公開授業
公開授業当日。
教師役グレイザック、生徒シャーリネーヴェとリディオノーレ。
そして、グレイザックの側近サムエル。シャーリネーヴェの側近。
あとはシャーリネーヴェの両親、とその側近、そして専属の教師とムナグレーク。
までは良かった。
そこまでは来るのが分かっていたから。
なのに、厨房の料理人が2人、筆頭執事に筆頭メイドまでいる。
意味が分からない。
グレイザックとリディオノーレは内心頭を抱えていた。
なんだこの人数は……、とリディオノーレは顔に少し表情が出ているが、グレイザックは唇の端が少し引き攣っているくらいで止まっている。
無表情は保てているので、流石である。
因みに、サムエルと領主側近ザファムートとムナグレークは内心爆笑していた。
(面白すぎる)
三人共、何とか表情に出さないようにしているが、気を緩めたら吹き出してしまいそうである。
グレイザックはその三人の様子を見て少し睨んだ。
そのあと、料理人たちの方を見る。
「…執事とメイドは、ギリギリ許そう。何故、料理人がいる?しかも料理長と副料理長が何故ここにいる?」
グレイザックは爽やかな笑顔を向けた。
その様子にサムエル達3人は内心吹き出した。
あの笑顔はとても不機嫌なグレイザックである。
「そんなことより、グレイザック様、始めましょう!」
あの爽やかな笑顔のグレイザックに話しかけるとは、怖いもの知らずだなと、隣にいたリディオノーレは感心してしまった。
そんなグレイザックの表情を読み取ることができないシャーリネーヴェの発言に、グレイザックは笑みをもっと深くする。
その笑顔にリディオノーレは身震いしてしまった。
そんな彼女を見たサムエル達3人は頑張れ、と内心で応援する。
「……りょ、料理長と副料理長は私にいつも色々と教えてくれているので、私を心配して来たのかもしれません」
リディオノーレはとりあえず、グレイザックのあの笑顔を辞めさせようと口を開く。
その彼女の発言にグレイザックは片眉を上げた。
爽やかな笑顔を辞めさせることができ、リディオノーレはほっと息を吐く。
だがシャーリネーヴェは安堵とは反対にリディオノーレに抗議する。
「あなたのせいですの!?グレイザック様が迷惑がっているではありませんか!」
まさかそんなことを言われると思ってなかったので、リディオノーレは目を丸くした。
サムエルがぷ、と吹き出したのが聞こえ、リディオノーレは思わず振り向いた。
グレイザックもサムエルを睨み付ける。
リディオノーレはグレイザックに向き直り、「いつも美味しいご飯をつくってくれてる料理長たちですよ。今日だけは私の顔に免じてゆるして下さい」と上目遣いで言ってみた。
「………」
グレイザックは困った表情をして、リディオノーレを横目で見ながら料理長たちに声をかけた。
「……うちの弟子が、迷惑をかけてないか?」
グレイザックの言葉に料理長と副料理長は目を丸くしたが、笑顔で答える。
「とても気の利くよい子です。よく手伝いしてくれて助かってますが、料理の腕はからきしです」
料理長は笑う。
「面白いことを聞いた」
グレイザックはにやりと笑う。
「ちょっと!グランエール様!それは秘密です!」
リディオノーレは慌てる。
グランエールと呼ばれた料理長はにやりと笑う。
「その歳であそこまで気遣いができたら申し分ないですね。流石、グレイザック様が引き取ってきただけの娘です。彼女の日頃の生活を知りませんので、今日だけ少し見ても良いでしょうか?」
グランエールの言葉に隣の副料理長が頷いている。
「構わない。仲良くやっているようで安心した。これからも頼む」
グレイザックはリディオノーレが褒められたことに少し嬉しそうな顔をした。
まさか、グレイザックが面前でそんなことを言うと思ってなかったのでグランエール達は目を丸くしたが、頷き微笑んだ。
そんな様子を見ていたシャーリネーヴェは、内心爪を噛む。
本当にグレイザックに可愛がられているように見える。
「グレイザック様、今日の授業を楽しみにしていたんです。始めて下さいませ」
シャーリネーヴェはグレイザックに進言した。
グレイザックは少し微笑んで、授業を始めた。
「まずは有名な転移の魔法陣にしましょう。学院の魔法陣の授業で1番はじめに習うものです」
グレイザックは解説をしだす。
「わたくし、もう描けるようになりました」
シャーリネーヴェは自信満々にそう言った。
「では、シャーリネーヴェ様に描いてもらいましょうか」
グレイザックは微笑む。
口調がいつもと違うので、リディオノーレからしたら違和感でしかない。
シャーリネーヴェは得意げに杖で空中に描き始めた。
「よく勉強できていますね。何も見ずに描けるとは、頑張って覚えましたね。では、この本を転移させてみて下さい」
シャーリネーヴェは「ディプレビール」と唱え、本を転移させることに成功した。
「素晴らしいですね。では、次はリディオノーレ」
リディオノーレは自分で調合した杖を取り出す。
杖があることにシャーリネーヴェは驚き、思わず口を開いた。
「あ、あなたの杖ですの!?」
「とりあえず、この授業を受けるために用意した杖ですけど…」
リディオノーレは彼女が驚いている理由がわからず、少し首を傾げる。
実はサムエルとムナグレーク以外は、リディオノーレが杖を出したことにかなり驚いていた。
その様子にグレイザックは内心ほくそ笑む。
「グレイザック様に用意してもらったのですか!?」
シャーリネーヴェの声が少し大きくなる。
「素材は使わせてもらいましたけど…?」
何にそんな驚いているのか分からず、リディオノーレは首を傾げる。
「グレイザック様、発言のお許しを」
シャーリネーヴェの専属教師が発言の許可を求める。
グレイザックは「許す」と一言だけ発する。
「彼女の言葉を推測するに、もしや調合を彼女自身でされたのですか?」
その教師の質問にグレイザックは唇の端を上げる。
「勿論。それくらい普通だろう?」
その言葉に室内がざわ、とする。
リディオノーレは1人え?え?となっている。
「………随分、普通のレベルが高いのですね」
教師が苦笑いになる。
「そうか?普通だろう?」
グレイザックはリディオノーレに尋ねる。
「はい。調合楽しいですし」
リディオノーレは笑顔で答える。
その言葉に教師が引き攣った笑みになる。
「…続けてください。中断してしまい申し訳ありませんでした」
教師は何か言いたそうだったが諦めた。
「質問は後でまとめて受け付けますので」
グレイザックはそう言い放つとリディオノーレに向き直る。
やれ、と目が言っている。
リディオノーレは頷くと転移の魔法陣を空中に描き始める。
でも、またもや周囲がざわつく。
グレイザックは周囲を睨み付け、黙らせる。
「気にせず続けろ」
リディオノーレは頷きながら、簡略の転移魔法陣を描き終えた。
そして呪文を唱え、本を転移させる。
きちんと転移したことにより、周囲はまたもざわつくがグレイザックに睨まれ、静かになる。
「……これは使わない方が良かったですか?」
リディオノーレは眉を下げる。
「普通の描きます」
リディオノーレはすいません、と呟いて素早く描き始める。
「良い。外野は気にするな」
彼女が振っている杖を掴んで、グレイザックは止める。
「転移の魔法陣は大丈夫そうですね。では、まだ習ってない魔法陣で興味があるやつはありますか?」
グレイザックはシャーリネーヴェに尋ねる。
シャーリネーヴェはちら、と隣のリディオノーレを見てから口を開いた。
「彼女が知らない魔法陣を教えてほしいです」
その言葉にグレイザックが唇の端を上げた。
「私は転移の魔法陣のさわりしか教えていませんので、他は何も知りませんよ」
グレイザックが微笑みながら答える。
「……先程の少々変わった魔法陣もグレイザック様が教えたのですか?」
「いいえ。自力ですよ」
グレイザックはまた微笑むと、「では、闇の魔法陣はどうでしょう?」と提案した。
「やりたいです!」
リディオノーレが目を輝かせ飛びつく。
グレイザックはくく、と笑う。
「では、闇の魔法陣はこれです」
グレイザックは見本を2人に見せる。
「これを行使すると、魔力の大きさによってその範囲の灯りが消えて闇になります」
シャーリネーヴェは早速見本を見ながら描き始める。
リディオノーレはぶつぶつと呟きながら、見本を見つめる。
転移の魔法陣と比べたら複雑ではない。
シャーリネーヴェは勝ち誇った顔で魔法陣を描き終えた。
「呪文はオスブルです。どうぞ」
グレイザックに教えてもらった通りに彼女は唱える。
すると彼女とリディオノーレとグレイザックを含めた周囲だけ灯りが消えた。
「わぁ」
リディオノーレは興奮した声を漏らす。
「一発で成功とはやりますね」
グレイザックはそう言うと、何やらがさこそと取り出し、魔力を流して唱えた。
どうやら光の魔法だったようで、灯りが戻った。
「どうだ、リディオノーレ。やれるか」
グレイザックは尋ねる。
シャーリネーヴェはもう勝ち誇った顔をしていて正直嫌になるが、グレイザックは無視している。
「魔法陣の文字、記号の本はありますか?」
リディオノーレはまだ闇の魔法陣を見つめながらそう尋ねた。
「あるぞ」
本を差し出すグレイザック。
「本当はじっくり実験をしたいのですが、皆さんを待たせるわけにはいきませんので、助言をください」
彼女は顔を上げる。
「何だ」
「この魔法陣は簡略な置き換えができますか?それとも省略できますか?」
その質問にグレイザックはにやりと笑った。
周囲がまたざわつく。なんだ、その質問は…と誰かが呟いたのが聞こえた。
「これは2つほど簡略化できるだけだ」
「……分かりました」
ふむ、と呟く。
「本、見させて下さい」
リディオノーレは本の頁をめくり始める。
「グレイザック様、この闇の魔法陣はどういった時に使うことが多いですか?」
「闇に紛れて行動したりするときに使える」
「……じゃあ、範囲が広ければ広い方がいいということですよね?」
リディオノーレはぐるぐると考えをまとめながら喋る。
「そうだ。だが、魔力量で差が出る」
その言葉にリディオノーレはひとつ閃くことがあった。
「実験します」
リディオノーレは本で目当ての物を見つけると、闇の魔法陣を描きながら、途中本で調べた物を付け足していく。
グレイザックが意地悪い顔をするのが横目で見えた。
ムナグレークは目を輝かせながら見ている。
何だあれは、と呟く声も聞こえる。
が、リディオノーレは集中しているので、聞こえない。
「ここにはめるとこの記号が発動しないから…こっち……?」
1回目は失敗し、発動せず。それと共に、杖も崩壊してしまった。




