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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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39/912

粛清前のそれぞれ



地下牢。

リディオノーレは手枷や縄もされることなく、そのまま放り込まれた。


本当に能無しだ。

そして、何も知らないと思われているのに嘲笑する。


(私は10年住んでたのよ)

リディオノーレは息を吐く。


脱獄できないと思っているのだろう。

杖も持ってないと思われている。


出ようと思えば出れる。抜け道も知っている。

でも見張りがいる。攻撃呪文を放ったことはないし、杖が崩壊する恐れがあるなら大人しくしておいたらいい。


ムナグレークが何とかやってくれるだろう、と彼女は信じている。

それに今リディオノーレが捕縛されてもカルムクラインは横領や暗殺までやっているのだから、ひとつ罪状が増えた所で変わらない。


とことん罪状を増やせばいいのだ。

おかげで情もなく、切り捨てられる。


あとはムナグレーク次第だ。


(さようなら、カルムクライン)





アインズビル領。


「今回の粛清、総指揮は私が執る。やることは頭に叩きこんだか?」

グレイザックがアインズビル騎士団に向けて声を上げる。

庭に騎士団が勢揃いしていた。


「まずは、リディオノーレとムナグレークとの合流。その間、歯向かう者は捕縛して良い。女も子供も容赦はいらん。ただし、抵抗しない者は副団長がまとめておけ」


「2人がどこにいるか分かるのですか?」

騎士団長が尋ねる。

銀髪の長い髪を首の後ろでくくっている青年だ。


「何となくな。まあムナグレークが動いているだろうから大丈夫だ」

グレイザックは答える。


「その為のムナグレークだ。アラウィリアの影の騎士団が協力してくれるだろう。団長のアブストールとも合流し、手分けして事にあたれ」


「………カルムクラインが地図から消えるのですね」

団長が呟いた。


「仕方ないだろう。あれだけの事をしたのだから」

「証拠は確実なのですか?」

「証拠か。それは、リディオノーレが確実にしてくれるだろう」

グレイザックがにやりと笑った。


「……カルムクラインの娘に、自分の領地を潰させるのですか……」

団長が顔をしかめた。非情すぎる。


「あれは私の弟子だ。私の意図を読んでいるだろう。もし、証拠を出さなければ捕縛して構わん。もろとも処刑だ」

その言葉に団長を含めた騎士たちが唇を引き結んだ。


「……何故、そこまで」

団長は口を開き、後悔した。

グレイザックが見たことのない表情をしていたからだ。

悲しいような、信じているような、何とも言えない表情を。


「あいつがどこまでやってくれるかでお前たちの仕事が変わる。私は歯向かう領民全て処刑のつもりだ。あいつはどうするつもりか知らんがな」

グレイザックはそう答え、息を吐いた。


ふと空を見上げ、誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。

「……………生き残れ、リディ」




そんな庭の騎士団を見下ろし、領主ライリルムントは面白そうな顔をする。


本当にグレイザックは相変わらずだな、と。

ただ、彼は変わった。


気に入らない者はいつでも蹴落とし、利にならないことは絶対にしない。

なのに、あの娘を引き取った。

今のところ、グレイザックの利になっている事と言えば、彼の生活習慣が規則正しいものになったことくらいである。


研究や仕事大好きなグレイザックが食事と睡眠をきちんととる姿だけは、あの娘を引き取って良かったと思っている。


あとは、何の利にもなっていない。

あの娘の面倒や世話で奔走しているのを知っている。

精霊師を隠すために、目薬の素材収集に7日間留守にしたのだ。

衝撃的であった。


グレイザックが精霊師なので、ある程度のことは知っているライリルムント。

あそこまで精霊師としての覚醒の予兆があるならば、そのまま契約してしまえば良かったのに、と思っていた。


あの周囲が眩しくなる現象は、魔力膨張によって精霊が見えるようになっているのだ。

姿形は契約しなければ見えない。

そして、契約してしまえばあの現象はなくなるのだから、さっさと契約すればいいのに、と思ったのは確かだ。


「優しいのか何なのか分からん」

ライリルムントは呟く。


でも優しいから、彼女の代わりにカルムクライン一族以外を粛清するのだろう。

「……リディオノーレはどこまでの働きをするのか」


あの娘はなかなかに予想外なことをする。

グレイザックが少し翻弄されているのだから、傍から見ている分には面白い。

(最悪、あの娘だけ精霊師として公表してもいいしな)


グレイザックを王族に取られるのは痛手だ。

でもあの娘はどうでもいい。犠牲にするならあの娘だ。

だが、あの娘の働きぶり次第で、重要性が変わってくるだろう。


「さあ、楽しませてみせろ。リディオノーレ」

ライリルムントはにやりと笑った。


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