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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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アンとの訓練




「リディオノーレ様、まだですよ。気を緩めるが早いです」

アンが咎める。


リディオノーレは拗ねたような顔になる。

お貴族様の振る舞いをするのはしんどすぎる。


「駄目ですよ」

「もう疲れました。子息は前から知り合いですし、いいじゃないですか」

リディオノーレは唇を尖らせる。


「………」

アンはこめかみを揉む。


「まあよく頑張った方じゃないのか」

ケネスは苦笑しながら口を挟んだ。

「ですよね!この姿勢も、話し方も、色々疲れました」

リディオノーレはぐったりする。


「………はぁ」

リディオノーレはため息をつきながら、椅子の肘掛けにもたれかかった。


「最近お会いしたばかりでしたのに、この短期間で淑女教育を受けてきたのですか。素晴らしい成果ですね」

子息は感想を述べた。

「……教育係が厳しいものですから………」

「またグレイザック様ですか」

子息が眉間に皺を寄せる。


「いえいえ!違いますよ!」

リディオノーレは慌てて否定したが、子息は信じていなさそうだった。


「また2日後来ますね」

リディオノーレは体をほぐしながら立ち上がり、子息に頭を下げて天馬に向かう。


リディオノーレとディール、ケネスとアンが天馬車に乗り込む。


リディオノーレは隣にディールを座らせて、彼にもたれてぐったりしていた。


「気を緩めすぎです」

アンが息を吐く。

「ずっとあんなことしてないといけないなんて、辛すぎます」

「それが貴族と平民の壁だと思って下さい。馴れ馴れしくしていると舐められてしまいます」

アンが言う。


「もう疲れました…」

リディオノーレはディールをぎゅっと抱き締める。

「帰りたいです」

リディオノーレはディールを抱き締めながら、そう呟いた。


「今帰っているでしょう」

アンがため息をつく。

ケネスは彼女の言葉の意味が分かって苦笑していた。


「………アンさんは何歳なんですか」

リディオノーレはディールに抱きついたまま尋ねた。

「あれほどさん付けは結構だと言っているのに……」

アンは息を吐きながら、呆れつつも答える。

「22になります」

「なら、さん付けは当たり前ですよ」

リディオノーレは言う。


「ですが、私やレンはあなた様の側近という扱いですからね」

「それは分かってます。逆にすいません。こんな小娘についてもらって」

「……少し、興味がありましたので」

アンは少し視線を逸らして答えた。


「何の興味だ」

ケネスが口を挟んだ。


「………」

アンはケネスを見つめる。

そして、リディオノーレも見た。


「私も知りたいです」

リディオノーレは答えた。

アンは少し息を吐いてから、口を開いた。


「あの、グレイザック様の弟子の方ですから。影の騎士団でもかなり噂になっていました。アラウィリア騎士団達との天馬合戦に勝った少女がいると」

アンはリディオノーレを見つめる。


「それがこのような少女というのですから、半信半疑ですよ。今もまだ半信半疑です」

その言葉にケネスはアンを見つめた。


「ケネス様、当たり前じゃないですか。信じてもらえなくて当たり前ですよ。師匠が凄過ぎるんですよ」

リディオノーレは言う。


「一度手合わせして欲しいところですね。レンも恐らく同じ気持ちかと」

御者台にバルデミアンと共に座るレンに向かって、アンは言った。


「手合わせは出来ないのですが、良ければ私の訓練に付き合ってくれると助かります」

「??構いませんが、一体どんな訓練ですか?」

アンが尋ねる。


「目隠しして気配を察知する訓練をしています」

「!?」

アンが目を見張った。


「接近戦が得意なんだろう?なら、得意分野だろ」

ケネスが口を挟む。

「確かにそうですが」

潜入捜査などは、気配を殺してどれだけ相手に近付けるかが重要である。


「アラウィリアにいる間、付き合ってもらえ。接近戦も教えてもらうといい」

ケネスが注文をつける。

ちゃっかりそんなことを言ってくるケネスをアンは少しだけ睨んだ。


「……分かりました。やりましょう。レンも一緒ですからね」

アンは答える。

「では、よろしくお願いします」

リディオノーレは頭を下げた。




アラウィリアに帰ると、アンがアブストールにすぐさま報告に行く。

リディオノーレは、グレティアーナと淑女教育だった。


昼食を摂りながら、所作などをたくさん注意される。

その食べ方は駄目だとか、それはそれはもうグレティアーナの小言が止まらない。


「………はぁ」

終われば、またぐったりのリディオノーレだった。


「次は、アン達と訓練するのですって?忙しいわね。行ってらっしゃい」

グレティアーナは笑顔でリディオノーレを見送る。


リディオノーレは衣装を着替えると、ディールの背に乗って運んでもらい、ケネスとバルデミアンと共に訓練場に向かった。


訓練場にはアンとレンがすごく動きやすそうな服装で待ってくれていた。


「……リディオノーレ様は少し体力が無いのではないですか?」

レンが片眉を上げながら告げた。

「……すいません」

リディオノーレは唇を尖らせながら、ディールから降りた。


「いつもは魔力を流してどうにかしてます」

「成程。それくらいは出来て当たり前なのですね」

レンが驚きつつそう言った。


「私たちは基準魔力である狼の魔石の杖の所有者です。魔力は全然ございません。ですので、身体強化に回す魔力がないので、体力をつけるしかないのです」

アンが体をほぐしながら言った。


「では、こちらをどうぞ。実力を知りたいです」

アンが小さい木剣をリディオノーレに渡した。

アンは素手だ。


彼女は目を瞬きながらアンを見つめた。


「こういう接近戦は初めてでしょう?魔法は無しでお願いしますね」

アンはにこりと微笑んだ。


「遠慮せずに来て下さい」

アンは少し嘲りの口の端を上げ、そう告げた。



リディオノーレは小さい木剣を持ち、アンに立ち向かう。

長さが短いので、必然的に接近戦になる。

リディオノーレが木剣を持った手で突くと、アンはその伸びた右手の肘辺りを押さえ軌道を逸らし、木剣を持った手首を掴む。


手首を捻り上げられ、リディオノーレは膝をつく。


「はい、一回」

アンはそう言って手を離した。


鮮やかな捌きにケネスとバルデミアンは感心した。


「もう一回、お願いします」

リディオノーレは膝をはたいて立ち上がり、木剣を捨てた。

その選択にアンは少し目を瞬いたが、唇の端を上げて笑っていた。





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