久しぶりの女子寮へ
祭りから帰ってきて数日後の夜、リディオノーレはグレイザックの部屋の転移陣に乗った。
「まだ酔うだろうから、すぐに回復薬を飲めよ」
グレイザックは薬を渡す。
「荷物は持ったか?」
「はい!」
リディオノーレは鞄を叩く。
彼女は制服に着替えていた。
「何食わぬ顔で過ごせよ。何を言われても無視しておけ。お前の目的は脳筋のあの妹に勉強を教えるだけだ」
「はい」
他に誰かがこの会話を聞いていたら絶対に突っ込んでいたであろう台詞である。
「よし。薬を飲んだらすぐに寝ろよ」
「はい」
「フェルは明日の朝向かわせる」
「分かりました」
「じゃあ、起動するぞ」
グレイザックは杖を魔法陣にあて、魔力を流した。
あっという間に転移をし、姿が掻き消えたリディオノーレの魔法陣を見つめ、グレイザックは息を吐いた。
翌朝。
リディオノーレは早めに起きると、学院の自室を出て、まずはシャーリネーヴェの部屋に向かった。
早朝すぎて、部屋の主は不審がりながら誰なのか問う。
「お姉様、リディオノーレです」
そう答えた瞬間、シャーリネーヴェはすぐさま扉を開けると、リディオノーレの手を引っ張ってすぐに部屋に招き入れた。
「この馬鹿っ!本当に!迷惑ばっかりかけて!何してたのよ!」
シャーリネーヴェは怒る。
「本当に!もう!あれから大変だったんだから!」
シャーリネーヴェは今までの鬱憤をリディオノーレに吐き出した。
リディオノーレは文句を言わずに全部聞いた。
完全に自分が悪いからである。
「で、当分はいるの?」
「当分?当分……?んー、まあ、とりあえずは」
リディオノーレの答えにシャーリネーヴェは呆れる。
「まあもういいわ。とりあえず、アングロード様が大変困ってるわよ。スティルナーデ様のことで帰ってきたのでしょう?」
「はい」
「じゃあ、よろしく頼むわよ。あと、アリウォーナ先生もあなたの帰りを待っていたわ」
「あー……」
リディオノーレは苦い顔をする。
「お姉様、もし良ければ1つお願いがあるのですがいいですか」
「………?」
シャーリネーヴェは警戒した表情で彼女を見つめた。
「お姉様なら簡単なことだと思うんです。あの、刺繍を教えて欲しくて」
「刺繍?いいわよ」
想定外の発言にシャーリネーヴェは少し驚いた顔をする。
「ありがとうございます!いつ空いてますか?」
「夕の鐘が鳴ったあと、いらっしゃい。その代わりに私にも勉強教えなさい」
「はい!それくらいならお安い御用です!」
「リディ、授業には出るの?」
「出ません。調合の予定もありますし、図書室にも行きたいですし」
その答えにシャーリネーヴェはまた呆れる。
「相変わらずね。あなたの側近は?」
「今頃出発したのではないかと思われます」
「分かったわ」
リディオノーレは一通りの連絡を終えるとシャーリネーヴェの部屋を出て、今度はスティルナーデの部屋に向かう。
扉を叩いてもまだ寝ているようで返事はない。
リディオノーレはお構いなしで扉を開けた。
「………寝相悪すぎない?」
リディオノーレは寝台から落ちて床で寝ているスティルナーデを見て、思わず呟いた。
「ティル、そんなとこで寝たら風邪ひくよ?」
リディオノーレはスティルナーデの体を揺する。
「んんん〜〜!誰よ」
スティルナーデは呻きながら、もぞもぞと動いた。
そして、焦点が合い、リディオノーレと目が合うと寮内に響き渡るような声で叫んだ。
「ぎゃぁあああああ!!!!リディッ!!!!????」
スティルナーデは目を最大限に見開いた。
早朝の驚くくらいの叫び声に女子寮は「何事!?」と一斉に皆が起きてきて、声がしたスティルナーデの部屋の扉を何人もが叩く。
「………はあ」
リディオノーレはため息をついて、スティルナーデの部屋の扉を開けた。
「え?誰?」
リディオノーレの姿を見て、何人もが首を傾げる。
そして、思い出した女生徒が急に叫んだ。
「え!?あの赤紫の奇人!?」
「………ちょ、ちょっと待って」
リディオノーレは手を出して、制する。
「何その二つ名」
リディオノーレは顔を引き攣らせながら尋ねた。
悪辣非道の弟子はまあ、百歩譲ってあながち間違いではないので否定は出来ないが、赤紫の奇人は何だ。
見た目の特徴である赤紫は許せるが、奇人って何だ。
奇人な行為をしたことはない。
「え、最速で試験終わらせて、最速でいなくなってたリディオノーレ様でしょ?」
「変わり者でなければ、あんな早く試験終わらないでしょ」
「しかも素材の試験ほぼ満点という噂を聞いたもの」
「私も!」
「あと落ちこぼれのスティルナーデ様に唯一好かれている変わり者」
「………ま、待って。何その噂」
リディオノーレは頬が引き攣る。
「ちょ、何その噂。帰る」
リディオノーレは自室に戻ろうとする。
「ま、待って!待って!待って!待って!」
スティルナーデが慌てて引き止める。
「いやいやいやいや、流石にそんな変な二つ名で呼ばれてる所に居れる自信ない。無理無理」
リディオノーレは答える。
「ちょっと!あなた達!やめてくれる!?リディがどれだけ優秀か知った上での発言なの!?リディが怒るとその師匠が来るのよ!?あなた達死ぬわよ!?」
スティルナーデが叫ぶ。
「!!!」
「う、嘘よ、リディオノーレ様。あのグレイザック様の弟子の方に奇人なんて言う筈がないじゃない」
「そうよそうよ。そんなわけないじゃない」
「師匠も優秀だと弟子も優秀だものね」
「私に勉強教えて欲しいわ」
皆が一斉にリディオノーレを持ち上げ始める。
リディオノーレはまだ不快な顔をしながら聞いていた。
「はいはい。解散してちょうだい」
手を打ちながらシャーリネーヴェがやってきて解散を促す。
「スティルナーデ様、着替えてリディと朝食に行ってらっしゃいな」
「はい」
スティルナーデは急いで飛び起きた。




