剣と魔法の訓練
2試合目が終わり、リディオノーレは訓練場に残って反省会だ。
「一回くらいは負けておくべきですね」
バルデミアンが進言した。
そういえば、負けなしでここまで来ていた。
「だが、これで剣の鍛錬が足らないことが露見したな」
グレイザックは言う。
「ですが、そんな短期間で剣は上手くなりません」
ムナグレークが庇ってくれる。
「だから、やるぞ」
グレイザックは腕を組む。
「先程試合をしたばかりですよ?いくら何でも厳しいのでは?」
ムナグレークが庇ってくれるので、リディオノーレは彼の後ろに隠れる。
「……お前、えらくリディに優しいじゃないか」
グレイザックが片眉を上げた。
「何だかんだ頑張っているのを知っていますからね」
ムナグレークは息を吐く。
「多分、なんですけど」
ムナグレークは言葉を続ける。
「恐らく、リディは武器だけの天馬合戦をする意味が分からないのだと思います」
ムナグレークは後ろのリディオノーレを少し見てから、そう告げた。
リディオノーレは彼の言葉に小さく頷く。
「ここまで魔法が使えるのですから、魔法で天馬合戦をするのが1番効率良いのを知っているため、武器の鍛錬は非効率だと思うのでしょう」
ムナグレークの発言にリディオノーレは後ろでうんうんと頷く。
「………」
グレイザックは腕を組んだまま睨みつけた。
リディオノーレは「ひっ」と声を漏らす。
「お前は魔法が使えない状況を考えたことがないのか」
グレイザックが見下した目で彼女を見やる。
「魔力を封じられたらどうする。肉弾戦しかないだろう。だから訓練するんだ」
「……………」
バルデミアンとムナグレークは顔を見合わせた。
そんな理由で訓練していない。
色んな将来がある中のひとつとして騎士関係の仕事に就く者が多いため、基礎基本を学院で教える。
魔力が少なく術が苦手な者でも騎士になれるという道を示している。
まさか魔力を封じられる可能性を考慮して、武器の扱いを訓練するのでは決してない。
「魔法が使えなければ、お前はただの人だ。一般人だ。平民と変わらん。田畑を耕して筋肉をつけている農民の方がまだ戦えるだろう」
グレイザックはリディオノーレをまっすぐ見据える。
「魔法が使えなくなったとき、どう戦う。いつでも魔法が使えると思うなよ」
「…………すいませんでした」
リディオノーレは唇を引き結び、謝った。
そんな風には考えたことがなかった。
自分の甘さに項垂れる。
「色んな可能性を考えろ。自分が魔法が使えなくなって、相手は魔法が使える。そんな時どうする。どうやって戦うんだ。色んな状況を考慮しろ。策はいつ何時でも複数は用意しておくべきだ、と言っただろう。それと一緒だ。技は多ければ多い方がいい」
グレイザックの説明に彼女はとても納得がいった。
そんな様子を見て、ムナグレークとバルデミアンは苦笑いになる。
一体、グレイザックは何を考えているのだろうか。
魔法が使えなくなる状況を考えて訓練しているのだろうか。
真意を聞きたいところである。
「今の説明でとても納得がいきました。何があるか分からないからこそ、ですね」
「そうだ」
「ひとつお聞きしたいのですが、いいですか」
リディオノーレは気になったことがある。
「何だ」
「………魔法が使えなくなったことがあるんですか?」
「……それはない」
グレイザックが苦い顔で答えた。
「………それに近い状況はあったと」
リディオノーレは目を瞬きながら発言した。
「師匠にそんな術をかけようなんて、なかなかの命知らずですね」
リディオノーレが苦笑し、続ける。
「よく知らないんですが、魔力封じの術があるんですね」
「ある。罪人用にな」
グレイザックは唇の端を上げて答えた。
「かなり複雑で、そういった仕事を生業にする者にしか教えられない術がある。もし外部に漏らしたら死刑となる術だ」
グレイザックの説明にリディオノーレが身震いした。
なんて怖い術なんだろうか。
「その術は流石の師匠も知りません、よね?」
リディオノーレの問いにグレイザックはにやりと笑った。
「………」
リディオノーレは思わず乾いた笑みになる。
まさか。
流石に有り得ないと思いたいが、なんせグレイザックだ。グレイザックは規格外である。
「これでやる気が出ただろう?やるぞ」
グレイザックは命じる。
基本は素振り。
グレイザックが終わりと言うまでひたすら。
重さを変えられながら。
昼食も訓練場に運んでもらい、昼食後はバルデミアンと打ち合ったり、あっという間に時間が過ぎていった。
「よし」
納得いったのか、グレイザックは終了を命じた。
リディオノーレは息を吐いて、剣を解除する。
「次は魔法だ」
「!!」
リディオノーレは口をへの字に曲げた。
まだ訓練をするつもりなのか。
「今のお前なら簡単だと思うが」
グレイザックは彼女を少し睨みながら、杖を取り出す。
「バルデ、グレーク、両手の平を上に向けて出せ」
2人は指示された通りにする。
「1つずつ風で操った石を乗せろ」
グレイザックは見本を見せる。
リディオノーレも同じように難なく石を彼らの両手に乗せた。
「次。片手にしてくれ」
乗せる範囲が狭まった。
でも片手くらいの大きさなら、そこまで苦労することなく乗せられてリディオノーレは安堵の息を吐く。
「ここからだ」
グレイザックは唇の端を上げた。
その表情に彼女は身構える。
「指一本だけにしてくれ」
石を乗せる範囲が急激に狭まった。
「でも、今使ってる石じゃ大きすぎて指になんか乗りませんよ?」
リディオノーレは少し首を傾げる。
「そうだ。だから落ちないように風で支えろ。天馬合戦のとき出来ていたじゃないか。4つの石を操っていただろう」
「何となくです。風で適当に浮かせてただけです」
「たくさんの魔力を使うのではなく、最低限の魔力で出来るようになれ」
グレイザックがそう言うと見本を見せる。
「……それ今、どうやって指の上の石を支えているんですか」
リディオノーレは眉間に皺を寄せて尋ねた。
「風を上下左右から当てたらそこにとどまる。石が回っているのが分かるか」
リディオノーレは近づいて石を見つめる。
言っている通り、くるくると回っている。
彼女も石を1つ操ってみせる。
「1つなら出来るだろう。でもお前はそこらの風全体で操っている印象だ。じゃなくて石の周りだけ、最低限の風で操るんだ」
リディオノーレは小石の周囲だけに風を当てる。
が、右から風を当てたら左に流れる。
それを止めるために左からまた風を流すと反対に行ってしまう。
両側から風を流したいのだが、それがまた難しい。
石全体をふんわり包む感じならできるのだが。
「それだと消費魔力が増える」
リディオノーレの今の石の状況を見て、グレイザックが告げる。
「………どうだ。繊細な魔力の流し方は面白いだろう」
グレイザックは余裕で石を操ってみせる。
石をぐるぐると自分の体の周りに纏う。
「バルデ、グレークもやってみろ」
グレイザックに言われ、急遽3人で石を操る練習が始まった。
「すいません、風を起こすのは出来るのですが、どう操るのですか」
バルデミアンが苦い顔で尋ねる。
「石だけに当てる感覚だ。はじめは大きい石からの方がいいかもしれん」
グレイザックは助言する。
「グレイザック様、これはものすごい集中しないとできません。戦いの最中にできるようになるには、かなり時間を要するのでは」
ムナグレークも苦い顔になる。
「それを無造作にできるようになるのが目標だ」
グレイザックはそう答え、3人は頑張って励むが、ムナグレークとバルデミアンは早々に諦めた。
リディオノーレはものすごい集中力を発揮するが、なかなか上手くいかない。
でも諦めずに挑戦し続けるさまに男たちは感心する。
「……どうだ」
グレイザックは彼女の肩に手を当て、尋ねた。
リディオノーレは唇を引き結びながらゆっくりと口を開いた。
「………難しいです。けど、………面白いです」
リディオノーレのその答えにグレイザックは唇の端を上げた。




