祭り 4
夕の鐘が鳴ると、祭りの装いが少しずつ変わっていく。
平民たちが徐々にいなくなり、魔法を扱う者だけになっていく。
「さあさあ!皆挑戦していってくれよー!ここは風魔法で射的だよ!」
「こっちは風魔法で輪投げだ!魔力調整が得意な人は是非やっていってくれ!」
「参加料と景品は何ですか」
リディオノーレは早速射的の店に向かう。
「銀貨1枚で、虎の魔石1つだ」
「1つだけですか?3つは?」
リディオノーレは眉間に皺を寄せる。
銀貨1枚も出すのに、虎の魔石3つは割に合わない。
「3つは言い過ぎだよ、お嬢ちゃん」
店の主人は嘲笑する。
他の客も成功するわけないのに、という顔でリディオノーレを見ている。
「………殴りましょうか」
バルデミアンが低い声音で呟いた。
「私も同じことを思いました」
サムエルは言う。
あまり嘲笑の渦に晒されることがないので、2人はリディオノーレを心配していた。
だが、彼女はそんなの気にせず、主人と交渉する。
「3つだけですよ?それなら虎を倒してきた方が手っ取り早いんですけど。正直5つは欲しいところです」
リディオノーレは言い放つ。
「……それは流石に吹っ掛けすぎでは?」
子息が小声で言う。
リディオノーレはそんなの無視である。
「……どうなんですか?5つが無理なら3つ!譲れません!!」
リディオノーレは子息を一瞥したのち、店主に言い放った。
「よーし、分かった!3つで手をうってやろう」
店主が答える。
その答えにリディオノーレは唇の端を上げた。
「この石を風魔法で操ってあそこにある木の棒を10本全部倒したら、虎の魔石3つやろうじゃないか!」
円柱の木の棒の直径は握り拳ほど。高さは手の平大。
余裕である。
「石は3つまで使える。3つ全部地面に落ちたらそこで終わりだ」
店主も成功する筈がないと思っているせいか、にやりと笑っている。
「3つも貸してくれるんですね」
リディオノーレは逆に驚く。
彼女は眼鏡をくい、と上げてから、杖を出した。
意匠を凝らした杖に近くにいた客たちが少し驚く。
『待て。3つ全て操るなよ』
唱えようと思った瞬間、グレイザックから念話が飛んできた。
「!?」
リディオノーレは思わず振り返る。
『あれだけ劇や本の題材になっているんだ。勘のいい者には気付かれる』
『……分かりました』
リディオノーレは1つだけ石を操ることに決め、「ヴァンビエ」と唱える。
1つの石が風に乗って浮かぶ。
「おお」
操ることが出来る彼女に客は歓声を上げる。
リディオノーレはその石を操り、木の棒を倒そうとしたが、倒れなくて木の棒に当たって石が落ちた。
「!?」
リディオノーレは店主を睨む。
店主はにやりと笑っていた。
『重りが入ってるっぽいんですけど』
リディオノーレは念話を飛ばす。
グレイザックが何処にいるか分からないが、近くにいることは確かだろう。
『………俺が懲らしめておくから程々にしておけ』
リディオノーレの声が少し怒っているのを感じたのか、グレイザックはため息をついてそう言った。
「どうされましたか」
サムエルがリディオノーレに小声で尋ねた。
「恐らくあの中に重りが入ってます」
リディオノーレは答えた。
「文句言いましょうか?」
バルデミアンが店主を睨みながら、小声で尋ねた。
「………いえ。大丈夫です」
リディオノーレは答えた。
舐めてるなら舐めたままでいい。
「ヴァンビエ!!!」
リディオノーレは唱えると、2つ石を操る。
「!!!」
主人と周囲の客が目を見開いた。
的は小さいが何ら問題ない。
石2つを木の棒に当てるが、それくらいではまだ倒れなかった。
「ち」
リディオノーレは思わず舌打ちする。
石を後ろに下げ、勢いつけて棒にぶつけた。
小さい的に寸分違わず、一直線に2つぶつけたら流石に棒が倒れた。
リディオノーレはにやりとすると、あっという間に同じ要領で的を全て倒した。
「おおおおおお!!!!!」
見ていた客が大声で歓声を上げる。
「すごいな!お嬢ちゃん!!」
「やるじゃないか!!!」
次々と声が上がる。
店主は苦い顔で彼女を見つめていた。
「虎の魔石3つください」
リディオノーレは唇の端を上げながら手を出した。
店主は凄い嫌そうな顔をして、魔石を3つ手に置いた。
「ありがとうございます」
リディオノーレはにやりと笑うとその射的の店を去った。
すると他の客も我が先に!と挑戦する者が多数名乗りを上げていた。
「流石、リディオノーレ様」
店から少し離れた所で、子息はそう言った。
「いえ。普通です」
あれくらいはなんてことはない。
「リディ、文句を言うことも出来ますがどうされますか」
バルデミアンが再び尋ねた。
「大丈夫です。………多分、グレイザック様がやってくれると思います」
リディオノーレは答えた。
彼女の答えに子息が目を瞬く。
「もう来ているのですか?」
「はい」
「何故分かるのですか」
その答えにリディオノーレは耳飾りを触って微笑んだ。
それが念話の道具だとは知らない皆は、少し首を傾げた。
その彼女の予想通り、グレイザックはその射的の店に挑戦し、石1つで全ての木の棒を貫通させるという離れ技をやってのけた。
そして、穴の開いた木の棒の中に何か黒い物が見えると誰かが声を上げたら、あっという間にその店は炎上した。
あと、ちゃっかり魔石を3つ貰っていたグレイザックである。
リディオノーレは次に輪投げの店に向かう。
手の平大ほどの輪を、欲しい景品に向かって風魔法で操るらしい。
景品は魔石、素材、宝石、装飾品など色々ある。
景品が小さいのと輪っかもそれほど大きくないので、かなりの微調整が必要とされる遊びだ。
正直、こちらの方が難しいかもしれない。
挑戦している人たちを見ていたが、全然成功者がいない。
「やりますか?」
子息が尋ねる。
ここは参加料が銀貨2枚だ。
「勿論」
リディオノーレは答える。
「もう陽も沈みますので、今回はここらで終わりにしましょう」
子息が提案した。
側近が財布を開けて、銀貨2枚取り出す。
「あれ、出してくれるんですか」
リディオノーレは思わず聞き返した。
その純粋な問いにサムエルは顔を背けて、ぷ、と吹いた。
「最後ですから」
「では、何か欲しいのありますか?それとも子息がされますか?」
リディオノーレが尋ねる。
「私はセンスがないので、リディオノーレ様がして下さい。もし取って下さるなら、あのカフスとかでも構いませんか?」
「カフスでいいんですか?」
リディオノーレは聞き返す。
「リディオノーレ様からの贈り物というだけで嬉しいです」
「それでしたら、輪も3つありますし、装飾品3つとりましょう」
リディオノーレはにこりと笑う。
そして、軽々と有言実行を果たす彼女だった。




