祭りの終わり
リディオノーレとグレイザックは宣言通り、他の射的の店なども制覇し、挙げ句の果てにもう来るなと言われた。
「あの蝋燭の火を消すの楽しかったんですけど…」
リディオノーレは項垂れる。
蝋燭の火だけを狙って、水の球を放つのは面白かった。
そして、悉く成功していくのがこの師弟2人だけで、しかも景品を掻っ攫っていくものだから、終いには怒られる羽目になったのだ。
「2度と来るなって言われちゃいましたよ……」
リディオノーレは言う。
「仕方ないですよね、これだけやられてしまうと商売できませんし」
サムエルは苦笑する。
「だって簡単ですもん……」
リディオノーレは唇を尖らせた。
そうは言うが、成功者はこの師弟だけなのだ。
サムエル達も出来ないことはないが、この師弟みたいに百発百中ではない。
「まあでも楽しかったのでまた来ます!」
リディオノーレは宣言する。
「来るなって言われたじゃないですか」
ムナグレークが突っ込む。
「髪の色染めたら分からないと思うんですが、どうでしょう?」
リディオノーレは提案してみる。
「………好きにして下さい」
サムエルは諦めた。
「髪を染めたら傷むぞ。やめておけ」
「反対するのはそこですか」
ムナグレークがグレイザックの言葉に突っ込んだ。
「じゃあ、鬘かぶりますか?」
リディオノーレはまた提案する。
「それはありだな」
グレイザックはそう答え、天馬車に向かうまで2人でどうやって変装するか談義が始まった。
約束通り天馬車で来てくれていたグレイザックは、車内にリディオノーレと共に乗り込む。
御者台にはムナグレークとフェルバールが腰かける。
「私共の天馬はラルシャーク城ですので、取りに戻ってからそのまま後を追いますので、このままお先に行って下さい」
サムエルは車外から声をかけた。
「すいません、お願いします」
リディオノーレは自分の天馬のことをサムエルに頼む。
「では、また後ほどアインズビルで」
サムエルとバルデミアンは天馬を取りに去って行った。
「さあ帰るか」
グレイザックの合図で、天馬がふわりと駆け上がる。
馬車が安定した所で、師弟2人は購入した衣装を取り出し、早速杖を振るい始める。
「温度感知ってどうやったら出来るんでしょうか」
「温度感知?」
グレイザックは思わず聞き返した。
「寒いと暑いのを感知して欲しいんですけど」
「難しいことを言うんだな……」
グレイザックは眉間に皺を寄せた。
2人は「うーーん」と唸る。
「あ!」
リディオノーレは何か閃いたのか声を出したが、「いや、無理か…」と呟く。
「いや、でも、」と言うと、魔法陣を描き出した。
「師匠、ほらこの前、半永久的に回復がかかるように魔法陣描いたじゃないですか」
リディオノーレは言う。
こういう時は〝師匠″呼びである。
「………それは難しそうだがな……。一朝一夕で出来るような術じゃないな」
グレイザックは彼女の意見を聞いて唸る。
「じゃあ、2つ描いておいて、必要な時に魔力を流すのは?」
「描いた時点でそれは発動条件になるから……ならば、刺繍でどうだ?刺繍の魔法陣なら、必要なときにそこに魔力を流せばいい」
グレイザックは提案する。
「刺繍ですか?」
リディオノーレは目を瞬いた。
「……自信ないです」
リディオノーレは項垂れる。
「義姉上やシャーリネーヴェに聞けばいい」
「………やってみます。時間かかりますがいいですか?」
リディオノーレはグレイザックを見つめる。
グレイザックは、ふ、と笑うと彼女の頭に手を置いた。
「そういうことは不器用なのは知っている」
「失礼ですね!」
リディオノーレは頬を膨らますが、そんなには怒っていない。
衣装をしまいながら、リディオノーレは腰を下ろした。
グレイザックは汚れ防止の魔法陣を描いて、彼女に衣装を渡す。
「ありがとうございます」
リディオノーレは嬉しそうに受け取り、グレイザックが隣に座れるように少し横にずれる。
グレイザックは彼女の隣に座ると、口を開いた。
「あの劇を観てどう思った?」
「正直恥ずかしかったです。勝手に台詞をつけられていたので」
リディオノーレは答えた。
「だろうな」
「グレイザック様も観てたんですよね?」
「ああ。グレークが怒っていた」
グレイザックが小声で答えた。
小声じゃないと御者台のムナグレークに聞こえてしまうからだ。
「そうでしょうね」
グレイザック大好きのムナグレークだ。
怒っている様子が容易に想像できる。
「本も見たか?」
グレイザックは尋ねる。
「見ましたよ……。劇と一緒で脚色されてましたね」
リディオノーレは苦い顔で答えた。
「買ったか?」
「買ってません」
「グレーク」
御者台で話を聞いていたムナグレークは小窓から1冊の本を渡す。
その本を受け取ったリディオノーレは、題名を見て嫌な顔をした。
「買ったんですか」
「記念にな。詳しく読みたいだろ」
グレイザックは唇の端を上げる。
リディオノーレは無言で本を開き、ゆっくりと読み始めた。
だが、その内疲れたのかリディオノーレは目をこすり、本を閉じた。
「寝てもいいですか」
リディオノーレはそれだけ言うと目を閉じた。
座ったまま壁にもたれて、あっという間に寝てしまったリディオノーレ。
グレイザックは自分の膝の上に寝転がせてやると、上着をかけてやる。
彼は彼女の髪を弄びながら、自分も目を閉じた。




