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グレイザックとリディオノーレはまっすぐ見つめ合う。
「……正直、それが1番手っ取り早いですよね?」
リディオノーレが尋ねる。
「………そうだな」
グレイザックは同意する。
「もらったこの腕輪もありますし、大丈夫ですよ」
リディオノーレはグレイザックからもらった金の腕輪を見せる。
「いや、それでは不十分だ」
グレイザックは考え込む。
「だが、確かにお前の案が1番手っ取り早い」
「ですが」
バルデミアンが反論する。
「分かっている。お前の言い分も分かる。………囮の件に関しては保留だ。万全の対策が出来そうなら、もしかしたら頼むかもしれない」
グレイザックはリディオノーレを見つめる。
「………できるか?」
「もちろん」
リディオノーレは軽く答える。
「怖く、ないのか?」
グレイザックはもう一度尋ねる。
ああ、この人はまたそんな心配をしてくれているのか、とリディオノーレは思わずくすりと笑った。
その様子にグレイザックが眉間に皺を寄せる。
「師匠の万全の対策は本当に万全だと思うので、全く心配していません」
リディオノーレは全幅の信頼を寄せていることを口にした。
「………」
グレイザックは軽く彼女の額を弾くと、「それはそうと」と話し出した。
「お前、どういった経緯で今日ああなった?」
「………」
リディオノーレは彼から視線を逸らし、ムナグレークを見た。
「グレティアーナの部屋に騎士たちが来まして、天馬合戦の申し込みに」
ムナグレークが簡潔に説明する。
「はじめは断ったのですが………」
ムナグレークがちらりとリディオノーレを見る。
「何だ。何を隠している」
グレイザックは片眉を上げた。
「………」
ムナグレークは息を吐いた。
「リディ、言いますよ」
ムナグレークは許可を取る。
「………」
リディオノーレは下唇を突き出しながら拗ねた顔をする。
「リディが言いますか?」
ムナグレークはため息をつきながら一応尋ねた。
リディオノーレは少し考えたのち、息をゆっくり吐いてから小さい声で答えた。
「全勝したらロガリアの枝を6本と大型動物の魔石を4つ、交換条件にお願いしました……」
「………」
グレイザックとバルデミアンは揃ってため息をつき、グレイザックはまた彼女の額を弾いた。
「全勝しなかったらどうするつもりだったんだ」
「また挑みますよ。だって、アラウィリアは天馬合戦大好きでしょう?」
リディオノーレは微笑む。
「そして、全勝しました」
彼女は満面の笑みを見せた。
褒めて欲しい、という表情だ。
グレイザックは頭を押さえて、またため息をつく。
今日はもう何回ため息をついたか。
まあでもロガリアと大型魔石は正直欲しい。
「分かった。だが、俺の許可を得てからにしろ。いくら良い交換条件を出されても勝手にするな。………だがまあ………よくやった」
グレイザックが少し嫌そうにだが、褒めてくれた。
えへへ、とリディオノーレはとても嬉しそうな顔をする。
「今はアインズビルよりはアラウィリアの方が信用できるからな。天馬合戦でもして力をつけておけ」
まさかの天馬合戦の許可が出たので、リディオノーレはとても嬉しそうな顔をした。
「本来の仕事に関しては俺がやっておこう。どうせ、忘れていただろう?」
「あ」
そうだった。視察で訪問していたのだ。
「まあ元々、天馬合戦で各領地にお前の実力を示す作戦だからいくらでもすればいい。が、俺が決めた試合以外で試合をする時は必ず連絡をしろ。その時はグレークさえいれば、どうにかなるだろう?バルデの方がいいか?」
グレイザックは3人を見つめる。
「私は結構です」
バルデミアンが即答した。
「じゃあ決まりだな。グレーク、頼んだぞ」
「はい」
「では、夕食の準備だ」
グレイザックの合図で各自が動き出した。
アラウィリアでの食事は、かなりの人数が参加するため立食である。
前に訪問したときはグレイザックが騎士たちに取り囲まれていたが、今回はリディオノーレが囲まれた。
「今までどうしていたのですか」
「瀕死だったと伺ったのですが大丈夫だったのですか」
「つい天馬合戦をしてしまいましたが、体調は?」
「次はいつ天馬合戦をされますか」
騎士たちが矢継ぎ早に質問してくる。
「天馬合戦の前に体調を気にして頂けたら嬉しかったのですが」
グレイザックがリディオノーレを庇うように返答する。
「それに関しては本当に申し訳ありません」
ライムグートが申し訳ない顔をしている。
「いえ、こちらも恐らく乗り気だったのでしょう」
グレイザックがリディオノーレを少し睨んでみせた。
「すいません、先走ってしまって」
リディオノーレも項垂れる。
「リディオノーレ様を怒らないで下さい。我々が頼み込んだのです」
騎士の1人が声を上げる。
「そうなんです。お元気そうなお姿を見て、つい」
他の騎士も声を上げる。
「なかなか連絡できず、申し訳ありませんでした」
リディオノーレは頭を下げる。
「いえいえ!何やら事情があったのは知っていますし」
「ですが、何があったのですか?」
核心に触れる質問をされるのは分かりきっていたので、リディオノーレは苦笑いになる。
「………それ以上はよせ」
アブストールが側近に飲み物と食事を持たせてやってきた。
「グレイザックの機嫌が悪くなるからやめてくれ」
アブストールはため息をつくと、軽食をリディオノーレ達に渡す。
「リディオノーレ様、体調の方は?」
アブストールが尋ねる。
「大丈夫です。ご心配をおかけしました。お手紙もありがとうございます」
「アブストールの手紙の量は凄かったでしょう?ごめんなさいね」
アブストールの少し後にグレティアーナもやってきてそう告げる。
「心配してたのです。色々お話ししたかったのですが、天馬合戦になってしまったので何も聞けず」
グレティアーナが話を続ける。
「そうでした」
リディオノーレが苦笑いになる。
「今は体調に変わりないかしら?大丈夫?」
グレティアーナがリディオノーレの顔を覗き込む。
「大丈夫です。改めてティア様もお元気でしたか?」
「私は元気よ。リディからの連絡をずっと待っていたわ。本当に良かった」
グレティアーナがリディオノーレの頬を撫でる。
「シャーリネーヴェ様も詳細が分からず、とてもヤキモキしていたわ」
シャーリネーヴェの名前が出てきてリディオノーレは少し驚いた。
「え、ちょっと待ってください。ティア様って今上級生でしたよね?今ものすごい忙しい時期なのでは!?」
リディオノーレは急に思い至り、焦った声を出した。
グレイザックはそんな彼女の額を弾き、「落ち着け」と声をかける。
「このくそ忙しい時期に帰領してまで会いに来てくれてるんだ。感謝しろ」
うわーーーー!とリディオノーレは変な声を上げながら、グレティアーナの手を握ったり抱きついたりして感謝と詫びを表した。
「落ち着け落ち着け」
グレイザックはリディオノーレをグレティアーナから引き剥がす。
「大事な友人なら節度を守れ」
グレイザックはリディオノーレの額を弾く。
一体、今日だけで何回額を弾き、何回ため息をついたことか。
グレイザックのまともな忠告にアブストールは少し目を丸くした。
「………お前、そんなことを言える立場なのか……?」
アブストールが目を丸くしたまま突っ込む。
その台詞に、グレイザックはアブストールを睨みつける。
視線だけで人を殺せそうな目である。
「アブストール、なかなか勇気のある言葉だな」
ムナグレークは唇の端を上げてからかった。
アブストールはムナグレークを睨みつける。
「あっちに行ってるからグレティアーナ様と2人で話しててもいいぞ。グレーク、ついててやってくれ」
グレイザックはそう命じるとアブストールの首根っこを掴みながら、他の騎士たちも連れて去って行った。




