サムエルからの報告
アインズビルに帰領した4人は、まず領主に視察が終了したことを報告する。
既に天馬合戦の噂が届いていたらしく、領主にすごい笑われたリディオノーレである。
報告が終われば、グレイザックとリディオノーレはすぐさま執務室に戻り、仕事をする。
書類の整理から始まり、グレイザックがいない間の報告をサムエルから聞く。
「あのこと以外は特に変わったことはなかったか?」
グレイザックはサムエルに尋ねる。
「ええ。特に変わりなく」
サムエルはグレイザックとリディオノーレにお茶を淹れながら答える。
「そちらはどうでしたか?無事、お墓参りはできましたか?」
サムエルが尋ねる。
「できました!ウィスナビアと言えば、末っ子のメディオール様がとても可愛いくて可愛いくて」
リディオノーレは嬉しそうに話す。
「メディオール様?あーーー、歳の離れたお子様ですか」
「そうなんです!すごい懐いてくれて」
「それはそれは。グレイザック様は困惑したことでしょう」
サムエルが苦笑する。
「そう言えば、天馬合戦のお噂はもう既に広まっておりますよ」
サムエルが苦笑したまま話を続ける。
「相変わらず楽しんだようで」
「でもウィスナビアとラルシャークは全然でしたよ?アラウィリアは流石でしたが」
「アラウィリアと同等の試合を繰り広げられるだけですごいんですけどね」
サムエルはずっと苦笑いだ。
「お怪我もなくご無事で何よりです。安心しました」
サムエルは微笑み、茶菓子も用意する。
「今日はなるべく早くお休みになって下さい。仕事はたくさんありますから、先に疲れを取っておいて下さいね」
サムエルの指示通り、リディオノーレは仕事を早めに切り上げた。
「リディ」
自室に戻るリディオノーレをグレイザックは呼び止めた。
「?」
手招きされたのでグレイザックの元へ向かう。
彼は無言で小さい紙袋を差し出した。
「??」
リディオノーレは受け取り、中身を見る。
「!」
中身を見て、とても嬉しそうな顔をグレイザックに向けた。
「ありがとうございます!!」
髪飾りと首飾りが入っていた。
毒で倒れたときに市でもらったものを落としたので、きちんとその時の代わりの物を買ってきてくれたようだ。
「出来るだけ付けるように。その腕輪と一緒に」
「何か魔法がかかってるんですか?」
「そうだ。物理防御と毒抵抗と」
その言葉にサムエルはかなり驚く。
何て魔法を組み込んでいるのか。かなり高度であることだけは知っているサムエル。
「そんな簡単にできるものなんですか?」
リディオノーレは尋ねる。
「俺はな」
グレイザックはさも当たり前のように答える。
「……リディ、普通ではないですからね」
サムエルは呆れたように口を挟んだ。
魔法防御と物理防御だけでも十分すごいのだが、毒抵抗はかなり高度だ。
それを付与できて売買すれば、かなり儲かることは違いない。
遠征に向かう騎士や戦に向かう者たちに売れば、ボロ儲けだろう。
「………私じゃ難しいですか?」
リディオノーレは首飾りと髪飾りをつけながら、そう尋ねた。
「お前ならその内出来るだろう。学院で毒関係の書物を読み漁り、魔法陣の改良を行えば出来る」
グレイザックの答えにサムエルはまたもや驚いた。
ものすごい簡単に言っているが、それはもう国家機密というか専門家の領域である。
本当にアインズビル領内に囲っておくには勿体ない人材であることを久々に痛感するサムエル。
王宮勤めの研究者になれば、この国の魔法の底上げになることは間違いないだろう。
そして、そのグレイザックが当たり前のように弟子の彼女にも出来ると言っている。
本当に師弟揃って規格外である。
「学院でやることたくさんありますね!楽しみです」
リディオノーレは笑顔になる。
「蔵書数は国一番を誇るからな。3年しかない間、どこまで読めるか分からんが」
「因みに全部読んだんですか?」
リディオノーレは尋ねてみる。
「………俺は、禁書庫の方に興味があった」
グレイザックは視線を逸らしながら答えた。
「リディは駄目ですからね。禁書庫はきちんと許可を取って入ってください」
サムエルが慌てて口を挟んだ。
その言葉にリディオノーレはグレイザックの視界に映るように体を移動させ、口を開く。
「……前科ありですか?」
リディオノーレは苦笑しながら尋ねた。
「うるさい」
グレイザックは睨みつけ、手で追い払う。
前科ありなら、アラウィリアの禁書庫も余裕で破れるわけだ。
「ゆっくり休め。卒院式と領主会議もあるから、当分忙しいぞ。休めるときにきちんと休んでおけ」
「……それはグレイザック様も、ですけどね」
リディオノーレは小さく呟く。
「なにか言ったか」
グレイザックが鋭く尋ねる。
「いいえ。師匠も早く休んでくださいね。お土産ありがとうございました」
リディオノーレは礼を言って、自室に下がった。
アインズビルの彼女の部屋は常に結界が張ってあるままで、入れる者も限られているし安全である。
執務室から彼女の部屋までは、必ずフェルバールかバルデミアンが護衛につくし、問題はない。
リディオノーレが執務室から完全に遠ざかったのを確認して、グレイザックはサムエルに怖い顔を向けて口を開いた。
「報告を聞こう」
サムエルも怖い顔つきになり、ゆっくりと口を開いた。
「グレイザック様の予想通りのお方でした」
そのサムエルの言葉にグレイザックは嘲った笑みを見せた。
その笑みにサムエルは少し身震いする。
「やはりそうか。一度侵入したきりか?」
「いえ。手紙を出してからもう一度。なのでそこで侵入者を突き止めた次第です」
「俺の部屋だけか?」
「執務室と自室に。リディの部屋は諦めたようです」
「あの魔法陣を破れたら大したものだがな」
グレイザックは意地悪い笑みを見せる。
やれるものならやってみろ、という顔だ。
「あの魔法陣を破れる者はこのアインズビルにはいないでしょう」
サムエルが言う。
「人でない存在なら可能だがな」
グレイザックはサムエルに聞こえないくらいの小さい声で呟いた。
「で、何を探っていた?」
グレイザックは尋ねる。
「そこまでは分からず……」
「だろうな。まあ見当はつくが。カルムクライン関係の書類だろうな。特にあいつの兄の証拠はかなり重要だ」
グレイザックが唇の端を上げた。
特に自身が被った毒に関する記述は、かなり重要度が高い。あれは〝あの雨″が降ったことを示す記述だからだ。
「まあリディの部屋に隠してあるんだがな」
グレイザックは笑う。
あの結界を通れるはずがないからこそのリディオノーレの部屋に隠匿している。
彼女が知っているかは知らないが。
「他に動きは?」
「いえ、特に。かなり慎重です。侵入にもグレイザック様の助言がなければ気付きませんでしたから」
サムエルは唇を引き結ぶ。
日常的に魔法を使う者からしたら想像のつかないとても初歩的な仕掛けをしていたグレイザック。
あらゆる所に粉を塗していたのだ。
皆が寝静まった夜に侵入してきたからこそ、埃だと思い何も気にしなかったのだろう。それに暗闇では見えない。
その粉に指紋がいくつも残っていたから侵入者の存在に気付いたサムエル。
故にそれからグレイザック達が帰領するまでフェルバールと交代で見張っていたのだ。
そして、侵入者が誰か突き止めた。




