合流
カフスにブローチ、腕輪を取ったリディオノーレは装飾品を全て子息に渡した。
また射的の時のように歓声が上がる。
「私の分も取っていいですか」
リディオノーレは財布からお金を出そうとすると、「俺が出す」と背後から声が聞こえた。
「っ!」
いきなりの登場に驚く皆だが、リディオノーレはその声の主に微笑みかけた。
「あれですよね?」
リディオノーレは1つの景品を指差した。
「それだ」
声の主、グレイザックはリディオノーレと子息の間に割って入る。
子息は声を上げようとしたがムナグレークに睨まれ声は上げられず、睨み返したがグレイザックはそんなの視界にも入れていない。
そんな様子にサムエル達は苦笑する。
「あの、すいません」
リディオノーレは店主に声をかける。
「あれって、何の種か分かります?」
不明な植物の種が1つ景品としてあるのだが、それが気になっていた。
「あれは花が咲いて実がなれば、高値で取引できると言われたんだが、全然咲かないんだよ。あれが欲しいのか?」
「ええ、是非」
リディオノーレは答えた。
「銀貨1枚でいいよ。売れ残っても仕方ないし、5つくらいやるよ」
その言葉にリディオノーレとグレイザックは顔を見合わせて、にやりと笑った。
正直、ここの景品で1番高価なのはあの種である。
「グレーク」
グレイザックに呼ばれ、ムナグレークは銀貨1枚を取り出して渡す。
「一回でも入れば、あの種を5つくれるのか?」
グレイザックは店主に尋ねる。
「いいよ。でもお嬢ちゃんが成功するのは目に見えてるから、お兄さんがしてみたらどうだい?」
店主は言う。
その言葉に師弟はまた顔を見合わせる。
「私より成功率が上がりますがいいですか?」
リディオノーレは確認を取る。
店主は目を瞬きながら、2人を見た。
「兄妹かい?」
「いえ。師弟です」
リディオノーレは笑って答える。
「師匠と弟子?………まさかね?」
店主は2人を見比べて、引き攣った笑みを見せる。
「でも金髪と赤紫の髪。まさか」
その発言に師弟はにこりと笑った。
「で、俺がやっていいのか?」
グレイザックはにやりとしながら問うた。
店主は恐る恐るグレイザックに輪を渡す。
説明する必要性がないほど、グレイザックは完璧に成功させた。
「ありがとう、店主」
グレイザックは微笑み、その種を受け取った。
「一体何の種なんですか」
サムエルが尋ねた。
「ウィスナビアでしか咲かないあの種です」
リディオノーレはにこりと笑って答えた。
そのまま喧騒から外れた休憩所まで行くと、ラルシャーク子息はリディオノーレに小さい包みを渡した。
「くれるんですか?」
リディオノーレは中身を見た。
そこには髪飾りが入っていた。
「ありがとうございます」
色は彼女の目の色である真紅。
「今回はお誘い頂きありがとうございました」
リディオノーレは頭を下げる。
「いえ。楽しかったです。また誘っても付き合ってくれますか?」
「保護者の許可があればいつでも大丈夫です」
リディオノーレはグレイザックをちらりと見てから答えた。
「では帰るぞ、リディ」
グレイザックは彼女の手を取る。
しつこく子息から何かを言われる前に早く去ってしまった方がいいと考えたのだろう。
サムエルもそれには賛成で、子息に頭を下げる。
バルデミアンも軽く頭を下げ、グレイザック達に続く。
子息は何か他にも言いたげだったが、グレイザックは問答無用でその場を離れた。
子息から距離を取った所で、グレイザックは一旦足を止めた。
「何か食べるか?」
グレイザックは皆に尋ねる。
「私、肉食べたいです!」
フェルバールが手を挙げる。
「お前はいい」
ムナグレークが軽く突き放す。
「サムエル様やバルはきちんと食事出来てないのでは?」
ムナグレークが尋ねる。
「そうなんです!何食べたいですか?お肉ですか?お魚ですか?甘いものですか?」
リディオノーレは2人に尋ねる。
「何でもいいですよ」
サムエルは苦笑する。
「甘いものはお前が食べたいだけだろう」
グレイザックが突っ込む。
「バレましたか。がっつりお肉にされますか?」
「私、焼き麺が食べたいです」
バルデミアンが珍しく主張した。
「あー、あっちにありましたね」
ムナグレークが言う。
「食べてきていいぞ。帰りに甘味を何か買ってきてくれ」
「かしこまりました」
サムエルは頭を下げる。
「フェル、その包み返しておけ」
荷物を持たされていたフェルバールは、ムナグレークに言われ、グレイザックに渡す。
「バルデミアン様、それ持ちます」
リディオノーレも荷物を持っていてくれたバルデミアンに声をかける。
「ありがとうございました」
リディオノーレは受け取って、グレイザックと共に近くの椅子に腰を下ろした。
4人が食事に向かったのを見送ってから、リディオノーレはグレイザックに包みを渡す。
グレイザックは中身を見る。
あの服屋の主人が言った通り、グレイザックが購入した衣装とお揃いのマントだった。
「礼を言う。お前にもあるぞ」
グレイザックは可愛い包みを渡す。
中身を見たリディオノーレは目を輝かせた。
「わっ!これ、私が見てたやつ!え、どこからか見てたんですか!」
リディオノーレは驚きつつも、すごく嬉しそうな顔で受け取った。
「すんごい嬉しいです!高かったでしょう!?」
リディオノーレは叫ぶ。
「それを言うならこれもそうだろう」
グレイザックは彼女がくれたマントを出す。
「え。値段知ってるんですか」
リディオノーレは唇を尖らせた。
「あ、マント返して下さい。魔法付与します」
彼女はサッとマントを取った。
「じゃあ俺もそれに魔法付与するから待ってろ」
2人共、もう一度互いに買った物を手に取る。
「帰りの馬車でしてもいいですか?」
「構わん。今日は楽しかったか?」
グレイザックは足を組み、彼女を見て尋ねた。
「楽しかったですよ!」
その答えにグレイザックは眉間に少し皺を寄せた。
「何が楽しかった?」
「ご飯美味しかったですし、普通の市と違ってたくさんのお店があって凄かったです!射的とかも楽しかったです!」
リディオノーレは思い出しながらウキウキで答える。
「………祭りのことか」
グレイザックは安堵したように少し息を吐いた。
「祭り以外に何が楽しかったんですか?」
「いや………」
グレイザックは苦笑する。
「グレイザック様も楽しめましたか?」
「ああ」
グレイザックは答える。
2人が何をしたのか何を見たのか色々語っていた所、サムエル達が色々手に持って帰ってきた。
果物が乗った美味しそうな甘味をリディオノーレに渡す。
果実水も持ってきており、それはグレイザックに渡す。
「サムエル様は食べてきましたか?」
リディオノーレは甘味の果物を手で取って口に入れた。
美味しい〜!と顔が言っている。
「食べてきましたよ。もう少し後の方がよろしかったですか?」
サムエルは答えたのち、グレイザックに尋ねた。
「いや、大丈夫だ」
グレイザックはそう答え、甘味と果実水をリディオノーレと交換する。
「まだまわられますか?」
ムナグレークは尋ねる。
グレイザックはその問いにリディオノーレを見る。
「どうする?」
「逆にまわらないのですか?」
リディオノーレはまた甘味と果実水を交換し、甘味をぱくりと食べながら聞き返した。
「何したいんだ」
グレイザックは彼女の頬についた乳脂を取ってやりながら尋ねた。
その指についた乳脂はぺろりと自分で舐める。
それを見ていた護衛騎士2人は揃って顔を逸らした。
ムナグレークとサムエルはもう諦観の表情だ。
「遊びの出店を制覇して帰りたいです」
リディオノーレは少し頬を染めながら答えた。




