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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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アブストールとの出会い



途中休憩を挟み、リディオノーレが手綱を代わると申し出たのだが断れた。

「日も落ちてきましたので風邪をひかれたら困ります」

どう足掻いても手綱を代わってくれることはなかったのでお言葉に甘えることにした。


休憩後の道中は、どれだけグレイザックが凄いのかを語りまくるムナグレークの話を、うんうんと頷きながら聞くリディオノーレだった。


カルムクラインに着いたのは、日が沈んだ頃。


応対してきたのは、現領主の息子であるエドセルニオンだった。

「……アインズビルからの代理人として来ました。リディオノーレでございます」

初対面のように振る舞う。


エドセルニオンは驚いた顔をしている。

「リディルレーネだよな?」

「いいえ。私はリディオノーレと申します。アインズビル領主の代理人でございます。この度はお悔やみ申し上げます」

リディルレーネは冷静に受け答えし、頭を下げた。


「……リディルレーネだろ?」

「先程から黙って聞いていれば、何様ですか。アインズビル領主の代理人に失礼ではありませんかね」

ムナグレークは静かに怒る。


エドセルニオンは驚いて、慌てて言葉遣いを改めた。


「申し訳ありません。ご足労いただきありがとうございます。控室に案内します」

エドセルニオンの側近の案内で、リディオノーレとムナグレークは控室に入ることができた。


与えられた控室で各々休み、明日の葬儀のための準備をする。

ムナグレークはエドセルニオンのことなど尋ねない。

聞いたところで不必要な情報だからだ。


だからリディオノーレも別に話さない。

なので、ムナグレークに血判証明の説明をする。


「……この魔法陣の重ね掛け、かなり魔力を使ったでしょう?」

ムナグレークは苦笑しながら息を吐いた。


本人に呪いが返る血判証明。

それが子々孫々続く永久的になる魔法陣を追加。

呪い自体も少し強めだ。

大体は心臓を掴まれたような苦しみがあるのだが、それに加えて身体に火傷の痕が出るような魔法陣もある。


見た目で裏切ったことが分かるようにするところがなかなかにえげつない。


「これでも優しめです。グレイザック様なら恐らく殺してほしいと本人が訴えるような痛みの呪い返しをしそうじゃないですか」

「……否定できないですね」

ムナグレークはまた苦笑いだ。


師弟揃って思考回路が物騒すぎる。

そして、案外リディオノーレが気丈なことに驚いている。


「リディは大丈夫なんですか?」

何が大丈夫かとは聞かれなかったが、彼女も苦笑いで答える。

「やることがたくさんあるので、とりあえずは」

彼女は乾いた笑みをこぼし、色んなことをムナグレークに託す。


「グレーク様の仕事が多くなってしまいそうですが……もしもの時はお願いしてもいいですか?」

「……いつ何時でも策の2つや3つは用意しておくべきです」

ムナグレークはそう答えた。


「これくらいの仕事量、グレイザック様の側近ならやれるでしょう?それにしても、よく領民を把握していますね」

彼は唇の端を上げた。

あまり見ない表情なのでリディオノーレは少し驚く。


「実務を担っていたのは、兄と私なので。軟禁状態でしたが、抜け道くらい知ってます。街にも頻繁に繰り出していましたので。今回、もし私が動けなくなったときはお願いします。何もなければ私が動きますので、グレーク様には護衛を任せることになりますが」

「どこでもついて行きますし、リディに従いますよ。あなたはグレイザック様の名を貶めない働きをすればいいだけです。迷惑とか何も気にせず、アインズビル領民として堂々としていれば大丈夫ですよ」


「何かグレーク様に言われたら安心感がありますね」

ほ、と息をつくリディオノーレ。

「グレイザック様の方が安心感があるでしょう?」

彼女の言葉にムナグレークは首を傾げる。

ムナグレークの反応に今度は彼女が苦笑する。


「グレイザック様は安心感というか……そりゃ、信頼はしていますが、悪いこと考えて暗躍する感じありません?」

「………確かにそうですね」

ムナグレークも肯定してしまった。


「あと、明日の葬儀の最中、体調不良で少し抜けます」

彼女のその言葉にムナグレークは思わず吹き出した。


「ぷっ。体調不良になるのは決定事項なのですね」

「そうです。私は体調不良になります」

ハッキリ言うリディオノーレ。


「どこに行くつもりですか?」

その質問に彼女は少し口ごもる。


「兄の遺品を持ち帰れたらな、と思っております」

「不法侵入になりませんか?」

「なりません。その時だけはリディルレーネです」

その言葉にムナグレークはまた吹き出す。


「使えるものは使わないと」

リディオノーレは笑った。

「そうじゃないと、私の武器はそんなに多くないので」

その言葉にムナグレークは彼女の頭を撫でた。





翌日の葬儀当日。

大広間にて参列者が一同に集まる。

故人を悼みながら、故人がどういった人物だったとかを話しつつ社交する。

アインズビルが最上位領地なので、他の領地の者がアインズビルの机にやってくる。


騎士の正装に身を包み、短い茶髪の男性が歩いてきた。

リディオノーレ達の近くに来ると、ムナグレークを見て少し驚いた様子を見せた。

でも何も言わず、着席しているリディオノーレを見下ろした。


「お初にお目にかかる。アインズビル領主の代理人とお見受けする。だが、貴殿の顔を見たことがない。失礼だが、名前をお伺いしてもよろしいですか」

その男性はリディオノーレを見下している目をしている。


「ムナグレーク様。アインズビル領って最上位ではなかったのですか?」

リディオノーレは後ろに控えるムナグレークにそう尋ねた。


「リディオノーレ様の認識は間違っていませんよ」

ムナグレークは微笑む。

一応側近として控えているので、ムナグレークはリディオノーレのことを様付けで呼ぶ。


ムナグレークの答えを聞き、リディオノーレは茶髪の見下している目の前の男性に微笑み返した。

「アインズビル領からの代理人とお分かりのようですのに失望しました。初対面でそのような値踏みする目を向けられるとは」


今回は粛清のこともあり、内心は面倒ごとをしたくないのだが、アインズビルの代理人なので下手な社交は出来ない。

見くびられるようなことがあってはならない。


まさか年下の小娘に反論されるとは思っていなかったのだろう。

その男性は眉を下げた。


「申し訳ございません」

男性は素直に謝る。

どうやら悪い人ではないらしい。


歳はムナグレークくらいだろうか。

そして、ムナグレークの顔を見て驚いた様子をしていたので、知り合いの可能性が高い。


「アラウィリア領主の代理人、アブストール・グロス・アラウィリアと申します」

名前を聞き、リディオノーレは一瞬目を瞬いた。

「私はリディオノーレと申します。お見知りおき下さいませ」

リディオノーレはにこりと微笑んだ。


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