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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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商人エリー




「遅い」

転移陣で帰ったリディオノーレを待ち構えていたのは人化ケネス。


「遅すぎるぞ」

「すいません……。グレイザック様と話してたら遅くなっちゃいました」

リディオノーレは肩をすくめる。


「はぁ。ちょっと待ってろ、アンを呼ぶ」

ケネスは廊下に控えていたアンを呼んだ。


「お前は何処までの仕事が出来る?」

ケネスが尋ねる。

「どういう意図の質問でしょうか。影の騎士団としてのことなのか…」

「違う違う。側近の仕事は出来るのか」

ケネスが問うた。

「ひと通りは」

アンは首を傾げながら答えた。


「では、リディの身支度を頼めるか」

「かしこまりました」

「ディール、しっかり見張っておけよ」

ケネスはそう言って、廊下に出た。

人化しているため、気を遣ってくれたらしい。


「では、失礼します」

アンがリディオノーレの衣服に手をかける。

「え、え!」

リディオノーレの慌てぶりを物ともせず、アンは尋ねる。

「今日の衣装は決まってますか?」


「………これです」

リディオノーレは衣装を取り出す。

ラルシャークの祭りでグレイザックが買ってくれた衣装である。


アンはリディオノーレが着やすいように補助してくれる。


「……こんなのしなくても自分で着れますよ?」

リディオノーレは恐る恐る言った。

アンは無言。無視に近い。


「………これが普通なんですか?」

リディオノーレは無言が嫌で話題のために尋ねた。

「そうです。その為の側近でございます」

アンは無表情で答えた。


リディオノーレはもうされるがままに身を任せた。


衣装を着せてもらい、髪も結ってもらうと、リディオノーレは少し疲れた顔で部屋を出た。

疲労している彼女の顔を見て、ケネスは笑う。


「慣れるしかあるまい」

ケネスは笑いながらそう言うと、皆で朝食の席についた。




食後は、リディオノーレとケネス、バルデミアンとディールを引き連れ、アンとレンも合わせて大所帯でラルシャークに向かった。


「……リ、リディオノーレ様。今回は人数が多い…ですね」

出迎えてくれた子息の顔が引き攣っていた。

「ええ。今回は少し」

リディオノーレは優しく微笑んだ。


そのあまりに優しい微笑みに、子息は思わず頬を染めた。

そんなことには気付く筈もないリディオノーレは、応接室に案内してもらう。


部屋の外にはバルデミアンとレンが控える。

中にはケネスが扉付近に控え、リディオノーレが着席したその後ろにアンが立つ。

ディールはリディオノーレの足下に蹲った。


そして、目の前には少女とその側近だと思われる女性と男性、計3名が立っていた。


子息は中間の位置に腰を下ろす。


「リディオノーレ様、こちらがエリーです」

子息が紹介する。

リディオノーレは無言で微笑む。

彼女の微笑みは、とても好印象である。ケネスは見ていて感心していた。


「エリー、こちらがリディオノーレ・ネルク・オルネリア様だ」


「エリーです。この度はお声をかけていただき有難うございます」

エリーは肩までの茶色の髪で顔立ちは幼いものの、目はギラついていた。


リディオノーレは手だけでエリーに座るように命じる。


エリーは早速、型録を取り出した。

「こちらが最近売り出したばかりの衣装や装飾品、あと美容関係の物になります」

アンがその机の方に回り込み、型録を触る前に粉末が入った瓶を取り出して、型録に振りかける。


「ちょ!何を!」

子息が声を上げた。

リディオノーレは手で子息を制する。


リディオノーレもアンがゲリルの粉末をかけるとは思っていなかったが、その徹底ぶりに感心していた。

ケネスも驚いていたが、少し目を見張っただけで感心の方が大きかった。


「問題ありません。どうぞ」

アンが洗浄魔法をかけたのち、リディオノーレに型録を渡す。


子息はまだ驚きを隠せないでいたが、エリーは目を瞬いただけでにこりと微笑んだ。

エリーの方が肝が据わっている。


リディオノーレはぱらぱらと型録を見る。

「どうでしょうか。何か気に入る物がございますか?お好きな色と模様を言って下されば、ご希望通りに仕上げることもできます」

エリーが喋る。


「主が見ていますので、黙っていて下さい」

アンがエリーを咎める。

リディオノーレはアンの対応に苦笑してしまいそうになるが、堪える。


「1番人気の物を教えてもらってちょうだい」

リディオノーレはアンに伝える。


いつもより口調が丁寧で、優雅に振る舞っているリディオノーレを見て、子息は少し目を瞬いていた。


エリーはもう1冊型録を取り出し、これとこれ、とアンに説明する。

1番人気の商品は美容液だった。


「どんな客層に売れているのか確認して」

リディオノーレはアンに追加で伝える。


「こちらの手頃な価格の方は平民がほぼ持っている物と思って下さい。倍の値段がするこちらは、私共と懇意にしてくれているラルシャーク領貴族中心に売れていまして、最近ではウィスナビアのお貴族様にも少しずつ知れ渡っております」

エリーは説明する。


「自国ではあまり浸透していませんが、隣国のナックルンドなどでは平民、貴族関係なしにまとめ注文を頂いております。最近では、ナックルンド王城に勤める使用人達に好評です」

その言葉にリディオノーレは軽く目を見張った。


「そんなに人気の美容液、とりあえず1ついいかしら」

リディオノーレはにこりと微笑んだ。

エリーは満面の笑みで「喜んで!」と言う。


リディオノーレは契約を交わし、エリーは2日後には商品を持ってくると約束してくれた。


とりあえず、無事に取引ができ、エリーと繋がれたことに安堵するリディオノーレ。


エリーがほくほく笑顔で退室していくのを見送って、リディオノーレは上手く対応できたことに安堵の息を吐いた。





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