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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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剣の訓練




「……っ」

剣で打ち合っている手だけを狙うのはかなり難しい。

何より、こんな集中したことがないくらいの神経を使う。


だが、少しずつ操作が上手くなっているのが分かる。

ムナグレークも何となくだが、彼女の操る石の攻撃に合わせ、剣を振るえるようになってきた。


「ちいっ!!!」

ムナグレークの相手をしている騎士の1人が剣を落とした。

その瞬間を狙って、ムナグレークはその騎士の腹に剣を叩きこむ。

もう1人の騎士は慌てて距離を取ろうとするが、リディオノーレの操る石に手綱を握っていた手を攻撃される。


ムナグレークは、慌てる騎士にそのまま攻撃を仕掛け、降参させた。


「私が、バルデミアン様の加勢をします。グレーク様が鈴を狙ってください」

リディオノーレは指示する。

ムナグレークは遠くで見守るライムグートに突っ込んで行く。


リディオノーレはすぐさまバルデミアンの加勢に向かう。

今回は風を上手に操ることを自分の課題にしている。

また石を浮遊させて風で操作するのだが、ムナグレークへの加勢でかなり神経を使ったため、彼女はそこそこ疲れていた。


「……っ!!」

先程と違って上手く出来ない。

少しでも違うことを考えるとバルデミアンに当たりそうになる。


「無理っ!!!」

リディオノーレは思わず叫ぶ。

苛々してしまう。


「最後までやり遂げろ」

グレイザックが静かに口を開いた。

いつの間にか近くまで来ていた。


「っ!」

リディオノーレは唇を引き結び、風の操作に集中する。

騎士の動きに合わせ、バルデミアンに当たらないように剣を握る手を狙う。


手の甲、指先、そして剣に当てて落とすように仕向ける。


「そうだ」

グレイザックが彼女の後ろに来ていて、風の操作に助言する。


「バルデが剣を打ち込む。それに合わせて石を剣に当てろ」

グレイザックが指先を見本のように動かす。

リディオノーレはその指先の動き通りに杖を振るう。


「そうだ。バルデの動きに合わせろ。相手の動きは気にするな。バルデに合わせろ」

打ち込む、薙ぎ払う、振りかぶる、色んな動作をするバルデミアンをひたすら目で追いかけるリディオノーレ。


「いいぞ、合ってる。集中を切らすなよ」

グレイザックは指先を動かしながらそう話す。

リディオノーレは集中しすぎて、返事すら出来ない。


彼女の執拗な手への攻撃に騎士が剣を落としそうになる。その隙を見逃さなかったバルデミアンは、思い切り剣を打ち込んだ。


「やった!!」

リディオノーレは思わず声を上げる。

騎士の1人が剣を落とした。

あと1人。


「……………そこまでっ!!!!!!」

拡声魔法をかけたアブストールの声が急に響き渡った。


驚いてリディオノーレはビクッと体を震わせて、天馬から落ちそうになった。

グレイザックが慌てて、彼女の服を掴んで体を支える。


「???」

まだ鈴を取っていないのに何故。

リディオノーレはグレイザックを見上げた。

グレイザックはライムグートの方に顎を向けた。


指示された通り、ライムグートの方を見てみると彼が鈴を手に両手を上げていた。


「降参らしい」

グレイザックはそう説明してくれた。

リディオノーレは少し目を瞬く。


「終わったんですね」

リディオノーレは一気に気が抜けて、天馬にもたれかかった。

「大丈夫か」

「……集中しすぎて疲れました」

リディオノーレはもたれかかったまま、苦笑いで答えた。


「……ああ。よくやった」

グレイザックは唇の端を上げて褒めた。






1試合目が終わり、アインズビルの4人は部屋に戻らず、訓練場にいた。


「魔力は?」

グレイザックがリディオノーレの額を触って尋ねた。

「まだ大丈夫です」

「熱もないな」

首も触って確認する。


「今のところは大丈夫です」

「みたいだな。訓練が終われば、一応回復薬を飲んでおけ」

「はい」

グレイザックとムナグレークが見ている中、彼女は約束通りバルデミアンと剣を構える。


「行きますよ」

バルデミアンが剣を振りかぶる。

リディオノーレは剣を横にしてそれを受ける。


腕に魔力を流して力を増やしているのに、バルデミアンの剣が重い。


「口を出してもいいか?」

踏ん張っているリディオノーレに向かって、グレイザックが話しかけた。


「なん、ですかっ」

なかなか剣を払えないリディオノーレは腹立たしげに返事する。


「バルデ、もう一回最初から同じようにしてくれ」

グレイザックが指示すると、バルデミアンがリディオノーレから離れた。

急に剣の重みがなくなって、リディオノーレはホッと息を吐く。


「リディ、横で受けるのではなく縦に構えたまま受けろ。バルデ、来い」

グレイザックが彼女に少し助言をしたのち、バルデミアンが剣を振りかぶる。


リディオノーレは助言通り縦に構えたまま顔の前で剣を受ける。

刃が顔の前にあるのでなかなかに怖い。

そして、バルデミアンの方が剣が重いため、負けそうになる。


「今、バルデに押されてるだろう」

グレイザックが2人の様子を見ながらリディオノーレに話しかける。

リディオノーレは大きく頷く。

ここからどうしたらいいのか分からない。


「そのバルデの勢いを利用し、そのまま自分の体の片側に剣を流せ。剣はそのまま、右足を引いて体を斜めに」

リディオノーレは指示通りに動く。

「相手の剣を絡みとる感じで地面の方に押さえつけるように流す。だが、すぐさま相手も反応してくるから自身の剣を縦に下向きに構えたまま後ろに飛び退け」


リディオノーレは魔力を少し多めに流し、バルデミアンの剣先を下に向けることに成功した。

目線を剣から離さないように体を捻り、言われた通りに剣を下向きに構えたまま後ろに飛ぶ。

そのとき、バルデミアンが下から斜め上へ剣を振るい、彼女の剣に掠る。


後ろに飛んで距離を取ったリディオノーレは驚いてグレイザックを見た。


「お前は力が元々ない。なら、流せ。ただ、流したあと反撃されるからきちんと自身を守りながら距離を取れ」

「はい」

的確な指示にリディオノーレは頷く。


「騎士団で何していた。力押しか?」

グレイザックはバルデミアンに尋ねる。

少し怒った風に。

リディオノーレは庇うようにして声を張り上げた。


「鞭の練習をしてたんです」

「剣はあれから全然やってないのか」

「ごくたまにやってました……」

リディオノーレは尻すぼみな返事になる。

その言葉にグレイザックはため息をつく。


「じゃあ次は負け試合だと思っておけ。その中で剣の腕が今どれくらいなのか確認しておくこと。次の試合までに今から俺が指導するからな」

グレイザックがそう宣言し、その言葉通り、夕食までの時間ひたすら練習をさせられたリディオノーレだった。


夕食を摂り、湯浴みも済ませるとリディオノーレは寝台に突っ伏した。


「ちょっとは何か掴めただろう」

グレイザックは書類仕事をしながら彼女に話しかけた。

「………多分」

リディオノーレは呟く。

ほぼ1日、体じゅうにいつもより多く魔力を流していたため、少し反動がきていて体が怠い。


「……騎士たちより、教えるの上手すぎませんか……」

リディオノーレは枕に顔を埋めながら、目だけグレイザックに向ける。

その言葉に彼は鼻で笑った。


「俺を誰だと思ってる」

「……ですよねー」

リディオノーレは苦笑する。


「要練習だな。学院では剣が主流だ。たまに弓矢もいるが、全員剣を扱えるように鍛錬している」

「分かってるんですけど、剣は向いてないんですよねー」

リディオノーレは唇を尖らせる。


「教え方が悪いんだろう。体力と鞭に関しては引き続き騎士団にやってもらえ。剣は俺がやる」

「………」

リディオノーレは顔が引き攣る。


「何だその顔は」

絶対に厳しい指導になることは違いない。

容易に想像できるからこそ、彼女は顔が引き攣った。


「剣もある程度は使えるようにしておけ。なんせ、俺の弟子だからな」

「……師匠が凄すぎるんですよ」

リディオノーレはため息をつく。

「その師匠に認められ、引き取ってもらったんだから文句を言うな」

グレイザックは彼女の額を弾き、睡眠魔法をかけてやる。


寝息が聞こえてきたところで、回復魔法もついでにかけてやる。



グレイザックは書類を整理し、横になろうとしたときに、外から声が聞こえた。

「………我が主」

グレイザックは窓を開け放つ。

器用に壁をよじ登っている彼の使役獣、狼のケネスがいた。


「どうした」

彼は驚き、ケネスを部屋に招き入れる。

使役獣であるケネスと番のフィリアはアインズビルに置いてきたはずだ。

なのに、何故ここに。


「サムエルからの手紙だ」

ケネスは首にくくりつけてある手紙を示す。

グレイザックは受け取ると、素早く目を通す。


その内容を見て、グレイザックは嘲笑した。


「ケネス、疲れているだろうが帰れるか?」

グレイザックは返信を書きながら尋ねる。

「大丈夫だ」

「なら、これを頼む」

グレイザックはケネスの首に手紙をくくりつける。


「内容を聞いても?」

ケネスは窓から出る前にグレイザックに尋ねた。

「あぁ。この視察の間に一度、リディの部屋に忍びこんだらしい。あと俺の部屋と」

グレイザックが嘲りながら答えた。

ケネスはその事実に目を瞬く。


「命知らずだな。我が主の部屋に侵入するとは」

ケネスも人間のように嘲った笑みを見せた。

「ああ。そうだろう。とりあえず、それには待機を命じた。尻尾を掴ませてほしいものだな。ケネスも攻撃はしなくて良い」

「分かった」

グレイザックの命にケネスはそう答える。

「では、頼んだ」

ケネスは颯爽と窓から飛び降りて、闇夜を駆けて行った。


ケネスの姿が見えなくなった所で、グレイザックは前髪をかきあげて唇の端を上げた。


カルムクライン関係の書類はそんなすぐに見つかる所には置いていないし、見つかったとしてもグレイザック以外が触ると燃えてなくなる。


第一、アインズビルにグレイザックの術に対抗できる者なんていないから心配はしていない。

グレイザックの術に対抗できるのなんて、彼の師匠くらいなのだから。




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