側近到着
食堂でリディオノーレとスティルナーデが朝食を摂っていると、もう噂になっているのかひそひそと囁き声が聞こえる。
「ねぇ、いつ帰ってきたの」
スティルナーデはそんな囁き声は気にしておらず、朝食をモリモリ食べながら尋ねる。
「さっきよ、さっき」
リディオノーレも朝食にありつきながら答える。
「ひそひそと言うくらいなら直接言ってきて欲しいんだけど…」
リディオノーレは周囲を見ながらため息をついた。
「リディオノーレ様っ!!!」
早速噂を聞きつけたアリウォーナが、髪の毛をくくらず駆けつけてくる姿が見えた。
リディオノーレはまたため息をつく。
「………お久しぶりです、アリウォーナ先生」
リディオノーレは笑顔で答えた。
「はぁ、はぁ、何そんな呑気なんですか。いつ帰ってきたのですか」
「さっきですよ、さっき」
リディオノーレは答える。
「もうひどい噂になっていますから、今度は大人しくしていて下さいね」
「聞きました。何か変な渾名がついてたんですけど。とっても大人しくしてるのに、おかしな話です!」
リディオノーレは憤慨する。
「はぁ……」
アリウォーナはため息をつき、「今からどうされるのですか?」と聞いた。
「図書室に行きます」
「またですか。いやいや、リディオノーレ様、あなた私に調合した薬を渡す約束だったんですから、そっちが先ですよ。余ったらくれる約束でしたでしょう!?」
「師匠が全部持って帰っちゃったんですもん。またつくりますから、少々お待ちください」
リディオノーレはアリウォーナに水を差し出す。
乱れた髪を後ろに払いながら、アリウォーナは椅子に腰を下ろして水を飲み干した。
「側近は?」
「もうすぐ来るんじゃないでしょうか」
リディオノーレは窓の外を見て、大体の時間を推測する。
「リディ、一緒に授業出ないの?」
スティルナーデが寂しそうな顔で尋ねる。
「授業は出ない。けど、授業が終わったら毎日私と勉強だからね、ティル」
リディオノーレはスティルナーデを見つめる。
「え」
「私はあなたの為に帰ってきたんだから」
リディオノーレは言う。
「皆が授業に出ている間は私、やることあるし。あ、丁度フェルバール様も来たし」
リディオノーレはフェルバールが食堂に入ってきたのを見て立ち上がる。
「リディだけずるいですよ」
フェルバールは汗を拭きながらやってきた。
「あ、失礼しました。リディオノーレ様」
フェルバールは頭を下げる。
「では、行きましょう。フェルバール様」
「え、休ませて下さいよ」
フェルバールは言う。
そんなことを言う彼の後ろから、誰かがツカツカと歩いてきて彼の頭をはたいた。
「ええっ!?ケネス様!?」
リディオノーレは目を見開いて驚く。
何と、人化したケネスも学院に来ていた。
フェルバールに続き、精悍な男性が現れたことで女生徒たちが少し色めき立つ。
「側近は1人だけの決まりですよ」
アリウォーナが眉間に皺を寄せながら呟いた。
「元気にしてたか、リディ」
「ケネス様も元気そうで何よりです。ディールはどうしてますか」
「ディールも元気だ」
ケネスは答える。
「ねぇ、リディ。誰あの人」
スティルナーデは目を輝かす。
「あの筋肉、只者じゃないでしょう」
スティルナーデはよだれを垂らしながら言った。
ケネスは少し顔を引き攣らせたが、スティルナーデのことを無視し、リディオノーレに話しかける。
「フェルバールの目付役だ。だから、リディの側近ではない。我のことは気にしなくて良い」
ケネスは答えた。
「フェルバール様のですか?私ではなく?」
リディオノーレは目を瞬いた。
「側近の目付役とは……。相変わらず決まり事の穴をつくのが得意なグレイザック……」
アリウォーナはやれやれと1人で呆れ返っている。
ケネスはそんな様子も無視して、リディオノーレに話しかける。
「リディはどうせ、何を言っても変わらんだろ。それに急に帰ってきたから、何やら噂が飛び交ってるんじゃないかと心配している」
ケネスは周囲の生徒を睨みつけてそう答えた。
「………本当に優しいんですから」
リディオノーレは微笑む。
グレイザックが自分の使役獣までつけてくれるなんて。
「で、図書室か?」
「そうです。調べたいことがあるので」
リディオノーレは答えるとスティルナーデに向き直った。
「夕食終えたら一緒に勉強だからね」
リディオノーレはそれだけ言うと、ケネスとフェルバールと共に図書室に向かった。
皆は授業に出席なので、図書室には誰もいない。
貸し出しなどを受け付ける司書がいるだけ。
あとはリディオノーレ達3人しかいなかった。
リディオノーレは魔獣の書籍を漁る。
1冊ずつ見ていくが、なかなか見つからない。
時たま肩を回したり、体をほぐしながら書籍を捜す。
フェルバールは舟を漕いでおり、その度にケネスに頭をはたかれていた。
「リディ、別に急ぎじゃないんだからそんなに一生懸命にならなくてもいいんだぞ」
ケネスは体をほぐしているリディオノーレに声をかけた。
「ですけれど、この学院の図書室を漁ることが出来るのは学生の間だけですから」
リディオノーレは首を鳴らすとまた書籍を捜し始める。
「……魔獣関連ばかり探してるから見つからないのでは?」
フェルバールは自分の頬を引っ張りながら、そう進言した。
眠い。
「魔獣の起源でしたっけ?それなら、歴史の方を探ってみてはどうでしょうか」
フェルバールに言われ、リディオノーレは目を瞬いた。
「確かに。たまにはいいこと言いますね」
リディオノーレは思わず呟く。
「たまには、って何ですか」
心外な、と抗議するフェルバール。
「最近たるんでいるだろ、お前。しっかりしろよ」
ケネスはそう言って、フェルバールを睨む。
「歴史の本って、結構ありますよね……。この中から捜すのか………」
リディオノーレは本棚を見上げ、呟いた。
歴史の本は流石に多い。
端から1つずつ手をつけていくしか方法が無さそうである。
「……やりますか」
リディオノーレは思わず腕まくりする。
そんなやる気のリディオノーレの頭にケネスは1冊の本を置く。
「やる気があるのはいいことだが、先にご飯だ。昼の鐘が鳴る」
ケネスは読書を辞めさせると食事に促した。
食事はスティルナーデとアングロードと摂ると、リディオノーレはまた図書室にこもる。
アングロードはリディオノーレの帰還に大変喜んでいた。
図書室にこもっていると、もう授業が終わったらしいアリウォーナがやってきた。
アリウォーナはリディオノーレが読んでいる本を引ったくる。
「うわぁぁ、何するんですか」
すごい集中していた所に本を取り上げられ、苛立って大声を上げた。
その瞬間、司書に咎められる。
「………何の用ですか」
リディオノーレは恨みがましい目でアリウォーナを見た。
「代替素材で回復薬の調合をしてみて下さい」
アリウォーナは言い、リディオノーレの腕を引っ張る。
「行きますよ」
「えええええ」
リディオノーレはズルズルと引き摺られていく。
「少し動きたかったので助かります……」
フェルバールは思わず本音を呟く。
ケネスはそんなフェルバールの頭をまたはたきながら、ついて行く。
ケネスも実際、そろそろ体が固まってきて動きたいところだった。




