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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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墓参りと末息子




ウィスナビアに到着すると、領主を筆頭にたくさんの人が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。グレイザック様」

領主が挨拶をする。

そして、ちらりとリディオノーレを見た。


「リディオノーレ」

グレイザックは名前を呼び、彼女を横に立たせる。


「リディオノーレ、こちらがウィスナビア領主どのだ。礼を述べておけ」

リディオノーレはすぐに跪き、カルムクライン領の半分以上を請け負ってくれた礼を述べる。


「構いません。カルムクラインの前々領主夫妻にはお世話になっておりましたからね。それよりも、やっとお会いできましたね」

領主は微笑んでリディオノーレの手を持って立たせる。


「リディオノーレ様がいらっしゃるのをお待ちしておりました。後ほど例の場所に案内しますので、とりあえずは荷物を置いてきてくださいませ。迎えの者を寄越します」

「頼みます」

そうして、アインズビルの4人は部屋を執事に案内してもらう。


昼の鐘が鳴る前に、領主の側近が迎えに来た。


「ご案内致します」

「グレーク、バルデ、留守番を頼む」

グレイザックとリディオノーレは側近の案内で、ウィスナビア城の真裏の山へと向かう。


「こちらです」

たくさんの墓がある中で、側近は他の墓とは離れた所にある小綺麗にしてある3つの墓へと案内してくれた。


「ごゆるりと」

側近はそれだけ言って頭を下げると、その場を去って行った。


その3つの墓には、リディオノーレの両親の名前と兄の名前が彫ってある。

彼女は墓の前にしゃがみこむ。


持ってきていた花をそれぞれに供えると、手を合わす。

長い間、無言で手を合わし、最後は頭を下げて立ち上がった。


「ありがとうございました」

リディオノーレは待ってくれていたグレイザックに礼を言う。

「……それでいいのか?」

グレイザックは少し怪訝に思いながら尋ねた。


「いいんです。感傷に浸っていると、泣いちゃうじゃないですか」

リディオノーレはからりと笑う。

「……お前がそれでいいなら良い」

「あ、ちょっと待っててください」

忘れてた、と言ってリディオノーレは懐から紙の束を出す。


「何だそれは」

グレイザックの片眉が上がる。

「手紙ですよ、手紙」

リディオノーレはそう言って、兄の墓の前を手で掘り始めた。


「埋めときます」

掘った穴に先程の紙の束を埋める。

埋めたあと、遮蔽の結界をその穴の上に張るリディオノーレ。

これで周囲からは気付かれることがないだろう。


「よし。行きましょう」

リディオノーレはグレイザックの腕を取り、城に戻った。





昼食を4人で摂れば、本来の仕事をする。

アラウィリアでは仕事という仕事をしなかったので、リディオノーレは率先して動く。


夕食までにある程度の書類を確認するリディオノーレ。

領主家族と会食のため、グレイザックが彼女の髪を結いながら書類をたまに覗きこみながら確認している。


「おかしいところは無さそうか?」

髪を結い上げ、髪飾りを挿せばグレイザックは満足そうにして尋ねた。


「……とりあえずは」

収支報告も大体でいいから暗算したが、おかしいところは無さそうである。

「なら良い。さあ、行くぞ」

グレイザックは彼女の手を引く。


「ウィスナビアはラルシャークよりお前に興味がある。堂々としてろよ」

「はい」


準備ができた4人は、夕食の席へと向かった。

改めてウィスナビア領主から挨拶があり、家族を紹介された。


リディオノーレが気になったのは7歳だという末息子である。

とっても可愛いのだ。

目がくりくりとしていて、幼いものの領主一族として頑張っている姿が健気で本当に可愛い。


「リディオノーレ様は、魔法が得意とお聞きしました」

ゆっくりながらも丁寧な口調で話す様子は、母性本能のようなものをくすぐられたらしい。

リディオノーレは終始笑顔だ。


『気持ち悪いぞ』

指輪の魔術具で念話を飛ばすグレイザック。

『グレイザック様、もう少し優しく仰って下さい』

ムナグレークが念話で突っ込む。


そんな会話は無視して、リディオノーレはその末息子と話している。


「他の人よりは少し得意かと思います。でも私の師匠の方がすごいんですよ」

リディオノーレが嬉しそうに話す。

「……私のことはいい」

グレイザックの頬が少しぴくりとなった。


相変わらず、〝俺″と〝私″を使い分けるグレイザックに少し感心してしまうリディオノーレ。

私、と聞くと違和感がありすぎて思わず笑ってしまいそうになる。


「何を聞いても答えてくれますし、知らない魔法は無いんじゃないかと思うくらい博識なのです」

「それはすごいですっ!!」

末息子、メディオールが目を輝かす。


「そうでしょう!グレイザック様はすごいのです」

メディオールはグレイザックの方を見つめる。

グレイザックは少し頬を引き攣らせながら、口を開いた。


「魔法についての質問はリディオノーレに尋ねてください」

『……何で、そんな嫌そうな顔なんですか』

不満そうな顔をグレイザックに向けるリディオノーレ。

『………子どもは苦手なんだ』

グレイザックの意外な発言にリディオノーレは少し目を瞬いた。


初耳だ。


『師匠にも苦手なことあるんですね』

リディオノーレは少しにやりとした。

グレイザックは額を弾けない代わりに、彼女の膝をはたく。


「私がいる間は何でも答えますよ」

リディオノーレはにこりと笑う。

「ありがとうございます」

メディオールは微笑んで礼を言ってくれる。


『可愛いんですけど…っ!!』

リディオノーレの心の声が漏れる。

『黙れ。仕事しろ』

グレイザックに低い声音で咎められ、彼女は少し肩をすくめると、報告書の確認や質問などの仕事を渋々し始めたのだった。


天馬合戦を一戦だけ行うことの了承を得て、ウィスナビアの1日目は終わった。

この感じなら2日後くらいにはアインズビルに帰れそうである。


「いや、ちょっと行きたい所があるから帰るのはそれからになる」

グレイザックが意外な発言をしたのでリディオノーレは驚いた。

相も変わらず師弟2人は同じ部屋で寝る。


「どこに行くんですか?」

「……ここで市が開かれるから買い物だ」

「行きたいですっ!」

「……すまんが、駄目だ」

グレイザックは申し訳なさそうに答えた。


「夜市なんだ。危ない。色々片付いたらいくらでも連れてってやる。今回は俺1人で行く」

「………」

リディオノーレはグレイザックを見つめ返す。

グレイザックは彼女の頭に手を置くと、優しく撫でた。


「全てが終わればいくらでも何処でも連れてってやる。それまで待ってくれ」

「………」

あまり優しく撫でられることがないので、リディオノーレは少し嬉しそうにしながらも唇を尖らせて口を開いた。


「分かりました。また連れてって下さいね」

リディオノーレはそう言って、へら、と笑った。

「……気持ち悪い笑い方をするな」

彼女が嬉しそうな笑みを見せると、グレイザックはいつもそう突っ込む。


「嬉しい顔です!」

リディオノーレは抗議し、お土産お願いしますね、とねだった。

その言葉にグレイザックは彼女の額を弾く。


「当たり前だろうが」

呆れたように言われたが、当たり前に土産を買ってきてくれるという発言にリディオノーレはまた嬉しくなる。


「また気持ち悪い。寝ろ」

グレイザックはため息をつき、彼女に睡眠魔法をかけたのだった。




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