リディオノーレ無双
夕食後、3試合目が始まった。
初めての夜の天馬合戦である。
今日1日でどれだけ魔法を試し、どれだけ訓練したか分からないリディオノーレは回復魔法をかけてから試合に挑んだ。
場所は前に魔獣狩りを行った森である。
試合開始の合図と共に、皆が一斉に隠れる。
光は月明かりのみだ。
「暗視の魔法をかけろ」
グレイザックが指示する。
4人は暗視の魔法を自身にかけると、念話の魔術具をグレイザックに渡される。
本来はただの石のような形で手で握り魔力を注いでいる間、念話が可能になる。
だが、今渡されたのは指輪だった。
「手なら基本魔力を流し続けているだろう。これでこの暗闇でも連絡がとれる」
「……これ騎士団たちが使っているやつですよね。持ってきてたんですか」
ムナグレークが少し呆れたように言う。
「俺がつくったやつだ。魔法防御もかけてある」
「………」
ムナグレークとバルデミアンが魔術具を手に取り、苦笑いになった。
用意周到すぎるし、この魔術具、騎士団で使わせてもらいたい、とバルデミアンは素直に思う。
「うわー。本当師匠の道具はすごいですよね」
リディオノーレは興味津々に指輪を眺め、ぴったりだった中指に嵌めた。
「今回は何でもありだからな。お前も存分に魔法をふるっていいぞ。許可する。但し、殺すなよ」
グレイザックの言葉にリディオノーレはにやりと笑った。
「だが、俺と一緒に動けよ。グレークとバルデは好きにして良い。負けたら念話してくれ」
作戦という作戦じゃないので、ムナグレークとバルデミアンは目を丸くした。
「そんな感じでいいのですか?」
ムナグレークは思わず尋ねた。
その問いにグレイザックは鼻で笑う。
「俺とリディが負けるわけないだろう」
グレイザックがにやりと笑った。
4対20という人数差なのに、何と頼もしい発言なのだろうか。
そして、負ける気が全くしない。
「だがまあ、少しでも人数を減らしてくれると助かるがな。………行け」
グレイザックが命じた。
ムナグレークとバルデミアンは闇夜に紛れて、天馬に跨り、地上を駆け出した。
少し時間が経つと、戦闘の声が聞こえてくる。
「俺が補助する。好きな術を放て。お前には傷ひとつ付けさせない。だから攻撃だけに集中しろ」
グレイザックはリディオノーレをまっすぐ見つめてそう告げた。
何も気にしなくていいのはとても楽である。
「天馬はひとつでいいだろう」
元からその気だったようで、グレイザックは自分の愛馬しか連れてきていない。
彼女が前に座り、グレイザックがその後ろに座って手綱を握る。
「派手にやってもいいんですか?」
リディオノーレは振り返って尋ねた。
「構わん」
「では空から攻撃します」
折角の闇夜を無視し、2人は上空へと駆け上がる。
途中、2人を見つけた騎士たちが矢を放ってきたり、
魔法攻撃をしてきたりしたが、グレイザックが軽くあしらう。
ある程度上に上がったところでグレイザックは天馬を止める。
すごい目立つところにいるので、次々と攻撃が来るが、グレイザックが全て難なく防ぐ。
でもその攻撃のおかげで敵の居場所が丸分かりだ。
リディオノーレは雷撃の魔法陣を取り出した。
魔力を流し、陣を展開させる。
『やるぞ、衝撃に備えろ』
発動させる前にグレイザックが念話を飛ばした。
「トルドゥルッ!!!」
リディオノーレは叫ぶ。
攻撃を仕掛けてきた所を目掛け、雷撃を放つ。
いくつかで呻き声が上がった。
そのままお構いなしにリディオノーレは風刃を放ち、樹々の葉が茂っている上部を落とす。
「うわぁっっ!!」
「死ぬだろっ!!」
悲鳴がまた上がった。
樹々が幹だけになり、隠れている騎士たちが見えるようになった。
リディオノーレは思わずにやりとする。
本当に攻撃だけに集中している。
グレイザックはあらゆる敵の攻撃を防ぎながら息を吐いた。
なかなか鋭くて強い攻撃を受けているのだが、全く気にしていない。
「もう一回、いきますよっ」
リディオノーレはにやりとしたまま、雷撃を放った。
そのすぐ後、彼女たちの方にも雷撃が飛んできた。
「トルドゥル!!!」
グレイザックが雷撃を雷撃で撃ち落とす。
ばちばちと雷が彼女たちの体を少し掠める。
グレイザックは、ぐ、とリディオノーレの体を引き寄せ、自身の腕で衝撃を防ぐ。
アブストールから勝ち取った腕輪をしているグレイザックは、それに衝撃波が当たり、鈍い音が出る。
グレイザックは衝撃が当たったことに少しイラッとしたのか、魔法陣を描き出した。
リディオノーレは彼の魔法陣が完成するまで、攻撃を防御する。
「フランヴェロギッタ!!!」
グレイザックが円を描くように炎の矢を放った。
地上が円形の炎に囲まれる。
その炎にリディオノーレが円の中心に向けて風を送り、焼け野原にしていく。
そのせいで隠れていた騎士たちが天馬に乗って次々と出てきた。
グレイザックはにやりとする。
「風魔法の訓練の成果を見せてやれ」
リディオノーレは風で石を3つ浮かせた。
訓練よりは少し大きめの石である。
最低限の魔力で繊細に完全に操れるのは3つのみだ。
飛びかかってくる騎士の横っ腹に石を3つまとめて叩き込む。そのまま風で力一杯押しながら横薙ぎに5人払う。
5人まとめて落ちていくのを視界の端で見ながら、リディオノーレはまた石を操る。
前衛に剣を持った騎士が3人。
後衛に魔法を放つ騎士が3人。
剣を持っている3人に向かって、リディオノーレは石をそれぞれの剣にぶつける。
刃に当たって剣が飛ばされそうになった騎士が1人。その騎士に向かって3つの石をまとめてぶつけようとする。
だが、その騎士を守ろうと後衛の騎士が盾を展開した。
その盾を破るため、グレイザックは風で竜巻を起こす。一点だけを狙い、グレイザックの魔力を叩き込めば、盾なんていとも容易く砕け散る。
「っっ!!!」
盾が破られ驚く騎士たち。
その驚いた瞬間を狙い、リディオノーレは石を後衛の騎士の手にぶつける。
杖を手離してしまって落ちていくのを見て、リディオノーレは杖をまっすぐ向けて口を開いた。
「降参してください」
杖が落ちた騎士は両手を上げ、地上に降りていく。
その入れ違いに下からすごい勢いで駆け上がってくる騎馬がいる。
「グラティパーダ!!!」
グレイザックはすぐさま杖を大剣に変え、駆け上がってくる騎士の剣を受ける。
ライムグートだ。
そのライムグートの背後に1人隠れており、その騎士が剣を手に跳躍した。
「アブストール!!!」
グレイザックは驚き、名を叫ぶ。
グレイザックはライムグートの剣を受けている。
なら、飛び出したアブストールの剣を受けられるのはリディオノーレだけだ。
操っていた石を捨て、彼女は風でアブストールの四肢を押し返す。
右腕、左腕、右脚、左脚を風で受け止める。
動けなくなったアブストールは空中で止まっていた。
リディオノーレが風を解除すれば、そのまま落ちていくだろう。
「負けを認めろ、アブストール」
グレイザックはライムグートの剣を押し返しながら、彼に告げる。
ライムグートも負けじと力を込めてきた。
「………負けだ」
アブストールは悔しそうに呟く。
リディオノーレは左腕の風を解除し、その風で鈴を取る。
彼女の手に渡ると鈴が割れて、赤い光が上空に放たれた。
「終了ーーーーっ!!!!」
審判の拡声された合図で天馬合戦が終わった。




