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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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解禁




「……さあ、解禁するぞ」

グレイザックはにやりと笑って、部屋にいる者に告げた。


フェルバール、バルデミアンが真剣な顔で静かに頷く。

サムエルは微笑みながら頷いた。

グレイザックは真っ直ぐリディオノーレを見た。


真紅の瞳が真っ直ぐ彼を見つめ返してくる。


毒の事件から約1年。

リディオノーレが生きていることをひた隠しにしてきた彼らたち。

そして、やっとリディオノーレが部屋から出られる許可を得た。


「さあ、驚かしてやろう」

グレイザックは意地悪く笑う。

彼女の生死を聞かれても何も答えず、リディオノーレを彼女とグレイザックの部屋しか移動もさせず、存在を隠蔽してきた。


リディオノーレ宛ての手紙が来ても代筆で返信させ、あらゆる招待状も悉く断ってきた。


「これから忙しくなるぞ、リディ」

グレイザックは彼女を見つめる。

「分かってますよ」

リディオノーレもにやりと笑った。


毒から目覚めてからこの師弟はどんどん似てきた気がする。


「やれるな?」

「勿論。……誰の弟子だと思ってるんですか」

リディオノーレは腰に手を当てながら、唇の端を上げた。


ひた隠しにされていた間に彼女は歳相応の体つきに成長した。毒で倒れていたせいで痩せ細っていたが、徹底的な食事管理、訓練等により背は伸びて、少し幼さが残るものの女性らしくなった。


「これからのお前の訓練は騎士団へと移行する。ひと月後の視察に向けて調整しておけ。その後の領主会議が終われば、今まで溜まっていた招待状を片っ端から受けるぞ」


「うへぇ」

リディオノーレは口をへの字に曲げた。

「お前らも忙しくなるぞ。しっかりついてこい」

グレイザックはフェルバールとバルデミアンに向かって言い放つ。


今まで尻尾を掴ませなかった犯人が、リディオノーレが生きていると知れば驚くことは間違いない。

犯人は毒で倒れたことを知っているから。あの毒が普通の毒ではないことも知っているから。


さあ、ここにカルムクラインの生き残りがいるぞ。

誰の弟子に手を出したのか思い知らせてやる。


グレイザックは残酷な笑みを漏らした。




解禁になった途端に、あらゆる手紙にリディオノーレは自筆で返信した。

すごく心配している手紙を定期的に寄越してくれていたシャーリネーヴェとグレティアーナ。

そして、督促状かのように1人だけ手紙の量がえげつないアブストール。


一つ一つ丁寧に返信していくリディオノーレ。


「……この方はどんな人なのでしょうか」

差出人の名はアリウォーナ。

宛先としてはグレイザックなのだが、リディオノーレのことに関する質問ばかりである。


「学院に行けば、否が応でも世話になる。ほどほどに返しておいてやれ」

グレイザックにそう言われ、リディオノーレは筆を取った。

シャーリネーヴェから色々リディオノーレのことを聞いて、彼女に興味があるらしい。


とりあえず、はじめまして、とリディオノーレは書き始める。

入学後はよろしくお願い致します的なことを当たり障りなく書いておいた。


ほどほどに執務が終われば、領主の所へグレイザックと共に向かう。

領主の執務室へと向かうまでに色んな人とすれ違い、皆が嬉しそうにリディオノーレに話しかけてきてくれた。

感涙に咽び泣く人もいた。


「良かったです、リディ。本当に良かった」

廊下で泣かれるものだからかなり目立ったが。

その度にグレイザックが冷たくあしらうから苦笑いになるリディオノーレだった。


領主の部屋へと辿り着くと、扉の前で一度深呼吸する。

会うのが久々すぎて、緊張している。

グレイザックが一度彼女に目配せすると、リディオノーレは静かに頷いた。


グレイザックは扉をノックし、入室の許可が出るとゆっくりと扉を開いた。


中には領主とその側近ザファムートとシャイリーネがいて領主は息を吐いてから微笑んだ。


「久しぶりだな、リディオノーレ」

「お久しぶりでございます。長らく休暇をいただきまして、ありがとうございました」

リディオノーレは頭を下げた。


「元気ならそれで良い。ほら、こっちにも挨拶してやれ」

領主は妻であるシャイリーネの方に頭を少し傾けた。

リディオノーレはにこりと微笑む。

「長い間ご心配をおかけしまして申し訳ありませんでした」

シャイリーネは少し目を潤ませながら立ち上がり、リディオノーレの元へ歩いてきた。


そして、リディオノーレを静かに抱きしめた。


「っ!」

リディオノーレは驚き、手のやり場に困った。

「よく生きていましたね」

「………はい」

リディオノーレはシャイリーネの肩に顔を埋めた。


そんな中、ザファムートは信じられないものを見たかのように驚きを露わにしていた。

まさか、と一瞬呟き、頭を振ったのをグレイザックは見た。


「……シャーリネーヴェも喜ぶわ」

抱き締めていた手をやっと離し、シャイリーネはリディオノーレの顔を見て微笑んだ。

「シャーリーお姉様にはお手紙書いておきました」

「そうなのね。学院で喜んでいると思うわ。もしかしたら、帰ってくるかもしれないわね」

シャイリーネはくすくすと笑った。


「さあ、ザファムートにも挨拶してあげてちょうだい」

シャイリーネはリディオノーレの背中を押した。


ザファムートは驚きを隠せないまま腰を上げ、リディオノーレへと歩み寄ってきた。


「本当に、リディ、ですか?」

ザファムートは彼女の手を握る。

その行動にグレイザックは眉を上げた。


「……あったかいですね。良かった」

ザファムートは彼女の体温を感じると生きてることを実感した。

えへ、とリディオノーレは笑った。


「ここ半年くらいは不治の病にかかったと言われてましたよ」

ザファムートの言葉にリディオノーレは苦笑いになる。

「本当に大丈夫なのですか」

「はい。またよろしくお願いしますね」

リディオノーレも手を握り返し、後ろに下がってグレイザックの少し後ろに控える。


グレイザックは少しだけ彼女を隠すように立ち位置を変えると、口を開いた。


「次の視察は、私とリディオノーレとムナグレークとバルデミアンで向かいます」

「サムエルは行かないのか?」

領主が少し驚いたように尋ねた。

領主代行をグレイザックがつとめてくれると言うので、次の視察はグレイザックに任せるつもりのライリルムント。


「サムエルには執務を任せておきますのでどうぞ使ってやってください」

グレイザックは答える。

「それは助かる。もう1人の護衛騎士も使っていいのか?」

「フェルバールのことですかね。どうぞご自由に」

グレイザックはにこりと答える。


それを聞いているリディオノーレは可哀想に……と心の中で合掌した。

フェルバールがこき使われる未来しか見えない。


「では、他にも行くところがありますので、今日はこれで。こいつはこれから訓練の日々となりますので忙しくなります。もし、何か用事がありましたら私に言付けて下さい」

グレイザックはそれだけ言って、背を向けた。

リディオノーレの背を押しながら部屋を退室する。


退室し、周囲に人の気配がなくなってからグレイザックは口を開いた。


「あの野郎、お前に触りやがった」

グレイザックは急に悪態をつく。

杖を抜くと、リディオノーレの手を持って、洗浄魔法をかけた。


あっという間のことに彼女は目をぱちくりさせて、グレイザックを見上げた。


「よし」

グレイザックはそれで納得がいったようで頷く。

「……お前も誰でも彼でも触らせるな。毒をつけられたらどうする」

極端な発想だが、リディオノーレは素直に謝った。


「分かれば良い。もうあんなことはごめんだ」

グレイザックはそう言ってスタスタと先に歩き始めた。

リディオノーレも置いていかれまいと歩を早めた。


本当にグレイザックは過保護になりすぎだ。


リディオノーレは早足で彼の隣に並ぶと顔を覗き込む。

「なんだ」

グレイザックが冷たく言い放つ。

「いいえ」

リディオノーレはニタニタしながらそう答えた。


「気持ち悪いぞ」

グレイザックは眉をしかめて彼女の額を弾いた。

「うふふ」

リディオノーレは笑顔が止められない。

「言いたいことがあるなら言え」

グレイザックの眉間に更に皺が寄る。


「愛されてるな、と思いまして」

リディオノーレは満面の笑みで答えた。

その答えにグレイザックは顔をしかめると杖を素早く抜いて呪文を唱えた。


「んんんんーーーーっ!!!」

口が一瞬にして縫い付けられる。

「ちょっと黙っておけ」

グレイザックは意地悪く笑ってそう言った。


リディオノーレの口は、グレイザックの執務室に帰ってサムエルに解除してもらうまで開かなかった。



「〜〜〜っ!!どう思いますか!?」

リディオノーレは怒りながら、サムエルに尋ねる。

口をぱくぱくさせたり、横に動かしたりして無事かどうか確認しながら彼女は声を上げる。


「何があったのかと思いましたよ」

サムエルは苦笑いだ。

「グレイザック様がいじめてきたんです!」

ぷんぷん怒っているが、それくらいなら可愛いものである。

「なにか余計なことを言ったのですね」

サムエルはよしよし、と彼女の頭を撫でた。

「……なにかは聞かないでおきましょう。さて、今から訓練でしょう?」

サムエルはリディオノーレの背中を押す。


「……行ってきます」

リディオノーレは最後にグレイザックを睨んだまま、迎えに来たフェルバールと共に訓練場へと向かった。




「じゃーーーーん!!!!」

リディオノーレは騎士団員たちの前に嬉しそうに現れた。

彼女の姿を見て、ワッと騎士たちが群がる。


「団長〜〜〜っ!!」

リディオノーレは嬉しそうに駆け寄る。

団長は両手を広げ、彼女を持ち上げた。


「わわわわ」

まさか抱っこされると思っていなかったので、リディオノーレは驚く。

「元気そうで良かった」

団長は抱き上げたままくるくると彼女を回す。


「わわわ」

目が回ったリディオノーレは地面に蹲った。

「すまない」

団長は焦って謝る。

フェルバールが癒しの呪文をかけてくれて、リディオノーレは回復した。


「すいません、団長」

リディオノーレは醜態を見せたことに苦笑しながら謝ると、飛びついた。

団長は上手に受け止め、抱え上げる。

「ただいまです」

「お帰り。本当に本当に、良かった」

団長はぎゅっと抱きしめる。

他の騎士たちも「私も!」と団長を羨む。


おかげでリディオノーレは騎士たちにもみくちゃにされたのだった。


「誰も何も教えてくれないものですから本当に心配だったのです」

騎士たちが次々と話しかけてくる。

「リディのことをグレイザック様に尋ねるだけで威圧させられたんだよ」

他の騎士が愚痴る。

「俺たち何回失神させられたか。フェルやバルなんかもっとしつこかったからどれだけ失神したか」

騎士たちがフェルバールとバルデミアンを見やる。


2人はそーーーっと視線を逸らした。

護衛対象の主に不名誉なことを知られたくない。


「嬉しいですね」

リディオノーレはそう答えた。

本当に皆から愛されている。


心があったかくなる。

彼女は笑顔になりながら話題を変えた。


「あの、私、天馬合戦で使える武器の練習をしたいんです。多分剣が向いてないので、違う武器がいいんですけどなにかありますか?」

リディオノーレは皆に尋ねる。

「んーーー」

「大体が剣ですからね。弓矢とかの方がいいってことですか?」

騎士たちが色々考えてくれる。


「弓矢は接近戦になったとき困るので、接近戦でも遠距離戦でも使える武器がいいです」

リディオノーレの意見に余計皆が考えこむ。

「何かあったか…?」

「剣に弓矢、斧に槍……」

「あぁ、槍は?槍はどうですか?」

リディオノーレはあまりピンと来なかったようで、うーんと唸る。


「………鞭はどうでしょう?」

ふと、バルデミアンが呟いた。

「!!!」

リディオノーレとその話を聞いていた者が目を見開く。

「それだっ!!」

リディオノーレは嬉しそうな顔をする。

「呪文知ってますか?」

その質問には誰も答えられなかった。


「……私、調べてきます!」

リディオノーレは早速腰を上げた。

「お待ち下さい!城の中と言えど、1人で行動しないよう言われておりますので私も行きます」

フェルバールが慌てて彼女のあとを追う。


「……大変ですね」

見ていた騎士が苦笑いになる。

「……本当に大変なんですよ」

バルデミアンはしみじみ頷いた。





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