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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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帰路




「さあ、帰るか」

ウィスナビアでのやることも終わり、アインズビルへと帰るため別れの挨拶を済ます。


「いつでも来て下さい。お待ちしておりますので」

ウィスナビア領主は微笑む。

「是非。メディオール様もお元気で」

リディオノーレも微笑み返し、領主の隣にいるメディオールに話しかける。

「はい!リディオノーレ様もお元気で!!」

メディオールが元気よく返答してくれた。


本当に可愛い。

思わず口走りそうになるが、グレイザックに小突かれたのでリディオノーレは咳払いで誤魔化す。


「んん、ではこの度はお世話になりました。メディオール様、いつでも手紙書いてくださいね」

リディオノーレは最後にそう言って、ウィスナビアを出立した。






アインズビルまでの道のりは御者台にグレイザックと並びながら、リディオノーレは手綱を握る。


右隣にはもうひとつ天馬車を引くムナグレークと左隣には天馬に跨るバルデミアンがいる。


「夜市の話聞かせてください」

リディオノーレは興味津々でグレイザックに話しかける。

「………」

グレイザックは無言だ。


「どんなお店が出てるんですか?」

リディオノーレは重ねて尋ねる。

「………」

グレイザックは無言でムナグレークに視線を移す。

リディオノーレも思わずムナグレークを見る。


「……………はぁ」

ムナグレークは数拍考えたのち、息を吐いた。

「夜市は何て言うか、大人の場と言いますか。勿論、普通の食事の屋台も出たり、土産物もありますが品揃えが昼とでは変わってきます」

「例えば?」

リディオノーレは尋ねる。


「………大人の場なのですよ」

ムナグレークは彼女の質問には答えず、苦い顔でそう言った。

「でもそういう場はグレイザック様はかなり苦手ではないのでしょうか?」

バルデミアンが口を挟んだ。


「聞くまでもないだろう」

グレイザックが嫌な顔をしながら答えた。

「失礼しました」

バルデミアンがすぐに謝罪する。


その会話で何となく察せられたリディオノーレは首を傾げながら質問する。


「では、何をしに行ったのですか?」

単刀直入に聞くところが怖いものなしの所業である。

ムナグレークが少しビクついた。


「………友人に会いに」

グレイザックは当たり障りのないように答えた。

「!!!」

その答えにムナグレークとバルデミアンが驚いた。

夜市での友人と言えば、女の人を思い浮かべる。


「違うぞ!」

慌ててグレイザックが否定する。

「見た目は女だが、中身は男だ」

グレイザックが説明する。

その慌てぶりにムナグレークがニヤニヤする。


「グレイザック様も男ですからね」

ムナグレークがにやりと笑う。

「………本当にそっちの用事で……?」

バルデミアンが恐る恐る尋ねる。

その質問にグレイザックが目だけでバルデミアンを殺す勢いで睨みつける。


バルデミアンは、そろーっと距離を取った。


「あの、その、生理現象的なやつは、その、気にしないで下さいね」

リディオノーレがしどろもどろになりながら告げた。

その瞬間、グレイザックが思い切り彼女の頭をはたく。


「馬鹿か。女嫌いなのにそんなわけあるか!!」

グレイザックが珍しく大きい声を出す。

「いや、でも………ね?」

リディオノーレはムナグレークを見る。

「え、私に振りますか?」

ムナグレークがすんごい嫌そうな顔をする。


「お前、男女のあれやこれやが分かるのか」

グレイザックがリディオノーレを睨みながら尋ねる。

「うーん………何となく?詳しいことは知りませんが」

リディオノーレは答える。

「じゃあ口を出すな。とりあえず、そういういかがわしいことではない。グレークも誤解されるようなことを言うな」

グレイザックがムナグレークも睨みつける。

ムナグレークは苦笑しながら距離を取った。


「友人という友人ではないが、そいつから魔石を調達しに行ってきたんだ」

グレイザックはため息をつきながら、説明を始めた。

「魔石ですか?アラウィリアでまあまあもらいましたよ?」

リディオノーレは首を傾げる。

「………お前の杖の魔石だ」

グレイザックは少し嫌そうに答えた。


その言葉を聞いて、リディオノーレは目を瞬き、すごく嬉しそうな顔をする。

グレイザックによく気持ち悪い、と言われる表情である。


「いらないなら別にいいがな」

「いります!いります!欲しいです!楽しみにしてます!」

リディオノーレは食い気味に答える。

「魔力の膨張がこれ以上ないと確認できたら調合する。それまで待て。今の杖なら何とか保ちそうだろう?」

グレイザックは尋ねる。


「はい」

リディオノーレは答える。

象の魔石なだけあって、今までの杖と違いすぐに壊れることがない。


「なら良い。アインズビルに帰ったら1人で絶対に動くなよ。グレーク、バルデ」

少し距離を取っていた2人を呼ぶグレイザック。

「アインズビルではリディが1人にならないよう気を付けろ。信じられるのは血判証明をした者のみだ」

「私はしてませんがね」

ムナグレークが言う。


「血判証明と俺の信頼ならどっちがいい?」

「勿論、グレイザック様からの信頼の方が嬉しいですね」

ムナグレークはにこりと微笑む。

逆に信頼で繋がっている2人が羨ましいと思うリディオノーレだ。

「ですが、グレイザック様なら犯人が誰か目星がついているのではないのですか?」

ムナグレークが真剣な顔で尋ねた。


「どうだかな」

グレイザックは唇の端を上げて答えた。

「リディ、くれぐれも注意しろ。お前が狙われているからな」

「分かっていますが、グレイザック様は大丈夫なんですか?」

リディオノーレも真剣な顔をする。

「私ならついでにグレイザック様も狙いますけど」

その発言にグレイザックは少し笑った。


「ああ、俺でもそうする」

グレイザックは笑いながら答えた。

彼はリディオノーレの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。

(本当に勘がいい)

結構重要な資質を持っている。

この思考が出来るということは、敵に回ったときに厄介だが。


「でも、グレイザック様も狙うなんてかなりの命知らずですけどね」

ムナグレークが言う。

「確かに」

バルデミアンも同意し、そして続ける。

「グレイザック様の強さを知らない人なんていないでしょうし」

「リディは戦ってみたいと思いますか?」

ムナグレークが尋ねる。


「グレイザック様と?ですか?」

リディオノーレは目を丸くする。

ムナグレークは無言で頷いた。


リディオノーレはムナグレークを見て、その後グレイザックを見つめた。


「もちろん、戦いたいですね。どこまで師匠に通用するか色々試したいです」

リディオノーレはにやりと笑った。

その答えにグレイザックは苦笑する。

「グレイザック様は?」

ムナグレークが尋ねる。


「俺か?俺も同意見だ。俺の技をどこまで防げるかやってみたい」

グレイザックもにやりとする。


本当に似た者同士だな、とムナグレークは苦笑いになる。


「まあ俺にかなうわけないけどな」

グレイザックは唇の端を上げて、彼女の額を弾いた。

「……気を引き締めろよ」

急に真剣な顔で告げるグレイザック。


「分かってます」

リディオノーレは唇を引き結ぶ。

自分を襲った相手には一矢報いるつもりだ。一矢と言わず、二矢でも三矢でも。


まさかアインズビルが危険な場所になるとは微塵も思っていなかったが。


「まあ俺がいる限り大丈夫だがな」

グレイザックは最後安心させるように言って、アインズビルの方向を見た。


どうやって内通者を処分しようか。


グレイザックは少し意地の悪い顔になった。




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