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箱庭のアーカディア - FPSプロゲーマーの楽しい幼女生活、あるいは極限のデスゲーム攻略  作者: 彗星無視
最終章 継ぎ接ぎの王

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第115話 『末期の策、最後の弾丸』


「オマエらの手の内は出尽くした。ただの転移者(プレイヤー)に、絞りカスみてえな権能しか使えねえ管理者。おれに勝てるわけがねえんだよ、最初っからな」

「いいや、勝つのは俺だ。もうお前の手は読みきった。初見のユニークスキルへの対処だけが不安要素だったが、『拡張脳』がある以上それも対応できる」

「そんなちゃちな権能でおれの『クラウン』を上回れるとでも思ってんのか? はッ、とんだロマンチストだぜ。この盤面、どう見たって圧倒的に有利なのはおれだろうが!」

「だったらそうやって勝ち誇っていればいい。すぐに思い知るさ。己の策略の浅はかさをな」

「おもしれえ、廃棄物のドン底に落ちても同じセリフが吐けるか試してやるよ。もっともその時にゃあ肉体(からだ)精神(いしき)もぐずぐずに溶けてなくなっちまうだろうけどなぁ」


 勝利を確信してか、ススキの口元が歪む。

 ……同じく、アレンの唇からも白い歯が覗いていた。

 果たしてどちらに利があるのか? この状況、真に優越しているのはアレンなのか? それともススキなのか?

 迷宮に迷い込むように、あるいは開けられない箱を目の前にしたように、パンドラの喉が固唾を呑んで音を鳴らす。

 たとえ答えがわからずとも、もう間もなく結果は訪れる。

 時間というギロチンの刃は、常に無慈悲で、無感情で、下へ下へと落ちるのみ。

 ならば相対するふたりが抱いた勝利の確信は、その片方が必ずや裏切られるのだ。

 手繰り寄せたはずの勝利が忽然と消える、いかにも不可思議な困惑で以て。


「パンドラ、鎖だ!」

「がってんっ! 実行、『関数殺し』——!」


 鎖の音が響き渡る。それと同時にアレンは上方へ跳躍した。

 大きく広間の中を迂回し、ススキに向かって左右から鎖が迫る。

 数はたったの四本だがその軌道に妙がある。単に左右に二本ずつ別れただけではなく、それぞれ一本は蛇のように地を這い、一本は天井に迫る勢いで高く舞い上がる。

 アレンとてそこまで意図して指示を出したわけではなかったが、角度に差を付けて対処を困難にする、鎖の本数を補うためパンドラが考え出した工夫だった。


「芸がねえんだよ三下どもが! 空転しろ、我が王冠——『サクラム・ルクス』!」


 しかしそれも、その男には通じない。

 四方向から迫る鎖をろくに見もせずピストルで撃ち落とし、さらには空中のアレンに向けてユニークスキルの光弾を放つ。


「——『ブラストボム』!」


 飛来する光を、アレンは自爆による急激な移動で回避する。

 わざわざ跳んだのは攻撃を誘うため。先の地面に炎を走らせるユニークスキルを当たらなくすることで攻撃の選択肢を絞ったのだ。

 爆風に巻かれ、アレンは吹き飛びながらもススキの頭上を飛び越える。

 その刹那。

 すれ違う瞬間に、アレンはキングスレイヤーの銃口を眼下へと向けていた。


「……っ!?」


 相手の射線を回避しつつ、自らの射線を確保する奇襲——

 アレンは直後、驚愕と既視感に目を見開いた。そこには、とっさの対応でこちらを振り向きながらピストルを向ける敵の姿があった。

『ブラストボム』による、爆風を利用した自爆移動。その慣性は非常に強く、目で追従することさえ難しい。

 ……常人であれば。

 第12層で雌雄を決したあの時、マグナは反応できていた。

 狙撃銃という近距離を撃つのが困難な銃種であってなお、悪魔じみたフリックショットで撃墜あと一歩の射撃を見せ、アレンの肝を冷やしてみせた。

 そしてススキは、同じプロゲーマーであるアレンの肉体を使っており。その手には、飛ぶ鳥を墜とすには充分な火器がある。

 乾いた発砲音が——ふたつ。ふたりが交差する瞬間に、寸分違わぬタイミングで重なった。


「ちィッ……!」


 銃弾が互いを抉り合う。

 アレンの弾丸はススキの脳天を撃ち抜き、ススキの弾丸はアレンの胸を穿つ。


()ッ、づ——)


 激痛が肺の中を暴れまわり、呼吸を乱す。

 アレンはそれを必死に耐え、一歩、二歩とよろけつつも、なんとか着地に成功。

 視界の端、HPの三割が削れたのを確認しつつ、痛みなど感じていないかのような表情を必死に浮かべ、振り向いた。


「はっ。ヘッドショットの味はどうだよ、偽物野郎」

「別になんともねえよ。たとえヘッドショットを受けようが、『クラウン』のおかげでダメージは軽微だ。ドヤ顔浮かべてんじゃねえ、能天気野郎」


——ひょっとして今、『クラウン』を狙って『王冠砕き(クラウンブレイカー)』を撃っていれば、決着は付いただろうか?

 ふとアレンの胸中にそんな疑問が湧く。


(……まさか。避けられてもおかしくはなかった以上、そんなギャンブルはできない。博打を打つのは俺のやり方じゃない)


 そんな、偶然を乞う戦いなどありえない。

 勝たなければならないのだから、勝つべくして勝つべきだ。

 そう——だからこそアレンは痛みを堪え、なんでもないかのように笑みを浮かべる。あの軽薄で胡散臭く、けれど誰よりも頼りになる仲間のように。


「仮にお前の言う通りダメージが軽微でも、見抜いたぞ。お前のID偽装によるユニークスキルは複数を同時に使えない。もし可能なら、今の俺の射撃はさっきの無敵化スキルで防いで、一方的に俺を撃ったはずだからな」


 時折、ススキの『クラウン』が回る時がある。

 あれはきっと、偽装するIDを切り替えているのだろう。そうすることで使用するユニークスキルをも切り替えている。

 ならば裏を返せば、別のユニークスキルを使うには、『クラウン』の回転が必須となる。

 アレンの推察を、ススキは呆れを隠そうともせず一笑に付した。


「なんだよ、自慢げになにを言うかと思えばそんなことか? むしろ気付くのが遅いっての。初見で気付けよバーカ。一発被弾してもおれの秘密をひとつ暴いて結果オーライ、なんて考えてんのか? 甘党のヤツは考えまで甘ったれだな!」

「甘党は関係ないだろ甘党は……。そうやって余裕ぶってろ。どうせお前の弾丸だってヘッドショットじゃなかったんだ。ダメージは対等だ!」


 ダメージが対等——

 そんなはずはない。『クラウン』の攻撃力・耐久力バフがある以上、アレンがボーナスウェポンでヘッドショットを決めようが、ススキのなんでもないピストルによる胴撃ちの方がダメージは大きい。

 だがアレンは百も承知で言い切る。そして柱の陰に入りながら、銃身を折った。

 中折れ式特有の排莢。勢いをつけて弾倉が露出され、まだ弾の籠っている薬莢もろとも、空薬莢が床に落ちてカランゴロンと高さの異なる音を立てる。

 再装填を念じ、慣れた手つきでアレンは新たな弾を込めていく。

 けれどいつもと違うのは、一息に込めたのは六発分の薬室のうち五つのみだということ。

 最後の一発。回転する輪胴の六発目。


(……分水嶺だ。力を貸してくれ。エル)


 そこへ、最後の策を取り出し、丁寧に指でねじ込んだ。

 終局は視えている。必要な手札はそろっている。

 手中に策。虚空に切り札。楔は打った。

 準備はすべて済んでいて、ならば、迷いも恐れも感じることはなかった。

 失敗が死に直結するとしても——

 今日まで過ごしてきた『今回』が、幾万ものループの上に積み重なり、なにもかもが廃棄物の真っ黒い海の底へと沈み、分解され、消え去り、無機質に書き記されたデータ上のログだけの存在になるのだとしても。

 案じることなどありはしない。

 自らの『鷹の眼(さいのう)』を信じるのなら、失敗など、するはずがないのだから。


「決着を付けよう。返してもらうぞ、俺の体を——俺の夢を。いい加減、MMOは趣味じゃないんでな」

「つれないことを言うんじゃねえよ。どうせ『次回』は記憶だって消えてんだ、飽きていても新鮮な気持ちで遊ばせてやるぜ」


 同じタイミングでリロードを済ませたらしく、空のマガジンを蹴飛ばしながら、ススキは柱越しのアレンを見据える。

 アレンはススキではなく、その後ろを見た。

 ……パンドラだ。今の時間に人知れず位置取りを変えている。ちょうどアレンと、ススキを挟み込むようなポジションを取る。

 まったく気が利いている。アレンはうれしくなって、ついニヤけそうになるのをこらえた。


「空転しろ、我が王冠。『プラズマウェーブ』! 」


 先手を切ったのはススキ。頭上の冠が音もなく回り、周囲に電撃を放つ。

 ばちばちと音を立てて迸る青白い閃光は、特定の対象を狙うようなものではなく、辺りを無造作に、無差別に襲った。床が抉られ、壁がひび割れ、柱が欠ける。

 接近を防ぐ牽制のスキル——だが『拡張脳』を得た今のアレンであれば、電撃のパターンを即座に解析、安全度の高い位置を確保して射線を通すことができる。

 二発、立て続けに発砲。

 狙い自体は正確だったが、例によって『クラウン』の反射神経強化があるために、一発目が肩をかすめる程度の被弾に留まった。

 間髪入れず距離を詰めようとするアレンだったが、再び『クラウン』が空転、多様なユニークスキルがアレンの接近を阻む。

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