アブストール夫妻とケネス
「我は、アラウィリア息女からの紹介という体でこの商人と繋がるのはありだとリディに提示した。それをリディは、お前たち2人が同席しても構わないと言ったんだ」
ケネスは2人を見つめる。
「リディ自身、少しは警戒しているということだ。成長はしている。前なら、ここで突っ走るところだ」
確かに…とグレティアーナが呟いた。
「どうだ?新たな視点での情報収集はありだと思うのだが」
ケネスはアブストールを見つめた。
「………影の騎士団団長の意見を言わせてもらうと大いに助かりますし、情報は多い方がいいです」
アブストールは答える。
「ですが、グレイザックの友人として言わせてもらうと、許可を簡単には出せません」
アブストールは拳を握る。
「グレイザックは、もしもの場合に備えて私たちにリディを託しています。そんなリディを少しでも危険な目に遭わせるわけにはいきません」
「案外、お前も過保護だな」
ケネスは呟く。
「ですが、リディの気持ちも分かります」
アブストールは苦い顔で言う。
「ケネス殿、実際、グレイザックとリディはどのような関係性なのですか」
アブストールは問うてみた。
「どちらも好いておるだろ」
ケネスはあっけらかんと答える。
「あの2人の様子を見て、恋仲でないと言えるか?どう見てもそうだろう?毎晩一緒に寝ておるしな」
ケネスは頭を掻く。
「え?………は?」
アブストールは口をあんぐりと開けた。
そして、我に返り「もう一度伺っても?」と言う。
「学院にいる間も毎晩転移陣で主の部屋に帰ってきては、一緒に寝て翌朝に学院に戻るという生活をしていたぞ」
ケネスの暴露にアブストールはまた口をあんぐりと開けた。
「……あの、それは、その、もうそういう行為をしたということですか?」
グレティアーナは恐る恐る尋ねた。
その質問にアブストールは我に返る。
「主が手を出す筈なかろう。だが、密着度は高い。主が触られるのを許しておるし、主もリディによく触れている」
「………よく我慢できるな」
アブストールはぼそりと呟いた。
その呟きに、グレティアーナは彼の膝をはたいた。
アブストールはひとつ咳払いする。
「グレイザックは娶る気はあるのですか」
アブストールは尋ねた。
「死んでいなければな」
ケネスはそう答えた。
「主が何処までの未来を見ているのかは我は分からん。計画を知っているだけで、どういう結果を出したいのかは話してくれんからな」
「………計画をお聞きしても?」
アブストールはケネスを見る。
「その内分かるだろう。それより、今回の件どうするのか答えを聞かせてくれ」
ケネスは尋ねる。
「………私かティアが同席したい所ですが、少し怪しまれそうな感じがします。ですので、私の団員が同席しても構わないなら許可を出しましょう」
アブストールは息を吐いたのち、言い切った。
「グレイザックがどうするつもりなのかは知りません。ですが、いなくなった後ということは最悪も考えて行動しないといけません。その最悪にならない為には、使える手は使います。リディのことを任されているとは言っても、私はグレイザックの友人歴の方が長いのでグレイザックの方が大事です」
そう言い切ったアブストールにケネスは唇の端を上げた。
「そういうお前だからこそ、主はお前にリディを任せているんだろうし、リディも頼ってきたんだろう」
ケネスは言った。
「では、そういうことで頼んだ。リディも最悪なことにならないように自分に出来ることをしたいんだろう。礼を言う」
ケネスは立ち上がると、扉に手をかける。
アブストールは盗聴防止の魔法を解く。
「急に頼みごとをしてすまなかったな」
ケネスはそう言って、扉を開けたら廊下には誰もいなかった。
「ちょっと探してくる」
「……恐らく、訓練場かと。そちらの方向で歓声が聞こえます」
アブストールは苦笑しながら答えた。
3人が訓練場に向かうと、リディオノーレが剣の稽古をライムグートとおこなっていた。
フェルバールとバルデミアンは天馬合戦を繰り広げている。
ライムグートはリディオノーレが今サムエルとおこなっている訓練を聞いたようで、少し様子を見ながら丁寧に付き合っていた。
サムエルとは大違いである。
リディオノーレは目隠しをし、ライムグートは気配を殺しながら彼女に木剣を振るう。
それを避けるリディオノーレ。
気配を読む術が前より増して洗練されている。
ケネスは感心した。
アブストールは驚きを隠せない。
「一体、何を」
「あの事件以降、リディは剣先恐怖症なんだ」
ケネスが説明する。
「それで、見えなければ良いと?」
見なければ剣と対峙できるというのか。
アブストールは驚きを通り越す。
「見ずに戦うなど、どれくらい先のことか」
それなら違う武器を極めた方が早い気がする。
「まあ鞭の扱いが下手だったのもある。1番向いてる武器が剣だから、これは頑張ってもらうしかない」
ケネスは苦笑すると、訓練している彼女に声をかけた。
目隠しを取ったリディオノーレは、ライムグートにお礼を言うとケネスに駆け寄る。
「大分出来るようになってるじゃないか」
ケネスは彼女の頭に手を置いて、わしゃわしゃと撫でる。
「本当ですか!」
リディオノーレは嬉しそうに跳ねる。
そして、アブストール夫妻を見て「どうなりましたか?」と尋ねた。
「……許可する。但し、こちらの騎士が監視と護衛の名目で同席する。それでも良いなら構わない」
「ありがとうございます」
リディオノーレは微笑んだ。
「……許可すると分かっていたのか」
アブストールは苦笑いで尋ねる。
「だって、師匠が信頼を置くお友達ですもの。師匠の為を思うなら許可しますよ」
「………はあ」
アブストールはため息をついた。
「リディ、あまり無茶するなよ」
「私はグレイザック様の方が大事です」
リディオノーレは微笑みながら答えた。




