似合いだと思うけどな!けっこう2人でいるところ見るしね」
「あぁ、そうかなー」
涼と前川さんは、俺と珠凛ちゃんが家族だということを知らない。
振り向く優也に「言うなよ」と目線で送る。
知ってるのは俺のクラスの人だけで、まだ噂になっていないのである。
「優也!あそこに金魚すくいあるぞ!勝負しようぜ!」
「俺めっちゃ上手いぞ!」
前の2人が金魚すくいに盛り上がり、チーム対抗戦になった。
「そっちめっちゃ強そうじゃん」
「貴大君、私のこと舐めてない?」
「前川さん上手なの?俺マジで下手だよ」
「私に任してー!」
向かい側にいる男たちを見ながら、前川さんの柔らかい腕が肩に触れる感触に、金魚すくいに集中できない。
俺と優也の網は秒で破れるのに、涼と前川さんの戦いがすごいことになっていた。1匹でもすくうのが難しいのに、2人の受け皿に3匹は泳いでいた。
「前川、今何匹?」
「4匹!寺門は?」
「俺、5匹だわ」
「いえーい!2匹ゲット!」
「やべっ!破れた」
涼の網が破れたと同時に、前川さんと目が合って無意識にハイタッチをしていた。
太鼓の音に合わせるように鼓動を強く打ち、柔らかい手の感触が右手に優しく残っていた。
「やったね!貴大君0匹じゃーん」
「前川さん上手すぎー!すごいねー!」
「最高15匹は取ったことあるからね」
「えー!それはやばいね!やばすぎ!」
お祭りと前川さんの浴衣の魔法で、語彙力を失っている俺。
「負けちまったか!ちょっとトイレ行ってくるわ!」
「俺も行くわ!マジで漏れそう」
立ち上がった向かい側の2人は、そそくさとトイレの方に向かって行った。
俺と前川さんはゆっくりと2人を追う。周りから見たらカップルに見えているかな。ちょっとした優越感に浸っていると俯きながら前川さんの口から
「今日、告白しようと思っているの」
「えっ?」
人の声や下駄の音、太鼓の音がどんなにうるさくても、前川さんの声が俺の耳を突き抜けた。
一瞬だけ、俺の名前が来るんじゃないかと思った。
期待なんてしていなかったはずなのに。
「寺門のこと好きなんだ。告白しても大丈夫かな?ずっと前から好きだったの」
周りの音が聞こえなくなっていく。前川さんの顔を赤くしながら、風でなびいた髪を抑える姿に胸が苦しくなった。
「大丈夫だよ!俺、前川さんのこと好きだし、前川さんのこと振る人はいないでしょ!もしダメなら俺が慰めてあげるから」
ダサいのはわかっているけど、ちょっとした足掻きをする俺。冗談で告白したけど、勘違いして欲しい。
「ふふふ、なにそれ!ダメだったら、またジュース奢ってよね!」
「前川さんなら平気だよ!自信持って!」
上手く笑えてるかな?残念な顔してないかな?そんなことで頭がいっぱいで、前川さんとの会話が抜けていく。
「わりぃ、お待たせ」
「優也!あっちの焼きそば食べに行こうぜ!」
「俺も…」
「2人で買ってくるから!じゃあ!」
2人がトイレから戻ってきて、強引に優也を連れ出す俺。別れ際の前川さんの緊張した顔が、胸をさらに締め付ける。
「なんだよ!俺もう食えねーよ」
「急に腹減ったんだよ!1人で買いに行くの心細いからさ」
「なんかお前、落ち込んでね?」
「全然!腹減ったからじゃね?」
「そうか!じゃあ焼きそば買いに行くか!」
俺たちは鳥居の前のベンチで、焼きそばを食べていた。
「結局、涼とはぐれちゃったな!ってか、全然焼きそば減ってないじゃん」
「思ったより食えなかった!」
「あれ?あそこにいるのは上本さんじゃん!横にいるイケメン誰だ?」
人混みの中でもすぐわかる濃い青の浴衣を着た銀髪の女性。その横にいる茶髪の高身長のイケメンと笑いながら歩いている。
「上本さんって彼氏いるの?」
「えっ、聞いたことないけどな」
「あの男、カッコいいな!美男美女でお似合いじゃん」
前川さんとは違う。珠凛は家族なんだ。そう自分に言い聞かせていたら、箸が止まる。
指先の力が抜ける。
焼きそばがゆっくり地面に落ちた。
「おいおい!焼きそば勿体無いぞ!俺の金だし!」
ドッカーン!
自分のやるせない気持ちを表すように花火が打ち上がり始めた。
花火が打ち上がるたびに輝く珠凛。その姿をじっと見ながら、自分の中の火は音もなく消えていった。
「優也、そろそろ帰ろうよ」
「貴大!花火終わってないぞ!」
「男同士で花火見るのもちょっと泣けてくるよ」
「それはこっちのセリフだわ!あはは!」
「いやいや!こっちのセリフ!」
「まぁ来年はダブルデート目指そうぜ!俺はめっちゃ可愛い彼女連れてくるよ!貴大もがんばれよ!」
優也の笑い声に、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。




