調整しながらの天馬合戦
翌日、朝食を摂ればリディオノーレはバルデミアンと図書室にこもる。
グレイザックはムナグレークと共に仕事をこなしていた。
「勝てると思いますか」
リディオノーレは本をあさりながら、バルデミアンに尋ねた。
まさかリディオノーレがそんな台詞を吐くと思ってなかったので、彼は目を丸くした。
「……珍しいですね。弱気ですか?」
「弱気、というより、ギリギリかもしれない、と思ってます」
「どうしてですか?」
「私は別にそこまで進歩してないですから。出来るようになったことと言えば、魔力の微調整です」
リディオノーレは次々と本をあさりながら答える。
「でも」
リディオノーレは本を閉じ、唇の端を上げてバルデミアンを見た。
「負ける気はないですよ。魔力の調整を上手くするのが今の私の課題なので、それを実践してみます」
「無茶はやめてくださいね」
「もちろん。あ、2試合目の武器のみの試合のために後で付き合ってもらっていいですか」
「私で良ければ。でも、リディの武器は鞭では?」
バルデミアンが疑問を口にする。
鞭と剣ではどこまで上手に相手できるか分からない。
鞭を扱う者が殆どいないから尚更である。
「鞭はどうしようか迷っているんです」
リディオノーレは困った顔で告げた。
「どうしてですか」
「鞭が自分に向いてるのは分かっています。ですが、それだけ練習していては駄目ですよね。師匠は色んな武器が使えますし」
「……グレイザック様は特別かと」
バルデミアンは苦い顔になる。
グレイザックを基準にされると正直困る。
基本は慣れた武器だけを極めるのだから。
「でも、私の師匠はグレイザック様です」
リディオノーレはそう告げる。
「貶されない為には普通では駄目なんです。アラウィリアは丁度色々試すのに向いてるので、どこまで自分が出来るようになったか確認したいと思ってます」
「では、剣で挑むつもりですか?」
「一応、そのつもりです」
リディオノーレは頷く。
「分かりました。練習に付き合いましょう」
剣ならバルデミアンの方が断然強い。
「ありがとうございます。魔法に関しては、試合の中で調整しながら魔力を流せるのか試したいと思っています」
「なかなかに難しいことをなさるんですね」
試合の最中に魔力量を調整するのは至難ではなかろうか。
「瀕死になってまた魔力が増えたと師匠が言ってたので、今の最低限の魔力でどこまでの術が放てるのか確認します」
「それは確かに大事ですね」
魔力は温存するに限る。
「なので、前のアラウィリアの合戦よりは少々ぎごちない感じになるかもしれませんが許してください」
「分かりました。……もうそろそろ昼の鐘が鳴りますが、調べ終わりましたか?」
「大丈夫です。行きましょうか」
2人は部屋に戻って、グレイザックとムナグレークと合流して昼食を摂ると、訓練場へと向かった。
既に観客がたくさんいて、リディオノーレはかなり驚いた。
審判はアブストールがつとめるようでアラウィリアの指揮官はライムグートだ。
1試合目は4対10で攻撃魔法だけなしである。
各々が天馬に跨り、鈴を持っている者が先に上空へと駆け上がる。
今回の鈴は、ライムグートとグレイザックである。
そして、ムナグレークとバルデミアンが杖を剣に変える。
アラウィリアにはなんと、杖のままの騎士が5人いる。
まさか杖のままが5人もいると思ってなかったので、リディオノーレは驚いた。
彼女の驚きにライムグートがにやりとしたのが見えた。
「では………始めっ!!!」
審判のアブストールが声を張り上げた。
一斉に皆が上空へと駆け上がり、駆け上がりながらリディオノーレは風呪文を放つ。
「ヴァンビエ!!!」
全体にぶつけるわけではなく、少人数を目掛け、しかも天馬に当たらないよう人だけに風をぶつける。
これがまた難しかった。
狙っている所に狙い通り当てるのはなかなか神経を使う。
故に威力が半減してしまい、軽々と避けられた。
「っ!!」
リディオノーレは悔しそうな顔をする。
そんな彼女を離れた所で見ているグレイザックは、「ほぉ」と感心の言葉を漏らす。
グレイザックは彼女がどこまで出来るか楽しみになった。
リディオノーレの不発な風魔法にアラウィリアは少し驚いた顔をしたが、お構いなしに5人全員が風魔法を叩きつけてきた。
流石に5人全員の魔力を込められるとかなり重い。
吹き飛ばされる前にリディオノーレが全力の風魔法で押し返す。
そしてもう一度人だけ狙って風魔法を放つ。痺れ薬と共に。
今度は上手に風を操ることができて、3人痺れさせることができた。
「よし」
リディオノーレは拳を握る。
グレイザックは遠目で見ながら唇の端を上げた。
ムナグレークは騎士たちと剣を交えながら少し驚く。
バルデミアンも目を見張ったのが見えたムナグレーク。
今、彼女は風を操った。
気付いた者はどれくらいいるだろうか。
ムナグレークは思わず笑ってしまった。
この最中にそんな繊細な術を放てるのは凄すぎる。
「なに、笑ってる!」
ムナグレークと対峙している騎士が激昂しながら剣を振りかぶる。
ムナグレークは難なく躱して、お腹に剣の峰を叩きこむ。
「ぐ……っ!!」
その騎士を庇うように他の騎士が2人がかりで襲ってきた。
ムナグレークは手綱を捌き、距離を取る。
当たるか当たらないかくらいの距離でムナグレークは2人の騎士を相手取る。
手綱捌きはいつ見ても綺麗だ。
バルデミアンはというと、剣を打ち合い、躱し、逃げ、また打ち合い、の繰り返し。
こちらも2人相手取る。
今鈴を持っていない者が2人ずつ対峙している状態である。
「シュテジアンテ」
リディオノーレは杖を振り、小石を浮かす。
但し、数は4つほど。
「それは前も見た!」
彼女を相手している騎士が叫ぶ。
確かに同じ技を披露したが、今回もそうとは限らない。
騎士たちも「シュテジアンテ」と杖を振り、軽く見積もっても10個以上の石を浮かせた。
そして、見つめ合った後、同時に叫んだ。
「ヴァンビエ!!!」
騎士たちが石を風魔法でリディオノーレにぶつける。
リディオノーレは風を操りながら、自分が浮かせた4つの石を騎士たちの石にぶつける。
それでも上手に捌ききれなかった石がリディオノーレにぶつかるのだが、彼女の体に触れようとすると石が弾け飛んだ。
まるで何かに守られているみたいに。
グレイザックからもらった腕輪が反応している。
どうやら盾になっているようだ。
彼女はその効力に驚くが、相手の騎士たちの方が驚いていた。
リディオノーレも驚きつつ、風を操る。
杖と風が見えない何かで繋がっているような感覚で、繊細な調整をしながら石を動かし、騎士にぶつけた。
手綱を握る手を執拗に狙う。
その様子を見ているグレイザックは、口角が上がるのを止められなかった。
正直、この短期間でここまで出来るとは思っていなかった。
グレイザックから見ればまだまだ甘いが、魔法を操れる奴なんて数えるほどしか会ったことがない。
期待を裏切らない彼女に、思わず表情が緩んでしまうのが止められないグレイザックだった。
手綱を握る手を石で執拗に狙うリディオノーレの攻撃に、騎士たちが距離を取る。
「ちっ」
リディオノーレは珍しく舌打ちをした。
距離を取られると風を操るのがしんどくなる。
4つの石を風で操るだけでかなり神経を使っているのにこれ以上長引くと保たない。
どうするか。
リディオノーレは手のような小さい的ではなくお腹を目掛けることにした。
「ぐっ!!」
リディオノーレが操る石がお腹に直撃する。
小石だが、勢いよく当てられるとかなり痛い。
手を狙われなくなったため、その2人の騎士は杖を振るおうとする。
その瞬間、リディオノーレは風を操るのをやめてこう唱えた。
「バニヴィアン!!!」
操っていた石は落ち、代わりに騎士2人の杖が彼女の元に飛んできた。
「くくっ」
グレイザックは思わず、声を出して笑った。
意外な術に杖を取られた2人は唖然としていた。
「では、お休みなさい」
リディオノーレは睡眠魔法をかけた。
その間、ムナグレークとバルデミアンは互角の戦いを繰り広げていた。
リディオノーレがそれに参戦しようと、先程と同じように小石を浮かす。
4つ操るのはかなりしんどかったので、次は2つにしてみた。
2つだけならやりやすい。
リディオノーレはまず、ムナグレークの相手をしている騎士たちの、剣を握る手を狙う。
得物さえ落とせば、こっちの勝ちだ。
彼女を相手する敵はいないので、今なら集中して手を狙える。
リディオノーレが目を見開き、かなり集中して風で石を操り始めた。
いつぞやの図書室で調べ物をしているときのような集中っぷりである。
グレイザックはまた口角が上がる。
今、彼女に攻撃をしたら一瞬で落とせるのだが、腕輪の防御魔法があるためライムグートは手が出せない。
それにもし、今のリディオノーレを襲うものなら、グレイザックが完全に守りきるつもりである。
(やってしまえ)
グレイザックは唇の端を上げた。




