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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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初めての天馬合戦


翌日、グレイザック、ムナグレーク、リディオノーレ、そして護衛騎士のフェルバールとバルデミアンの5人が騎士服に身を包み、アラウィリアの騎士たち20人の前に現れた。


審判はアラウィリアの副団長である。

副団長が魔法をかけた鈴を2人に渡す。


アラウィリアは団長のアブストール。

アインズビルはリディオノーレである。


アブストールは鈴を腰にくくりつける。

リディオノーレは事前に準備していた首紐に括り付け、首からかける。


「では、鈴の所有者が用意できたら始めとする」

リディオノーレは天馬に跨り、ムナグレークを引き連れて上空へと駆ける。

アブストールも騎士を3人引き連れて同じように離れた所で上空に待機する。


副団長が城全体に響く大声を発して試合が始まった。



グレイザックが天馬に跨り上空へと駆けながら杖を弓矢に変える。

フェルバールとバルデミアンはアラウィリアに斬り込みに行く。

それを背後から援護射撃で助けるグレイザック。


フェルバールもバルデミアンも腕がいいが、何せ2人で10人以上も相手しているのでなかなか押し切れない。

グレイザックは矢を次々と放ち、命中させていく。

その命中率は百発百中である。

当たった騎士たちは後衛に下がり、回復薬を飲みながら交代しつつ攻撃をいなしている。

アラウィリアはよく連携が取れている。


フェルバール達も腕がいいのだが、なんせ多勢に無勢である。

グレイザックは護衛騎士2人に10人以上をほぼ任せながら、上空に待機するアブストール達にも矢を放つ。


武器を弓矢に変えているのはグレイザックだけなので、長距離攻撃では今のところ彼に敵う者はいない。

すると、護衛騎士2人からあぶれたアラウィリアの騎士たちとアブストールを守る騎士たちが剣を手にグレイザックに斬りかかってきた。


グレイザックは素早く弓矢を解除すると、魔法陣の紙を取り出し、唱える。

今度は弓矢が大剣になった。


グレイザックの背と同じくらいの大剣である。

リディオノーレは思わず目を輝かす。


「武器が変わったぞ!今だ!」

アブストールが騎士たちに指示をし、アラウィリアの騎士たちが数でフェルバール達を押し切り、グレイザックの元へ駆けて行く。


最大の攻撃力であるグレイザックが取り囲まれれば、アインズビルは窮地に陥る。

グレイザックさえ抑えることができれば、どうとでもなると考えているのが目に見える。

アブストールがその機を逃すはずもなく、騎士を3人連れてリディオノーレに向かって駆けてきた。


「行きますよ」

ムナグレークがそう口を開いた。

彼との打ち合わせは、ムナグレークから離れないこと。ただそれだけ。

道はムナグレークが開くから、リディオノーレはひたすら駆けるだけ。


「はい!……頑張ってね」

リディオノーレは愛馬にそう言って撫でると、手綱をぎゅっと握りしめる。


ムナグレークは見たこともない速さでアブストールに真っ向から向かって行く。

当たっただけで確実に大怪我に繋がりそうな勢いだ。

それだけで怯んだアブストール達は自分たちの勢いを落とす。


その怯んだ瞬間を逃さず、ムナグレークとリディオノーレはアブストール達から離れる。


「ちっ!」

アブストール達は舌打ちし、ムナグレークに向かって行く。


その時、わっ!!!とリディオノーレ達の少し下で声が上がった。

グレイザックが大剣を薙ぎ払い、騎士たちを半数地上に落とした。


「痛そう……」

リディオノーレが呟く。

「気にしなくて大丈夫です。さあ、来ますよ」

ムナグレークは事前に変えていた剣を振りかざす。


ムナグレークがアブストール達の相手をし始めた。

ムナグレークはそこまで剣に覚えはないようだが、手綱捌きが他と全然違うので速さで勝っている感じだ。

本当に全然捕まらないし、危ないときだけ剣で防ぐ感じだ。


皆がそれぞれの戦いに集中している間にリディオノーレは策を講じる。

恐らく気付かれないだろう。


地上に落ちた騎士たちは回復薬や回復魔法ですぐに戦線に復帰するので、グレイザック達の疲労ははかり知れない。

グレイザックとバルデミアンが復活した騎士たちを相手取り、互角の戦いを繰り広げている。


そんな中、あぶれた騎士の1人がリディオノーレに向かって行くのを止めるためフェルバールが対応する。

そのあぶれた騎士の後ろからもう1人アラウィリアの騎士が飛び出してきた。


「ちぃっ!!」

グレイザックが舌打ちしたのが聞こえた。

「リディっ!!!」

フェルバールが2人を相手取るが、隙をついて1人の騎士がリディオノーレに勢いよく向かってくる。


その騎士は躊躇なくリディオノーレの天馬に体当たりし、彼女は体を傾けた。


「手綱を離すな!」

グレイザックの慌てた叫び声が聞こえた。

リディオノーレは片手で手綱を力一杯握るが、傾いでいる体を起こすのは力のない彼女には難しい。

アラウィリアの騎士は傾いてる彼女の首からさげてある鈴のついた紐に手を伸ばし、勢いよく引きちぎった。


「やったぞ!!!!」

その様子を見ていた騎士や鈴を引きちぎった騎士が叫んだ。

鈴を握ったその途端、その鈴は赤い光を放つことなく、爆散した。


「っっ!!!」

小さいが音は凄く、手や腕、顔にも破片が飛び、騎士はたじろぐ。

他のアラウィリアの騎士たちも目を見開いた。


傾いでいく体を止められなかったリディオノーレは手綱を離した。

そして、落下していく危機的状況でにやりと笑った。

それに気付いたのはムナグレークくらいだろう。

彼も受け止めに動こうとしたが、その彼女の顔で大丈夫だと判断した。


彼女は落ちながら、懐から鈴のついた首紐をかけ直す。

落ちていく状況でも彼女は冷静だった。

そして、信頼していた。自分の愛馬を。


グレイザックは慌てて受け止めようと動き出すが、アラウィリアの騎士たちがそうはさせない。

フェルバールも手を伸ばすがほんの僅か届かない。

ムナグレークだけが慌てておらず、アブストールの鈴を狙う。


「落ちるぞ!死ぬぞ!」

アブストールがムナグレークの剣を受けながら叫んだ。アブストールも焦っている。

杖がない者が落ちたらどうなるか想像できる。

だからグレイザックも慌てている。


「俺が躾けた天馬はそう簡単に主を落とさない」

そう言ってムナグレークは鈴を狙う。



彼の言葉通り、彼女の愛馬がすごい勢いで地面に向かって飛んで行く。

もう少しでぶつかる所で愛馬が彼女の服を口で掴んで速度を落とし、地上に降ろした。

彼女はすぐさま愛馬に跨る。


その一連の凄さにアラウィリアの騎士たちが目を見開き驚く。

グレイザック達もほっと息をついた。


彼女は愛馬に「ありがとう」と言うと、また上空に駆け上がるが、近くにいたアラウィリアの騎士たちに体当たりされそうになる。

ここまで天馬と信頼関係を築けているなら容赦はしないとアラウィリアの騎士たちの目が言っている。


リディオノーレは体重も軽いし、複数で来られると弾き飛ばされる。

それに愛馬も傷つく。彼女はそれに怒っていた。


首にかけていた鈴を騎士に向かって投げつける。

騎士たちは驚いて慌ててその鈴を掴む。


するとまたその鈴が爆散した。

それに複数の騎士が怯み、また鈴が爆散したことにグレイザックは驚きつつもそのまま周囲の騎士に畳みかけ、重傷を負わす。

他の騎士たちが傷を負った者を庇いながら引き下がる。


グレイザックはそれ以上追わず、アブストールを見据え、駆け上がっていく。

グレイザックを追うアラウィリアの騎士たちとそれを食い止めようとするバルデミアンとフェルバール。


グレイザックの速さについて行けず、アラウィリアの騎士たちはリディオノーレに向き直る。

彼女の鈴を取ったら試合が終わるのだ。今なら1人。


そう思った騎士たちがそれぞれ突っ込んでくる。


「攻撃魔法じゃなければいいんですよね」

リディオノーレはにやりと呟いて、魔法陣が描かれた1枚の紙を取り出す。


今回持っている杖は馬の魔石だ。

杖の登場に驚くアラウィリア。


「オスブル!!」

闇の魔法陣炸裂だ。

しかも中範囲の記号や文字を組み込んである。


一瞬にして、10人くらいの騎士たちがいた所が真っ暗闇になる。


「くくっ!!」

グレイザックは思わず笑ってしまった。

彼女の作戦は敢えて聞いていなかったグレイザック。

当日に知る方が面白いと思って、ぶっつけ本番にしてみたが、予想通り面白い展開になった。


「上へ抜けろ!!」

暗闇の中から騎士たちが叫び、明るい上空へ逃げてきた所でフェルバールとバルデミアンが襲いかかり、また暗闇へと突き落とす。


「誰か武器を解除し、光の魔法陣を描け!」

そんな声が聞こえ、すぐに闇が消え去った。

その瞬間、「ルミーチェ!!!」とリディオノーレは叫んだ。


光の魔法陣を2度掛けすることにより目を眩ませる。

閃光弾の代わりである。


「っっ!!!」

その一瞬の隙をフェルバール達は見逃さない。


まさかリディオノーレがここまで色々としてくるとは予想していなかったようで、アラウィリアの騎士たちの連携が崩れる。


「ほんっとうっに、弟子だなっ!!!」

グレイザックの大剣を受けながら、アブストールが叫んだ。

その台詞にリディオノーレが顔を綻ばす。


「褒めてっ、ないっ!!!」

彼女の表情が見えて、思わずアブストールは叫びながら力任せに剣を薙ぎ払う。

もう残り時間が僅かだ。


「あの鈴も何なんだっ」

アブストールが怒っている。

グレイザックとムナグレークは無視して剣を次々と打ち込む。

なかなかに連携が取れていた。


「お前の、入れ知恵かっ!!」

「んなわけあるかっ」

その言葉にだけ、グレイザックは言い返す。


「っっ!!」

騎士でもないくせにグレイザックの剣は重い。

アブストールは顔を歪める。


「グレイザック様っ!!」

上空に駆け上がってきたリディオノーレがアブストールに向けて鈴を投げ放った。


グレイザックはその鈴から一瞬で距離を取る。

アブストールは条件反射でその鈴を掴んでしまう。

天馬合戦では鈴を取った方が勝ちなのだから、思わず掴んでしまうのだ。


「ちぃっっっ!!!!」

掴んだ瞬間、また弾け飛んだ。

「お前ぇっ」

アブストールの口調が乱れる。

鈴の爆発で手の平がズタズタに切り裂かれる。


アブストールは剣を握り直し、単騎でリディオノーレに向かおうとする。

その勢いを削ぐように試合終了の鐘が鳴り響いた。


一瞬で皆の気が緩んだ。

リディオノーレも一気に気が抜けて、愛馬に倒れ込む。


「大丈夫か」

グレイザックが隣に並び、様子を見る。

「大丈夫です。疲れました。……勝ちましたね」

えへ、と彼女は笑みを見せた。


「よくやった」

グレイザックは笑顔を見せ、皆が地上に降り立った。


「此度の試合、アインズビルの勝利である」

審判である副団長が告げる。


「くそ。卑怯すぎる」

騎士たちが次々と呟くのが聞こえた。

「数では勝てないですからこれくらいしますよ」

リディオノーレは胸を張って答える。

「だが、手が悪辣すぎる!」

「どこがですか?」

「杖を持っていなかったのではないのか?」

リディオノーレを睨む騎士たち。


「持っていませんよ。私の杖はまだなんです。これは自分で調合した分です。ほら、ちょっと術を使っただけでもう崩壊してます」

リディオノーレは杖を見せる。完全にヒビ割れていた。


「にしてもあの鈴は何だ!」

「軽い爆発を起こすように細工してました」

悪びれもせず、彼女は答えた。

「だって、私武器が使えないんですもの」

「にしても、あれは酷い!」

「そうですか?あれが武器代わりだと思ってもらえれば、納得できると思うんですけど」

リディオノーレはきょとん、とした顔をする。


「魔法攻撃だけは無しで、それ以外はいいと仰ってましたし」

「考えがえげつないです!グレイザック様の入れ知恵ですか!?」

1人の騎士がグレイザックを見る。

「そんなわけないだろう!こいつが考えたんだ。何か策を練っているとは思っていたが、実に面白かった」

「打ち合わせしてなかったんですか!」

それに驚く騎士たち。


「はぁ………発想が想定外で困惑しています。とりあえずロガリアの枝は後で運ばせておきます」

アブストールは長いため息をついた。



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