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箱庭のアーカディア - FPSプロゲーマーの楽しい幼女生活、あるいは極限のデスゲーム攻略  作者: 彗星無視
最終章 継ぎ接ぎの王

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第95話 『新たな仲間たち』

 *


「聞いてくれ。パンドラを倒すのは、やめようと思う」


 翌朝、ボス部屋攻略のためのブリーフィングで、開口一番にアレンは言った。

 いつもの応接間は人が増えたこともあってソファやら棚やらを外へ出し、机を皆で囲う形になっている。広い窓からカーテン越しの朝陽が差し込む中、一同はアレンの大胆な宣言に、早朝の静けさも破っての大混乱を引き起こされる——

 なんてことは、なく。


「そうですか。ではやはり、和解を試みるということですね」


 シンダーは、わかっていたとばかりにうなずく。

 他の面々も同じだった。


「……へ?」


 困惑したのはアレンだ。てっきり顰蹙を買うのではないかと思っていた。ここまでパンドラを倒すという目標のもとやってきたのだから、それがふつうの反応だろう。

 しかしどういうわけか、〈サンダーソニア〉のメンバーも、それから『スクワッド』も、浮かべる表情に驚きの色はない。まるで事前にわかっていたかのようだ。

 わかっていた——


(もしかして……)


 アレンの脳裏に推論が閃く。代表して疑問に答えたのは、一同の中で最年長の精悍な男性。〈サンダーソニア〉の実質的なサブギルドマスター、シルヴァだった。

 ずっとシャドウ討伐の方に加わっていたためアレンと話すのはしばらくぶりだったが、チームも合流し、今後は肩を並べてバベル攻略に勤しむことになるだろう。


「実は、アレンさんとノゾミさんが来る前、ユウさんから説明があったんでさぁ。アレンさんはおそらく、対話による解決を望むんじゃないかって。おれも最初は耳を疑いましたけどね——」


 シルヴァはちらと、椅子にちょこんと座って、窓の外が気になるのか視線をさまよわせているエルの方を見る。


「——パンドラがエルと同じ立場っていうんなら、倒さずに済む道もあるのかもしれない。孤児院での話を聞いてそう思いましたよ。ま、おれァ死ぬのが怖くて騎士団に入れなかった意気地なしですんで、結局は団長に従うだけですがね」


 誰も、異論はないようだった。

 説得したのはユウだという。アレンは化かされたような気持ちで、深々と椅子に腰かけた彼の方を向く。


「例によって先回りってね。昨日話をして、アレンちゃんが戦闘を避ける道を選び取るのは容易に想像がついた。シンダー君の試算で定めた、町がパニックで機能不全に陥るリミットまで残り二週間だ。ここで議論を交わして足止めになるのも避けたい。なんで、先に根回ししておいた。迷惑だったかな?」

「そりゃあ、助けるけど。いいのかよ。だってお前は」


——つい昨日まで、ユウはパンドラを是が非でも倒さねばならないという立場だった。不確定要素を排除すべく、エルさえも消し去らねばならないと思い詰めるほど。


「あのロシアンルーレットは僕の負けだった。切った張ったはキミのやり方じゃあないんだろう? 仲間だからね、僕もそのスタイルに従うさ」

「なんだそりゃ、お前はそんな物わかりのいいやつじゃない。さては偽物だな」

「んー……エルもそう思う。ユウ、偽物。パチモン。粗悪品」

「なんでそうなるのかな!? 辛辣だなあエルちゃんまでっ」

「だって。エルのこと、まるで、信用していなかった。ユウは非常に疑り深い性格と認識している」


 エルが管理者としてパンドラに与する懸念。それをユウが抱いていたことは、驚くべきことにエルは薄々勘付いていたらしかった。

 ユウは目を丸くして、それから観念したように息を吐く。


「これまでは対話のテーブルに着くビジョンさえ見えなかったし、和解なんて望むべくもないと思っていた。けれど昨日、エルちゃんが第79層で見せた権能……『関数殺し』。あれに加え、僕たちが一丸となって協調すれば、管理者が相手でも対話の隙くらいは作れる。そう思ってのことだよ」

「……じゃあ、その対話がうまくいかなかった場合は」

「その時は抗戦だ。今度こそ、転移者(プレイヤー)と管理者、どっちかが塵になるまでの戦争をする。それはしょうがないんじゃあないかな?」

「まあ、そう言うよな、お前は」


 要するに全面的にアレンに同調しているわけではなく、アレンの望む和解を試みて、結果ダメなら従来の予定通り殺し合いを始めると言っているのだ。

 戦いの前に、アレンが試したいことを一度試すというのが、ユウの譲歩したライン。そして譲ったのはそれのみだった。


「わかったよ。俺だって次善の策を考えないわけじゃない。戦闘になった場合の想定は、当然必要だ」

「そこさえ念頭に置いてもらえてるなら文句はないさ。無血でことが済むのなら、それに勝る結果はない……いや、アーカディアじゃ血は流れないからどのみち無血で終わるだとか、そういう野暮なことは言わないでくれるかな」

「言ってねえよ。誰も」

「あの……しかし、和解の余地などあるのでしょうか? 戦闘の要をアレンさまに任せている以上、その指針に異を唱えるつもりはありませんが、世界のループを実行するパンドラとはあまりにも利害が反しているように思います」

「確かにそう見える。だけどひとつ、俺に考えがあるんだ」


 アーカディアをクリアし、繰り返されるループを止め、現実世界への帰還を目指すアレンたち。

 対するパンドラはそれを阻む立場だ。管理者は文字通りアーカディアのループを管理、運営するために存在する。そのためにシステムに作られた、役割ありきの知性である。

 ……そして、だからこそ。

 いかに逆説的に見えようとも、アレンたちとパンドラはある一点において利害が一致するのだ。


「なるほど。アレンさまの答えは固まっているようですわね」


 シンダーは硬い表情を緩める。それはアレンの考えに従う信頼の表れだ。『スクワッド』の五人も、方針がどうあれ力を貸してくれる姿勢でいる。

——やはり、誰もが望んでいるなんてことはなかった。

 仲間たちの無言の信頼が、アレンの胸に染み入るように伝わってくる。


(俺はただ、自分の夢を取り戻したいだけなのにな……)


 気付けばこんなにたくさんの仲間がいる。〈デタミネーション〉とも違う、同じ夢を抱くわけでもない、しかし目的を同じくする仲間が。

 少し奇妙な感じがしたが、同時に安心めいた温かな気持ちも覚えた。


「……ひとりで思い悩んで悪夢まで見て。まったく、我ながら成長がないな……」

「——?」


 仲間(チームメイト)を頼るなんて、何度も言われてきたことだったのに。

 つぶやきを漏らし苦笑すると、シンダーはなんの話かと小首を傾げる。

 ノゾミはそんな、自嘲しながらもどこか吹っ切れたようなアレンの姿を、昨夜と同じ柔らかな眼差しで見つめていた。


「アレンさまの意志はわかりました。ですがそれも、第100層でパンドラと相まみえて初めて成せること。目下、我々がせねばならないのは、第80層……ボス部屋の攻略になります」

「前置きが長くなって悪かった、ボス戦の話を始めよう」

「ええ。けれど、その前に——シルヴァ」

「はいよ。『前回』だとか、管理者の話はまだしてませんからねぇ。別室で待機してもらってた連中、呼んできますよ」


 唐突にシルヴァは席を立ち、部屋を出て行く。

 どうかしたのかとアレンが疑問に思っていると、ほどなくして戻ってきた。

 その背後に、十人ほどの男女を引き連れて。


「入ってくだせえ。三十人近くも集まると流石に手狭ですみませんがね」

「いえ、問題はありません! 当方のギルドハウスに比べればずっと広いですから!」

「自慢げに言うことですかぁ? ま、俺たちのギルドはそちらの扶助会よりもっと小さいわけですが……建物以前に規模の問題で」


 どうやらそれはふたつのグループであるようだった。

 桃色の髪を後ろでまとめた、背の高いすらりとした女性。それと、彼女とはどこか対称的な、猫背で痩せぎす、陰険さが表情ににじみ出ながらも眼光は鋭い奇妙な男。


「〈アーカディア扶助会〉のサジョーです! シャドウ討伐ではお世話になりました、おかげで当方の団員たちはPPに幾ばくか余裕を持つことができました!」

「あー……自己紹介、やる流れですかねぇ? 〈ドールズハウス〉ギルドマスター、ミゼリー。バベル攻略なんて無縁だと思ってたんですがね……団員たちの希望もあって、微力ながら協力させていただきますよ」


 サジョーと名乗った女性は溌剌に、ミゼリーと名乗った男は気だるげに。挨拶もやはり、反転させた鏡写しの像のよう。

 それぞれ、〈アーカディア扶助会〉、〈ドールズハウス〉というギルドのマスターらしい。あまりその辺りの情勢に明るくないアレンにとっては、どちらも初耳だ。

 けれど話の流れ自体は思い出した。


「そういえば、シャドウ討伐に協力してくれてた人たちに、バベル攻略の勧誘をかけてみるって話だったな」


 サジョーもミゼリーも、団員らしき者を数名後ろに連れている。

 往時の〈解放騎士団〉や、〈エカルラート〉に比べても少数ではあるが——

 今やアーカディアに大規模なギルドなど無いに等しい。アレンは素直にありがたい助力だと思った。

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