リディオノーレの交渉
フェルバールの見合いが終われば、リディオノーレ達はすぐにラルシャークを発った。
グレティアーナから手紙が届き、いつでも来ていいとの許可を得たので、すぐさまアラウィリアに向かったのだ。
「……いつでもいいとは言ったけど、素直すぎないかしら?」
グレティアーナは呆れながらも出迎えてくれた。
到着したのは夕の鐘が鳴る前くらいだった。
「陽が沈んだら流石に飛んだら駄目よ。グレイザック様もいないのに夜に帰らせるわけにはいかないわ」
グレティアーナが言う。
「えっ」
リディオノーレは驚く。
「当たり前でしょう。危ないもの。グレイザック様に手紙を出しておくわ。先に私の部屋に案内しててちょうだい」
グレティアーナは側近に命じる。
リディオノーレは少ししょぼくれながら、側近についてグレティアーナの部屋へ向かった。
フェルバールとバルデミアンが部屋の中で護衛につき、リディオノーレは腰掛けるとケネスが彼女の後ろに控える。
部屋にはアブストールが待っていた。
「お久しぶりです、アブストール様。例の騎士はどうですか」
リディオノーレは尋ねた。
「回復に向かってる。リディとグレイザックのおかげだな」
「そう言ってもらえるだけで心が晴れます」
リディオノーレはお茶を飲みながら答えた。
「で、急に何でまた?」
アブストールは単刀直入に尋ねてきた。
「こちらの商家をご存知ですか?」
リディオノーレはアブストールに名簿を見せた。
彼が名簿を読んでいると、グレティアーナも帰ってきた。
アブストールの隣に腰を下ろすと、彼がグレティアーナに名簿を見せる。
「この商家を知っているか聞きたいそうだ」
グレティアーナは名簿をもらって、詳細を見る。
「………そうね。知ってることは知ってるわ。言わば、成金一族ね」
グレティアーナがズバッと言い放つ。
その言葉にリディオノーレは笑ってしまう。
「ご存知なら話は早いです。こちらを調べたのはラルシャーク子息なんですが、情報元がそちらだけじゃ信用なりません。なので、ティア様にお伺いしようかと思い、来ました次第です」
「……なるほど」
グレティアーナは納得して、側近に何かを命じた。
側近はすぐ部屋を出る。
「ちょっと待っててちょうだい」
少しすると、側近が書類を持って帰ってきた。
「はい、見ていいわよ」
グレティアーナは書類を渡す。
リディオノーレは遠慮なく、書類を手にした。
そこには、その商家が扱っているもの全て、取引先などが書かれており、大体の資産、売上などが記載されていた。
「ひぃ」
リディオノーレは思わず肩をすくめる。
「何でこんな情報を持っているんですか?」
リディオノーレは思わず尋ねる。
「私は影の騎士団団長の嫁よ?」
グレティアーナはそう答えて微笑んだ。
そう言われたら何も言えない。
「この書類を見る限り、ラルシャーク子息の情報は間違いではなさそうですね」
リディオノーレは答えた。
「そうね。だけれども、リディが付き合うには身分が低過ぎるわ。グレイザック様なら止めてると思うけど。アブはどう思う?」
グレティアーナが隣のアブストールに尋ねる。
「そうだな……。害にはならないが、付き合いは推奨出来ないかもな」
アブストールもグレティアーナの意見に同意した。
リディオノーレはそう言われるのを覚悟していたので、唇の端を上げて切り込んだ。
「この商家の取引先、ご存知ですか」
「だからこそよ」
グレティアーナは即答した。
「自国だけではなく、どことでも取引するこの家。あまり好きではないわ」
彼女は少し嫌そうに答えた。
「商人ですからね。そこは利益があれば、何でも飛びつくのではないのでしょうか」
「分かっているけれど、ナックルンドのきな臭さは商人なら分かっているはずよ」
「商人ならそんなの関係ないと思います。利益があれば、いいのですから」
リディオノーレは答える。
「………リディ、何する気なの」
グレティアーナは鋭く見つめた。
「少し、この娘さんと接触したいのです」
リディオノーレは微笑んだ。
「駄目よ、駄目」
グレティアーナは即答する。
「ティア同様、許可できんな」
アブストールも答える。
「では、切り口を変えましょう」
リディオノーレはそう発言した。
ケネスが背後で少し笑いながら話を聞いている。
「私は、師匠がアブストール様やティア様に何を頼んでいるのか知りません。でも師匠が何かを探っていることは知っています」
リディオノーレは真剣な眼差しをアブストールに向けた。
アブストールの表情がスッと怖くなる。
「この間の騎士の件もそうですよね?師匠は何も教えてくれませんでしたが、師匠に頼まれて諜報活動をされていますか?」
リディオノーレは尋ねた。
アブストールは肯定も否定もせずに、彼女を見つめ返す。
リディオノーレは続ける。
「何を探っているのですか?」
「……何を探っていると思う?」
アブストールは鋭い目で彼女を見つめたまま、逆に問う。
「ザファムート様は王女の護衛騎士だったと、あの時、師匠が言っていました」
ケネスは彼女の背後で、彼女が何処までを察しているのか真剣に聞いている。
「探っているのはナックルンド王族ですか」
リディオノーレは切り込んだ。
その言葉にアブストール夫妻は表情を変えることはなかった。
「答えられないのも重々承知なので、このまま続けますね。諜報活動をしている騎士たちは色んなところに紛れて生活しているかと思いますが、商人という違う視点から探ってみるのはどうでしょうか。素人だからこその情報もあるかと思うのです」
リディオノーレはにこりと微笑んだ。
「………グレイザックには報告しているのか?」
「いえ。お2人が口裏を合わせてくれたらそれで良いのですが」
リディオノーレはにこりとまた微笑む。
「グレイザックの許可なしに行おうとしてるのか」
アブストールが怖い顔をする。
「情報はアブストール様に全てあげますし、むしろ同席してもらっても構いません」
リディオノーレは言う。そして、続ける。
「師匠からの信頼厚いお2人にしかこのことは言えませんし、私だって、師匠の手伝いをしたいです」
「……リディの人脈でどこまでの情報が得られるのか確認したい」
ケネスが徐に口を開き、リディオノーレを援護する。
「純粋に興味がある」
ケネスは重ねて言った。
「ケネス殿」
アブストールは呼びかけ、息を吐く。
「グレイザックに言わなくても問題ないと?」
「アブストールとそちらのアラウィリア息女が手伝ってくれるなら問題ないと思うのだが?」
ケネスは言う。
「……本気ですか」
アブストールの顔が怖い。
「お前たちが同席してもいいと本人は言っている。それに、こいつはこんなナリでも我が主の後任だ。人脈をつくっておきたい」
ケネスは言う。
「……リディ。少し、ケネス殿と話をしても良いか?」
アブストールは言った。
「はい。バルデミアン様、少し私と一緒に外に行きましょう」
リディオノーレはバルデミアンを誘う。
「申し訳ない。フェルバール殿も出てくれるか」
アブストールはそう告げる。
そして、アブストールが人払いをして、部屋の中にはアブストールとグレティアーナとケネスの3人だけとなった。
アブストールは念の為、杖を出して盗聴防止の呪文をかける。
「ケネス殿」
アブストールは呼びかける。
「リディは何処まで知っているのですか」
そう問いかけるアブストールの顔が怖かった。
ケネスは足を組むと口を開く。
「リディは何も知らん。本当に。我が主の計画を知るのは、我とサムエルだけだ。逆にお前たちは知っているのか」
「私も知りません。ただ、いなくなった後、リディを頼むと言われています」
「やはり、信頼されている証拠ではないか」
ケネスは言う。
「そんな2人だからこそ、リディは今回、この件を頼みに来たんだと思うぞ」
ケネスは2人を見つめて答えた。




