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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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内通者の存在




「グレイザック、大体目星がついているのではないか?」

領主が尋ねた。

「………」

グレイザックは無表情なまま答えない。


「アインズビルに内通者がいますね」

グレイザックの代わりにアブストールが発言した。


グレイザックは目を伏せ、少し考えたのちゆっくりと口を開いた。


「情報感謝する。また頼むことがあるだろうから、その時はよろしく頼む」

「……分かった。……グレイザック」

アブストールは部屋を出て行く彼を呼び止めた。

グレイザックは目だけで続きを促す。


「リディオノーレ様は大丈夫なのか?」

アブストールも事情を知らない。

けれども、ナックルンドでの彼女の噂を探れと頼まれて結果を出したのだ。少しくらい事情を話してもよいのではないだろうか、と訴えている。


「回復はした」

「何があった」

「噂通り瀕死だった」

「……………分かった。話す気はないんだな」

アブストールはグレイザックを見つめて、負けたように息を吐いた。


「お前、本当にそういう所変わらないよな」

アブストールの言葉にグレイザックは眉間に皺を寄せた。

「自分で全部背負い込む所だ。お前1人じゃ限界なことだってあるだろう。もっと仕事を割り振れよ」

アブストールは一旦区切り、息を吐く。


「この件、いつ区切りをつけるつもりだ?」

「入学までに尻尾を掴む」

あと1年だ。

「目星はついている。が、どこまで引き摺り落とせるか」

グレイザックの目が鋭くなる。

先を見据えている目だ。


「捕まえられるのか?領内の者だろう?お前の知り合いではないのか」

アブストールは心配している。

「そいつだけを捕まえるには根回しがいる。罠を張っておかないと」

グレイザックは、ふ、と笑った。

知り合いだろうが関係ない。

自分の愛弟子を害した奴は許さない。


「グレイザックのことだからヘマはしないだろう。だが、あの娘は突拍子もない。しっかり手綱を握れ」

関わった期間も短いのに、アラウィリアの領主はそんなことを言う。

またその内容が合っているから、否定できない所が辛い。


「……ご忠告ありがとうございます」

グレイザックは苦笑しながらそう言って、部屋を出た。




グレイザックがバルデミアンとグレティアーナの部屋に向かっていると、グレティアーナの側近が慌てた様子で彼らのもとに向かってきた。


「グレイザック様!こちらへ早く!」

その側近がとても焦った様子なので、グレイザックは顔をしかめる。

「何かありましたか?」

「リディオノーレ様と騎士団たちが天馬合戦を繰り広げております!!」

「……………」

グレイザックは思わず頭を押さえた。

バルデミアンも驚いて目を見張る。


とりあえず、3人で訓練場に急ぐ。


「リディオノーレとムナグレークの2人で相手してるってことですか」

グレイザックはため息をつきつつも急ぎ足でそう尋ねた。

「いえ、アラウィリアの騎士も何人か借りながら5対5くらいでやっております」

側近はそこで一旦区切り息を整えたのち、話を続ける。


「あっという間にリディオノーレ様が倒すものですから、私が先程見た限りではもう3戦目に入っております」

「…………」

それを聞いてグレイザックはまたため息をつき、急ぎ足だったのを緩めた。


「大丈夫そうだな」

「そんな悠長に構えないで下さいませ!体調が戻った所ですのに、また悪くなるかもしれません」

確かに事情を知らない者からしたらそう見えるのか、とグレイザックは納得する。

「お気遣い頂きありがとうございます」

グレイザックは苦笑しながら礼を言った。


側近に急かされ訓練場に着くと、座り込んでいる騎士がざっと見ただけで10人くらいいる。


「グレイザック様!」

グレティアーナがグレイザックの姿を見て声を上げた。


上空を見上げると5対5の合戦が繰り広げられていた。

リディオノーレが何故か指示を飛ばしている。

ムナグレークも檄を飛ばす。


「………どういう状況ですか?」

グレイザックは見上げながら、呆れたように尋ねた。

「リディとお兄様に挑戦したい者と教えを乞いたい者と分かれて、次々と試合をしているところです」

グレティアーナも呆れたように話す。


「リディの体調が戻ったところですのに、また悪くなったら駄目だと言い聞かせて指示役にさせています」

「賢明な判断です」

グレイザックは答える。

どうやらそこまで問題なさそうである。





「お前は天馬にもろくに乗れないのかっ!」

ムナグレークの怒号が飛んだ。

どうやら手綱捌きがなっていなかったようだ。


「ちょっと!全員が武器に変えてどうするんですか!?最低でも1人は杖にしといてくださいっ!」

リディオノーレの声も上がる。


「ですが!天馬合戦は武器を使ってするものです!」

味方側の騎士が1人、反論の声を上げた。

「杖は武器じゃないんですかっ!?」

リディオノーレも反論した。

ぐうの音も出ない一言である。


バルデミアンは思わず笑ってしまった。

グレイザックとグレティアーナは苦笑いだ。


アラウィリアの指揮官は副団長のライムグートである。リディオノーレの戦法は規格外なので少し翻弄されている。


「……面白いから見とくか。バルデ、参戦してきてもいいぞ」

「遠慮しておきます」

バルデミアンは食い気味に断った。


そうしてグレイザックが見に来てから5戦ほど繰り広げたのち、やっと終わった。

リディオノーレ達の全勝である。


「……………あ」

地上から見上げているグレイザックを見つけて、リディオノーレは視線を逸らした。

完全に天馬合戦に集中していて、グレイザックが来ていたことに気付かなかった。


しかもよく見ると始める前と比べて観客が増えている。


「………グ、グレーク様」

リディオノーレは隣に並ぶムナグレークの名を呼び、顔を見る。

「………一緒に怒られましょう」

ムナグレークは腹をくくったようだ。


「グレーク様が一緒なら………」

リディオノーレも恐る恐るだが、腹をくくった。

2人でゆっくりと地上に降り立つと、グレイザックがツカツカと寄ってきた。


リディオノーレは肩をすくめながら、ムナグレークの後ろに隠れた。

その様子にグレイザックは長いため息をつく。


リディオノーレは、ムナグレークの後ろからチラリとグレイザックを覗く。


「さあ、言い訳を聞こう」

グレイザックはにこりと微笑んでそう口を開いた。

「……グレイザック様、ここは私の顔に免じて許してあげて下さいませ」

グレティアーナが勇気を出して口を開いた。


「騎士たちを止められなかった私たちにも問題がありますので」

「………良かったな」

グレイザックはリディオノーレの顔を覗きこみ、そう言った。

リディオノーレはえへ、と笑いながら出てきた。

グレイザックは睨みつけながら額を思いきり弾く。


「戻るぞ。夕食に呼ばれているから準備がいる」

グレイザックは彼女の首根っこを掴む。

「ライムグート」

グレイザックは今回アラウィリアの騎士たちの指揮官をしていた彼を呼んだ。


「前に見たときより成長している。このまま励め」

まさかの言葉にライムグートは目を丸くしたものの、表情を緩め嬉しそうに感謝を言葉にした。


「グレーク、バルデ、行くぞ」

グレイザックは2人に声をかけ、リディオノーレは首根っこを掴まれたまま与えられた部屋へと帰って行った。


その4人を見送りながら、グレティアーナは苦笑する。


「リディが怒られなければ良いのですが」

「どうでしょうか」

彼女の側近も苦笑いだった。






与えられた部屋の一室に4人が入ると、グレイザックがすぐさま盗聴防止の魔法をかけた。

一応、罠や毒がないかも確認済みである。


リディオノーレは天馬合戦のことを怒られるのではないかとびくびくしていた。


「………情報共有を行う」

グレイザックはびくついているリディオノーレの額を弾き、そう口を開いた。

思っていたのと違う話だったので、彼女は少し目を丸くする。


グレイザックはアブストールに探らせていた情報を3人に教えた。

その話を聞いたムナグレークは一瞬にして、怖い顔になる。


「内通者、ですか」

バルデミアンも唇を引き結ぶ。

「………」

それを聞いたリディオノーレは少し考えたのち、ぼそりと呟いた。


「囮に、なりましょうか?」

彼女はグレイザックをまっすぐ見つめた。

その発言にムナグレークとバルデミアンがぎょっとする。


「……………」

グレイザックは無言でリディオノーレを見つめ返した。







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