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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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天馬合戦のあと


試合が終わると、グレイザックが与えられた部屋でお説教の時間となった。


何故説教されるのか、とリディオノーレは解せない顔になっている。


「天馬から落ちるのは如何なものかと」

サムエルが眉間に皺を寄せている。

「でも私の天馬は賢いのです」

「そうですね。知っています」

ムナグレークは頷く。

彼だけがリディオノーレが落下していようが気にしていなかった。


「だとしても周囲が焦ります」

フェルバールが苦い顔になった。

「………すいません」

心配をかけたのならそれは申し訳ない。

「けど、私の天馬は賢いのでこれからはそこまで心配しなくて大丈夫ですよ」


悪気がなかったのを知っているからこそ、彼女にはこれ以上言っても伝わらないだろう。

フェルバールもバルデミアンもため息をついた。


グレイザックも呆れると話題を変えた。


「あの鈴は何だったんだ」

「どうでしたか、あれ。ちょっと閃いたからやってみたんですが」

リディオノーレはその話題に食いつき、感想を尋ねる。


「……面白かった」

グレイザックは引きつつもそう答えた。

「そうでしょう!簡単に取られるなら本命以外全部爆発させて少しでも傷を負わせようかと」

リディオノーレは笑顔である。


「だからあの時、鈴が欲しいとねだったわけですね」

フェルバールがしみじみと呟く。

「そうです。鈴をねだったとき、アブストール様は何も疑問に思わなかったようなので、普通は考えつかない戦法かな、と思いました」


「……確かに。ぬか喜びさせといてのあれは面白かった」

くく、と笑うグレイザック。

鈴を取った瞬間の油断を狙った戦法。


「あんなのはグレイザック様でさえしてなかったですよ」

苦笑いのムナグレーク。

「そうなんですか!」

すごく嬉しそうなリディオノーレ。


「あの闇と光の魔法陣はありなんですか?」

フェルバールがグレイザックに尋ねる。

「攻撃魔法ではないから良いだろう。俺も使ったことがある」

グレイザックが頷く。

「流石、師匠っ!!」

「そんなの思いつくのあなた達だけですよ…」

護衛騎士2人がため息をつく。


本当に想定外だった。


「面白かったから良しとする。何かしてくれると思っていたが、俺も勉強になった。あれなら今でも充分学院で戦えるだろう」

その言葉にリディオノーレは顔を綻ばす。


だが、このまま知識が増えるとグレイザックより奇想天外な手を思いつき周囲を混乱させそうである。


「とりあえず明日はゆっくり休むように。……俺の許可なく魔法を試すなよ」

グレイザックが最後に釘を刺す。

その言葉にリディオノーレは視線を逸らす。


正直な彼女に他の皆が苦笑いになる。


「杖も何本もないだろう?」

ここが他領で良かった、とグレイザックは安堵する。

調合器具は借りればあるが、素材はない。枝はちょうど手に入ったが、魔石は流石に貰うわけにはいかない。


「そこなんですよね…。あと2本しかないんです…。魔石もらって調合したいです」

彼女は項垂れる。


「頼むから帰ってからにしてくれ」

「だから早く帰りたいです。試したいことがあるんです」

「……また何か思いついているのか」

少し引き攣った顔をしているグレイザック。


「そうなんです!天馬合戦の最中に使えるのではないかと思ってるのがひとつあります」

その言葉にグレイザックの目が光った。

「ほぉ。その実験をする時は必ず呼ぶように」

「はい」

許可をもらったので堂々と実験ができる。


「だから私は早くアインズビルに帰りたいです。いつ帰れますか?」

「採集するものがある。天馬合戦もあともう一戦する予定だ」

「えっ」

天馬合戦の話にバルデミアンが思わず声を上げた。

あまり口を開かない騎士なので、全員が思わず彼の方を向く。


「……」

注目されたバルデミアンはそーーっと視線を逸らす。

彼は無口なのと反抗しない性格から今回の護衛騎士に選ばれ、なんとグレイザックのご指名だったらしい。


「………言いたいことがあるなら言えよ」

グレイザックがバルデミアンを見つめる。

「……」

彼は何も発しない。


「ちょっと相手取るにはしんどい人数だったからではないですか?」

サムエルが助け舟を出した。

その言葉にバルデミアンがこくりと頷く。


「じゃあ人数少なければいけそうか?」

グレイザックが提案する。

その言葉にバルデミアンとフェルバールがこくこくとすごく頷いた。

ムナグレークが思わず苦笑いになる。


「それまでに是非実験したいんですが、駄目ですか?」

リディオノーレが目を爛々と輝かせて発言する。

そして続ける。

「是非お役に立つと思うんですが」

「でも杖が全部割れるかもしれないんだろう?」

「そうなんです…」

「諦めるしかありませんね」

サムエルが言う。


不満気なリディオノーレの表情を見て、グレイザックは口を開いた。

「………採集の予定が3日後の夜だ。天馬合戦がいつになるかはまだ決まっていない。……魔獣狩りにも参加させてもらうか?」

グレイザックが提案した。

その提案にリディオノーレがすごく嬉しそうな顔をする。

魔獣狩りをすると魔石が手に入るのだ。


「それは簡単に決められないのでは?」

ムナグレークが眉間に皺を寄せている。

「魔獣狩りが5日後と聞いている。魔獣の数が多くなってきているらしく、一度数を減らすらしい。元々俺の参加の許可は出ている。1人2人いいだろう」

グレイザックがにやりと笑った。

いつの間に約束を取り付けたのか知らないが用意周到である。


「……グレイザック様がその実験を見たいだけでは?」

サムエルがちらりと見る。

「そうだが?何か問題あるか?」とグレイザック。

似た者師弟すぎる、と今誰もが思った。


「では、その予定でいきましょう」

サムエルは呆れながらも許可をした。

「それで、3日後の採集は何の採集なんですか?」

「メティスの花の蜜だ」

「メティス?」

リディオノーレは首を傾げる。


フェルバール、バルデミアン、サムエルも怪訝な顔をする。

ムナグレークだけが顔を歪めた。


少しの間記憶を辿ったリディオノーレだが、結局分からず悲しそうな顔をする。


「すいません、知らない名前です」

「……知らなくて当たり前なので気にしなくていいですよ」

ムナグレークが苦笑いで答えた。


「でもグレーク様は知ってるんですよね?勉強不足ですいません……」

リディオノーレはしょんぼりする。

「私は学院でグレイザック様とずっと一緒にいましたので。…この花はものすごく珍しいものなんです。知っている人も少ないと思います。よっぽどの物好きじゃないと知らないと思いますよ」


その言葉にグレイザックが顔をしかめた。


「俺が物好きってことか?」

「……自覚ないのですか?」

「………」

グレイザックは押し黙った。

どうやら少しは自覚があるらしい。

ムナグレークは少し息を吐くと、説明を始めた。


「この花は50年に1度しか咲きません」

「!!!」

その花を知らない4人が目を見開く。


「私も多くは知りませんが、その50年に1度が今年なのでしょう」

ムナグレークが苦笑した。

いつ調べていたのか。


「その50年に1度というだけで珍しいのですが、いつ咲くのかも問題です。どうやらグレイザック様は統計を取っていたようですね」

当たり前だ、と答えるグレイザック。


「グレイザック様が3日後と言うのですからそうなのでしょう。咲く条件までは覚えていません。あと確か、覚えている内容としてはその花の蜜に老化防止の作用があったはずです」

「老化防止?」

リディオノーレが声を上げる。

グレイザックには必要ないだろう、とは流石に言えなかった。


「貴重なものは持っているだけで金になるんだ。特にそのメティスの花の蜜は一滴で金貨10枚に匹敵する」

グレイザックの説明に4人が驚愕する。

高価すぎる。


「しかも一滴で10年分くらいは老化防止になる」

「………欲しいです」

リディオノーレが口を開いた。

「だろう?その50年に1度がここアラウィリアで咲くのを統計で推測し、それもあって今回同行することにした」


招待状を受けたときはまだメティスの事に気付いてなかった。

素材収集の話が出てから色々調べ物をしている間にメティスが今年だと判明したのだ。


「まあ採集が難しいらしいがな。その対策とあと場所まで特定せねばならん。故に3日後までに俺は図書室にこもる」

「私も調べます!」

本音はアラウィリアの図書室に入ってみたいだけだが。


となると必然的に護衛騎士の2人と側近のサムエルが図書室に同行となる。


「グレークはどうする?」

「お二人が図書室にこもったらサムエルが大変だと思いますので、私も手伝います」

その言葉にサムエルが苦い顔だ。

確かに1人だけでも寝食忘れて本にかじりついているのを引き剥がすのに骨が折れるのに、2人ともなればかなり大変なことは想像がつく。


「……グレイザック様、私たち信用されてないみたいです」

リディオノーレが唇を尖らせた。

「俺じゃない。お前だ、お前」

「絶対違います!グレーク様が2人と言いましたよ、2人って!」

「俺はもうそんなことないぞ。お前だろ、問題児は」

急に2人で言い争いが始まった。


護衛騎士2人はそろーっと部屋を抜け出し、扉の外の護衛任務につく。

サムエルとムナグレークも呆れ顔だ。


「違いますよ!研究オタクの先人がいるからこんなこと言われるんですよ!」

「俺はお前ほど酷くない」

その言葉にサムエルとムナグレークが苦い顔になった。

そんな事はない。学院時代、ムナグレークも異端児として目立っていたが、グレイザックは最速で試験を終わらせて実験に没頭する幽霊首席で有名だった。

自室や図書室、実験室にこもるため、名前は知れ渡っていても顔を知らない人がたくさんいた。


「ほらグレーク様とサムエル様の顔、見てください!グレイザック様も相当酷かったと言っている顔です」

「そんなわけあるか。俺はお前みたいに急に意識が飛ぶことはない」

徹夜しすぎて目がギンギンでしたけどね、とサムエルが遠い目をして呟いた。


それを聞き逃さなかったリディオノーレとグレイザックの言い争いが更に加速し、結局夜まで続いたのでサムエルが睡眠魔法をかけて終止符を打ったのは語り継がれることになる。

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