天馬合戦の申し込み
アラウィリアでの歓迎の宴は立食形式だった。
殆どの物が騎士服に身を包んでいる。女性騎士もちらほら居るのが窺える。
今回の宴はリディオノーレも簡易的な騎士服にしている。女性らしく裾はひらひらしている。グレイザックはアインズビルの正装である。この間つけていた赤紫のブローチもつけている。
彼女も金色の髪飾りをつけている。
髪型は右前髪から編み込みしていて、少し大人びて見える。
因みにこの編み込み、グレイザックがしてくれた。
何でもこなせる器用さにリディオノーレはその時すごく驚いた。
グレイザック達が広間に現れるとアラウィリアの騎士たちが一斉に群がってきた。
あっという間にグレイザックが連れ去られて囲まれている。
呆気にとられるリディオノーレだったが、これ幸いと食事にありつくことができた。
「美味しいですね」
護衛騎士フェルバールとムナグレークと一緒に食事をつまみながら感想を言う。
そんな3人の所にアブストールとアブストールにエスコートされている女性がやってきた。
その2人を見て、ムナグレークは顔をしかめる。
「お久しぶりです、お兄様」
その女性はムナグレークを見て微笑んだ。
その言葉にリディオノーレは目をぱちくりさせながらムナグレークを見つめた。
彼はリディオノーレをチラと見て妹を見つめた。
「元気にしているようで何よりだ」
ムナグレークは顔をしかめたまま答える。
ムナグレークのその答えにその女性は唇を尖らせた。
「手紙を出しても返事を寄越さないし、心配していたのですよ?」
茶色の髪を揺らしながら、その女性は咎める。
「悪かった悪かった。………婚約おめでとう」
「グレーク様、それは喜んでいる顔に見えませんよ」
リディオノーレが小声で咎める。
そんなリディオノーレをムナグレークの妹はまっすぐ見つめてきた。
「お初にお目にかかります、リディオノーレ様。ムナグレークの妹のグレティアーナと申します」
微笑みが上品である。
「リディオノーレでございます。以後お見知りおき下さいませ」
リディオノーレも挨拶をする。
「ムナグレーク様にはいつもお世話になっているのです。素敵なお兄様ですね」
リディオノーレも微笑む。
その言葉にグレティアーナは顔を綻ばす。
「そうでしょう!是非アインズビルでのお兄様のお話を聞きたいですわ」
「私もムナグレーク様について語りたいです」
意気投合した2人は近くの椅子に座り話し込み始める。
フェルバールは護衛なので、リディオノーレの側に控える。
そんな2人を見ながら、アブストールとムナグレークは口を開いた。
「領主夫妻に挨拶は?」
アブストールのその言葉にムナグレークはもっと顔をしかめる。
「グレイザック様に言われなければ来る予定ではなかったんだ。挨拶はいいだろう」
すごい嫌そうな顔をしているムナグレーク。
「そういう訳にもいかんだろ」
「良い。俺のことは皆よく思ってないしな」
ムナグレークをチラチラと皆が見ているが、寄ってはこない。
ムナグレークはアラウィリアの異端児なのだ。
従来のやり方で天馬を扱わず反発し、勘当も同然のようにグレイザックの元に身を寄せた。
これまでのやり方を悉く否定したのだ。
疎まれるに決まっている。
そうこうしている内にグレイザックが疲れた顔でやってきた。
「お帰りなさいませ」
リディオノーレは嬉しそうに声を上げる。
グレティアーナはグレイザックに優雅に礼をした。
彼も軽くその挨拶に応え、リディオノーレに話しかける。
「天馬合戦の申し込みだ。明日の朝から言われている」
ため息をつきながらグレイザックは言う。
チラ、とリディオノーレを見るとまたため息をつく。
「何ですか」
自分の顔を見てため息をつくものだから、彼女は唇を少し尖らせる。
「杖がないから断ったのだが、お前の参戦も決まった」
グレイザックが困ったように話す。
珍しい。彼の意見が通らないなんてなかなか有り得ないからリディオノーレは少し驚く。
「グレイザック様が交渉して無理だったなら仕方ないですよね。私何も出来ないですけど、逆にいいのですか?」
ひとつ考えていることはあるが、杖がどこまで保つか分からないので実現可能か分からないし、もし今持ってる急拵えの杖が崩壊した場合、ここで新しい杖を調合できるか分からないので何とも言えない。
「良い。精一杯逃げ回るか、グレークの傍を離れなければどうとでもなる」
その言葉にグレイザックがムナグレークに信頼を寄せているのが分かる。
「分かりました」
とりあえず初めての天馬合戦だ。見たことがないので明日はほぼ見学みたいなものになるだろう。
でもできる限りの用意はしておかなければならない。武器へと変化させる魔法陣をたくさん用意しておいた方がいいだろう。
リディオノーレはあれこれ考える。
「あー、あとこれに勝利すればアラウィリアにしか自生しない樹の枝を30本くれるらしい」
「!!!30本はやり過ぎだ!!!」
聞いていたアブストールが悲痛な声を上げた。
「アラウィリアにしか自生しない……もしかして、ロガリア?ですか?」
リディオノーレが目を輝かせた。
グレイザックがこくりと頷く。
グリュエールより良質な樹の枝だ。
グリュエールはどこの領地にも大体あるのでよく使われるが、その領地特有のものは領主の許可が出てやっと使用できるようになる。
アインズビルにも特産の樹があるが、それは高価らしく軽々しく杖の調合に使用したら怒られる。
実際に一本使って怒られた。
なので特産の樹はそこそこ貴重で魔力耐性も高い。
「どこがやりすぎだ。こちとら天馬に乗り始めたばかりのひよっこを守りながら戦うんだぞ。しかもこちらは5人。そっちはグレークの腕も考慮して20人だ」
数だけ聞けば、完全にグレイザック達の方が不利である。
でも勝算があるから受けたのだろう。
グレイザックが意地悪い顔になっている。
「……分かった。詳細を詰めよう……」
アブストールは反論するのを諦め、グレイザックと条件を色々擦り合わす話を始めた。
リディオノーレは隣で聞いている。
「魔法攻撃だけ無しで大丈夫なのか?」
アブストールは意外そうに確かめる。
「ああ。後は何でも許可する。こいつは杖を持っていないので、防御する術がない」
「……確かに。じゃあ後は何しても良いと?」
アブストールがにやりと笑った。
その笑みにグレイザックもにやりとした。
「いいぞ。鈴に転移陣を張っても良い」
学院では禁止になった方法だったはずだ。ムナグレークからそう聞いた覚えがあるリディオノーレ。
そんな手も予想がつくグレイザックは唇の端を上げながらそう述べた。
「鈴はアブストールが持つか?こちらはリディオノーレに持たせるぞ」
またもやにやりと笑う。
何やら色々企んでいそうな顔だ。
だが、リディオノーレも閃いた策がある。
「鈴ってどこにつけてもいいんですか?」
「構わないですよ。あー、でも外から見える所にしてくださいね」
アブストールは優しく答えてくれる。
「指定された鈴さえ、どこかに身につけていればいいってことですね」
言質を取った。
彼女も少しにやりと笑った。
その顔にグレイザックが内心ほくそ笑む。
恐らく面白いことを思いついたに違いない。
「その鈴を取られると、鈴が割れて赤い光が上空に放たれますのでそれで試合終了となります」
アブストールが説明する。
「その鈴を先に見ることは出来ますか?」
「可能です。持って来させますね」
アブストールは近くの騎士に頼み、鈴を持って来させた。
赤子の拳よりは2回りほど小さいが、普通の鈴よりは少し大きい。
「これの予備ってありますか?その、赤い光が出ない鈴ってありますか?」
「ありますよ」
アブストールは答える。
「赤い光が出る鈴と出ない鈴では、見た目が全然違いますか?」
リディオノーレは質問を重ねる。
周囲は彼女が何の意図でそんなことを聞いているのか不明なので、不思議そうな顔で会話を聞いている。
「全く一緒です。今持ってこさせたのも光が出ないやつです。試合寸前に審判が魔法をかけますので、それまでは光が出ません」
「では、いくつか貰えることは可能ですか?できれば壊れても大丈夫なやつで」
「…………???いくつもありますし、普通の鈴ですから構いませんが…」
アブストールも不思議そうにしながら、また騎士に頼んで取りに行かせると5つ彼女に渡した。
「壊しても弁償しろって言わないで下さいね?」
「……構いませんが、何に使うのですか?」
アブストールの質問にリディオノーレは微笑んだ。
「今夜少しでも練習しようかと思いまして」
「いいですよ。でしたら、もっと持って行きますか?」
「とりあえずはこれくらいで大丈夫です」
彼女は微笑む。
「アブストール様が優しい方でとても嬉しいです。少しでもアラウィリアの方々に対抗できるよう、努力しますね」
「対抗せずとも、逃げ回ればいい。時間いっぱい逃げ回ればこちらの勝ち。時間内に鈴を取られたら負けだ」
グレイザックが説明する。
「なるほど。大体分かりました!明日楽しみにしてて下さい!!」
リディオノーレはアラウィリアの面々に向かって微笑んだ。




