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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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回復後の歓談



食事をとったリディオノーレはそそくさと長椅子に寝転んだ。

まだ熱も高く気怠るいので、正直食事をして疲労した。

でも心配をかけたくないので、用意された食事は頑張って食べ切った。


「片付けてきます」

今度はバルデミアンが動く。

突っ込む気力がなくなったので、リディオノーレはそれに対して何も言わずにサムエルに声をかけた。


「汗を拭くものをください……」

「お水もこちらに置いておきますので」

サムエルは汗を拭く布と水を彼女の頭近くに置く。


「とりあえずはゆっくりしていてください。仕事はフェルバールとバルデミアンが手伝ってくれますので、お気になさらず」

サムエルは安心させるように彼女に微笑む。


「私のせいでフェルバール様が書類仕事を?……すいません」

「違いますよ。彼らの新しい仕事なのです。覚えてもらわないと困りますので」

サムエルが微笑んだ。

「……分かりました」

「何も気にせず、寝ていて下さい。リディに無理される方が困ります」

サムエルは布で彼女の顔の汗を拭いてやる。

ついでに、汗ばんだ頭も拭いてあげると、彼女はスッキリした顔になった。


「ありがとうございます」

「お安いご用ですよ。とりあえず寝ていなさい」

サムエルにそう言われ、リディオノーレはまた目を閉じた。


書類のめくる音や筆が滑る音を遠くで聞きながら、リディオノーレはうとうとしていた。


「間違ってる」

グレイザックの鋭い叱責が飛んだ。

その声にリディオノーレは少し目を開ける。


「計算も出来ないのか」

グレイザックの声音が厳しい。

フェルバールはぐ、と反論を抑え、席に戻る。

悔しい顔をしている。

騎士が書類仕事をしているのが新鮮で、少し目を開けたまま様子を見る。


ふと、彼女はあれ?と思い至り、周囲を見る。

そんなリディオノーレと目が合い、グレイザックが眉間に皺を寄せた。


「どうした」

「……広く、なってます?」

今思えば、グレイザックの部屋が広くなっている気がする。


部屋半分は本棚、もう半分は机1つと寝台代わりの長椅子だったはず。

でも今はフェルバールやバルデミアン、サムエルが仕事できる机がある。


おかしい。

リディオノーレは体を起こそうとして、グレイザックにものすごく睨まれたので大人しくしておく。


「少し広げた。これでこいつらも仕事しやすいからな」

グレイザックがフェルバールとバルデミアンを親指で差す。


「お前が仕事に復帰すれば、これらの机は執務室の方へ移す予定だ」

簡単に言うが、部屋を広げたり出来るのがすごい。


「分かったなら、寝ておけ」

グレイザックにそう言われ、リディオノーレは少し目を瞬いて皆が仕事しているのを見る。

仕事しているところを見るのはかなり新鮮だ。


グレイザックだけ書類だけじゃなくて手紙が多い。

何かよく分からないが、手紙の量が尋常じゃない。


「………まだ何かあるのか」

視線に気付いたのか、グレイザックが眉を上げて尋ねる。

「………」

リディオノーレの視線の先の正体が分かったグレイザックは「これか?」と持っている手紙を少し上げた。

彼女は無言でこくりと頷く。


「ああ……熱が下がったら見せてやる」

グレイザックは笑みを湛えて答えた。

機嫌が悪いときの顔だ。

それも、かなり。

これ以上、深く突っ込んではいけないと経験で知っているリディオノーレは口を閉じる。


「ほら、寝ておけ」

相変わらず過保護なグレイザックにリディオノーレは少し笑って、目を閉じた。






夕の鐘が鳴り響いたとき、リディオノーレは目を覚ました。

部屋には、グレイザックとサムエルだけがいた。

彼女が目を覚ましたのを見て、2人は仕事の手を止める。

グレイザックは長椅子に近付き、サムエルも何かしらの準備に部屋を出た。


グレイザックはリディオノーレの額や首を触って体調を確認する。


「……下がったな」

グレイザックは安堵の息をついた。

リディオノーレはゆっくりと体を起こした。

「体力があるなら、湯浴みもして良い。明日も1日ゆっくり休むように」

その言葉に彼女はこくりと頷いた。


サムエルが食事を持って帰ってくると、3人で喋りながら食べる。


「食欲も戻りましたね。良かったです」

昼食より速度も上がって食べている様子を見て、サムエルも安堵する。

「いつもご心配をおかけして、すいません」

リディオノーレはしゅん、とする。


「気にしないでください」

「少し体調が悪い方が問題起こさなくて済む」

グレイザックがそんなことを言うので、彼女は頬を少し膨らます。


「聞きたいことがあるんですけど、いいですか」

リディオノーレはグレイザックを見る。

「何だ」

「何でフェルバール様とバルデミアン様が書類仕事をしてたんですか」

「……」

グレイザックが視線を逸らす。

リディオノーレはサムエルを見つめる。

サムエルもゆっくりと視線を逸らした。


なるほど。教えてもらえないようである。


「……分かりました。では、あのお二人が書類仕事をする時間がこれから増えるということですか?」

「その通りだ」

「私はどうすればいいのですか?」

「体力づくりと武器の扱いを覚えるのが主になる。明日もゆっくり休んで完全に回復したら、明後日から騎士団員たちに色々教えてもらえ」

「分かりました」

こくりと頷く。


「2日訓練して、1日休む。それの繰り返しだ。その1日休む日は俺の仕事の手伝いだ」

結局休みがないのでは?と思ったが、言葉を飲み込むリディオノーレ。


「やることたくさんあるんだぞ。溜まった仕事を終わらせないと墓参りにも行けないからな」

「!!!」

それを聞いたら全力で終わらすしかない。

相変わらず、リディオノーレの扱いが上手いグレイザックにサムエルが少し笑う。


「3ヶ月後くらいには視察があるし、それが終われば領主会議があるし、まあまあ忙しいんだぞ」

「………その準備がどれだけなのか分からないですが、グレイザック様が今から言うくらいなのですから、めんどくさいってことですね」

「今回は俺も出るからな」

「どうしてですか?」

領主会議なのに何故グレイザックが。

確か領主会議は領主とその側近と護衛騎士のみのはずだ。


「領主補佐の仕事をしていることと護衛騎士も兼ねている」

「グレイザック様が護衛騎士?ですか?」

おかしな話な気がする。

だが、ふと、リディオノーレは思い至った。


「……もしかして、粛清の一件ですか」

そうじゃないとグレイザックも一緒に行くわけが分からない。

察しのいい彼女にグレイザックは苦笑した。


「そうだ。詳細の説明だな」

素直に認めるグレイザック。

「すいません、面倒をおかけして」

しゅん、と眉が下がるリディオノーレ。

「良い。それが俺のつとめだ。気にするな。お前は、領主会議で俺らが留守にしている間、仕事を滞りなく進めること。それが出来るようになっておいてくれ」


その発言にリディオノーレは目を瞬く。

領主とグレイザックがいない期間、代わりをつとめるなんてなかなか難易度が高い。

そんな表情が出ていたのであろう。

グレイザックは言葉を続ける。


「代わり、とは言ってない。滞りなく進めておいてくれるだけで良い。まあ気負わんでも良い。サムエルもいるしな」

「……分かりました!それでフェルバール様達にも書類仕事を覚えてもらっているってことですね」

リディオノーレは納得した。


「……まあそれも一理あるな」

グレイザックは答える。

「じゃあ、もう1つ。あの手紙は何だったんですか。……………聞かない方がいいですか」

グレイザックに睨まれたので、リディオノーレは付け足した。


「………また見せてやる」

「……分かりました」

リディオノーレは大人しく引き下がった。

あまり聞いてほしくない内容らしいが、教えてはくれるらしいので急いて聞かなくても良さそうである。


「お前が大人しいと気持ち悪いな」

その発言にサムエルが吹き出す。

「最近、サムエル様がこうやって笑うの増えましたよね…」

リディオノーレが少し唇を尖らせた。


「気のせいですよ」

サムエルがにこりと笑うとリディオノーレが食べ終えたのを見計らって食器を片付けに動く。

「勿論、座ってて下さいね」

サムエルはまたにこりとすると食器を持って部屋を出た。

先に釘を刺すところが流石である。


「湯浴みするか?」

グレイザックが寝る準備をしながら尋ねた。

「洗浄魔法、教えてください」

リディオノーレは答える。

熱は下がったが、風呂に入れるほど体力が回復していない。


グレイザックはすぐに杖を取り出して唱えてくれた。

大きい水が彼女の全身を包み、3秒ほど経って消えた。


「かはっ!っっ!!」

急に唱えるものだから、息を止めるのを忘れて咽せるリディオノーレ。

「悪い」

グレイザックは謝って、彼女の背中を慌てて叩く。

「ほら、もう寝てこい」

彼はリディオノーレの額を軽く弾くと、自分の部屋に戻るよう促す。


「あの」

背中を押されながら、リディオノーレは振り返る。

「何だ」

「グレイザック様は疲れてないんですか」

「……他人の心配をする前に自分の心配をしろ」

グレイザックは呆れたように答える。


相変わらず変わったやつだな、とグレイザックは内心思っているが、心配される分には悪くない。


「私の世話とフェルバール様達に仕事を教えるのも増えて絶対疲れてるでしょう?昨日帰ってきた所ですよ」

「お前が気にするほどではない」

「………」

何か言いたげだったが、リディオノーレは口を噤んだ。

これ以上言っても無駄だと分かってるので、今思っていることを実行するには強行するしかない。


「頑張って訓練と仕事するので、待ってて下さい」

「……何を待つんだ」

グレイザックが眉間に皺を寄せる。

「内緒です。お休みなさい」

リディオノーレは微笑んだ。


「調子のってるとぶり返すぞ」

グレイザックはもう一度額を弾くと、彼女が自身の部屋に入ったのを見届けてさっさと扉を閉めたのだった。





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