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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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祭り 3




恥ずかしい火照りが鎮まれば、リディオノーレ達は昼食にありついた。


いつもの串焼きや野菜と肉を挟んだパンに、甘味もいくつか食べながら色々なお店を見てまわった。


途中、素材屋や装飾品、雑貨屋にも寄り、あと服屋にも顔を覗かせた。


「んー」

服を丸々1着買おうと思うと、かなり高価だった。

リディオノーレは思わず唸る。


「珍しい。服に興味が出ましたか」

サムエルが言う。

「え、あ、どうしよっかなーと思ってます」

リディオノーレの衣装は、殆どがシャーリネーヴェのお古である。


「これ、素敵なんですけど」

リディオノーレは指を差す。

黒を基調とした衣装に金色と赤が差し色で入っている。


「確かに。でもまあまあ高いですね」

サムエルは困った顔をした。

「お金が余りそうでしたら買ってみては?」

「そうですね。そうします」

リディオノーレは頷いた。


彼女が欲しいと言っているのに、子息は困った顔で見つめているだけだった。


流石に銀貨10枚の服には手が出せないようである。

観劇料も少し渋っていたくらいだったので、サムエルが見かねて出したのだ。

ひと悶着あるよりは、払える者が払った方がいい。


だが、好きな女性の前でお金を渋るのはサムエルとしては有り得ない。

サムエルはもう子息のことを見限っていた。


「あ、でもこれは買いたいです」

被るマントを指差すリディオノーレ。

黒を基調としているが、フード部分は赤色。真紅だ。

金の刺繍も入っている。

先程の彼女が欲しがった衣装とお揃いのようなマントである。


そして、彼女が欲しい衣装と同じ銀貨10枚の値段だった。


「これ買ってきます」

リディオノーレは言った。

すぐ手に取ると、会計に向かう。

誰かが何かを言う暇なんて無かった。


会計を済まし帰ってきた彼女はホクホクとした笑顔で包みを抱えていた。

「わざわざ包装してもらったのですか?」

子息は尋ねる。


「はい。贈り物ですから」

リディオノーレは笑顔で答えた。


グレイザック様へのね、とサムエルとバルデミアンは内心で呟き、顔を見合わせ苦笑する。


彼女のその言葉に子息は少し顔を歪めたが、自分がお金を払ったわけでもないので、何も言わなかった。


「自分の分は買わないのに贈り物には銀貨10枚でも払うんですね」

「贈り物をケチってはいけませんよ」

リディオノーレはにこりと微笑んで答えた。


「次、あの甘味食べたいです」

リディオノーレは次の店へと向かう。


子息とその側近たちは、財布の中身を思わず確認した。

そんな様子なんて気にも留めず、リディオノーレはるんるんで歩く。

気に入った贈り物を見つけて上機嫌な彼女だった。


経済力的には圧倒的にリディオノーレが優れていた。


「どれが食べたいんですか」

サムエルは彼女がはぐれないように手を繋ぐと尋ねた。

「あれです、あれ。あのふわふわのやつ!あれ気になります!」

リディオノーレはサムエルの手を引っ張る。


見たことのないお菓子だった。


「行きますから落ち着いて下さい」

サムエルは苦笑していた。





そんなリディオノーレ達を視界の端に入れながら、グレイザック達も祭りを楽しむ。

劇を観たフェルバールは笑いが堪えきれず、ムナグレークにボコボコにされた。


「苦情を言いますか?」

ムナグレークがグレイザックに尋ねる。

「いや、構わん」

「私が嫌ですけどね」

ムナグレークは苦い顔をしていた。


劇はグレイザックの鬼畜っぷりが体現されていて、ムナグレークは苛立っていた。


「あんな会話だったんですか」

ムナグレークは思わず尋ねる。

「リディはあんなこと言わないでしょう」

日頃の恨みを!などと言うわけがない。


「まあな。外野が何を言おうが俺とリディが分かってたら何ら問題ない」

グレイザックは唇の端を上げて答えた。

「ですが、私は嫌ですよ。グレイザック様があそこまで挑発するわけないじゃないですか」

かなりの煽り文句だった。


それをリディオノーレ役が歯を食いしばりながら奮闘する姿がとても印象に残っている。


「文句言ってきます」

ムナグレークは劇場の裏に向かおうとする。

「良い。それより、リディも出たからついていくぞ」

劇場を出たリディオノーレ達は色々店を巡り、少し服屋で逡巡している様子が見えた。


「……あっちの衣装が欲しかったのではないでしょうか?違うもの買って行きましたね」

ムナグレークは目を瞬きながら発言する。

見ていた物と違うのを買って、それでも上機嫌のリディオノーレを見てムナグレークは首を傾げる。


「……少し寄るか」

グレイザックはその服屋に足を運んだ。


「すまない。先程赤紫の髪の少女が何か買っていっただろう?何を買っていったか教えてくれるか?」

グレイザックに尋ねられた服屋の女将は、目を瞬きながら答える。


「マントだよ。天馬に乗るときに使えるよ。そこに飾ってある衣装とお揃いさ」

リディオノーレがずっと見ていた衣装を指差す。


「なるほど。では、この衣装をくれ」

グレイザックは即断する。

「あいよ」

女将は衣装を包装していく。


「………何故、包装を?」

グレイザックは最後リボンをくくる女将に尋ねた。

「だって、さっきのお嬢ちゃんも包装してたよ。互いに贈り物をするんだろう?それなら少しでも見映え良くしないと」

女将は片目を瞑る。


「………」

グレイザックは贈り物用に包装された可愛い包みを受け取った。

そして、そのままムナグレークに渡す。

ムナグレークはそのままフェルバールに渡す。


「………私ですか?」

まだ顔が腫れ上がったままのフェルバールが尋ねた。

その問いにムナグレークは彼を無言で睨みつける。


「いえ、何もありません」

フェルバールは息を吐いて、荷物を持った。




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