祭り 2
「あなたが違うと否定されているから、その言葉を信じていますが、もし少しでもグレイザック様に恋心があるのでしたら、ハッキリ仰って下さい」
子息は述べた。
「恋心…ですか」
リディオノーレは困った顔をする。
「恋をしたことがないので、よく分からないんですよね」
「そうだとしても好きという感情は分かるでしょう?」
「好き…ですか。そうですね…、グレイザック様のことは人として好きですよ。大好きです」
「結婚したいと思われますか?」
その問いにリディオノーレは苦い顔をした。
「分かりません」
リディオノーレは答える。
「グレイザック様が幸せになれば、私はそれで構いません」
(本当にこの娘は…)
サムエルが内心で呟く。
何かをやるにしてもグレイザックの為に。
グレイザックが少しでも楽になるのなら。
その一心で執務や勉学に励み、厳しくされても食いついて、グレイザックを慕う彼女のことを彼が慕わない筈がない。
最近なんて特に甘々なグレイザックである。
昨夜だってそうだ。
転移陣を描いて彼の元に帰り、どうせ彼と寝ていたのであろう。
「では、グレイザック様に誰か紹介しましょうか?」
子息は提案した。
「!!なるほど。失念してました」
リディオノーレは目を見開いて答える。
これはやばい、とサムエルとバルデミアンが顔を見合わせる。
「何人か見繕っておきましょう」
子息は微笑んだ。
「ありがとうございます。出来れば、私に送って頂けるとありがたいのですが、お願いできますか?」
「構いません」
「詳細に人となりを添えて頂くことは可能ですか?」
「分かりました」
リディオノーレはこれで誰かグレイザックに釣り合う女性を見つけることが出来たらいいな、と嬉しくしているが、サムエルとバルデミアンはそうではなかった。
「あ、あと杖の魔石も記しておいてください」
「分かりました」
『リディ、これはグレイザック様は喜びませんよ?』
サムエルが思わず念話で突っ込んだ。
『何故ですか。いい相手がいるかもしれないでしょう』
『そんな名簿が来たら、グレイザック様は苛立つと思うのですが』
バルデミアンも口を挟む。
『だから、私宛てに送ってもらうんです』
リディオノーレは少し頬を膨らませ、そう答えた。
『………リディに勧められたら、グレイザック様は余計苛立つと思うのですが』
バルデミアンは困った顔で告げた。
リディオノーレはその言葉に首を傾げる。
「どうかされましたか?次行きましょう。何かお土産でも買われますか?」
子息は立ち上がる。
「買います!欲しいです!」
リディオノーレも立ち上がる。
「色々お店見てもいいですか?」
「いいですよ」
リディオノーレ達は気になったお店お店に寄りまくる。
書店に寄るとなかなか面白い書籍があって、サムエルとバルデミアンは思わず笑ってしまった。
彼女はかなり苦い顔をしていたが。
本の内容と言うと、アラウィリア次期領主夫妻の結婚式での天馬合戦についてだった。
付き添い人である弟子と敵役である師匠の試合が前代未聞の内容だったせいで、色々脚色されて書かれていた。
「私が買っておきましょうか?」
サムエルが笑いながら言う。
「いりませんよ。何かすごい言い回しで書いてありますけど、ただ単に雷撃や風魔法のことですよ。凄いことはしていません」
リディオノーレは苦い顔で答えた。
「大体、こんな本買う人いるんですか」
「いるから売っているのでしょう」
サムエルは笑って答える。
「………私は、魔獣の本を買います」
起源については、まだ調べきれていない。
リディオノーレは魔獣の本を3冊ほど手に取った。
「魔獣に興味がおありですか?」
子息は少し驚いたように尋ねた。
「興味というか、起源について調べています」
リディオノーレはさらりと述べた。
「起源、ですか?そんな記述の書籍は見たことありませんね……」
「そうなんですね。古い文献なんですかね…」
リディオノーレは唇を尖らせつつもその3冊の本を購入した。
「まあ気長に捜します」
リディオノーレはそう言って、次に向かう。
歩いていると簡易劇場が目についた。
幕で覆われていて中は見えないが、かなり賑わっている。
「是非是非お兄ちゃん達も見て行ってくれ!1人、銅貨3枚ね!」
「なかなかしますね」
サムエルはそう言いながら3人分出してくれた。
全員で劇場の中に入る。
空いている席に座り劇を見ていると、リディオノーレは恥ずかしくなってきた。
両手で顔を隠すリディオノーレ。
その劇は、何とアブストール夫妻の結婚式の天馬合戦の再現だった。
役者の人たちが杖を振る。
雷撃は音と光で再現し、炎の矢は赤い光と熱風を出す。
痺れ薬を散布され倒れる所は、流石役者なだけあって上手い。
「なかなかの再現度ですね」
バルデミアンは食い入るように観ている。
「すんごい恥ずかしいんですけど…」
リディオノーレは両手で顔を覆いながら、指の隙間から劇を見る。
「面白すぎます」
サムエルは口を押さえながら観ている。
肩も少し震えている。
「グレイザック様も観てらっしゃいますかね。これは、是非観てほしいですね」
サムエルは言う。
芝居はどんどん進み、小刀を浮遊させて操っていた最終場面へと移行する。
小刀は見えにくい糸が上から垂らしてあり、それを人の手で操って再現している。
「魔法を使わずにここまで再現できるのは凄いですね」
バルデミアンは感心している。
「確かにそれは凄いのですが……」
リディオノーレは呟く。
他の観客は食い入るように観ていて、時々「おお!」という声も上がる。
「恥ずかしすぎます。出ましょう」
リディオノーレは子息にそう言って、立ち上がる。
子息は少し笑いながら、彼女の後に続いて劇場を出た。
外の休憩所の椅子に座って、ぱたぱたと自分の顔を手で扇ぐリディオノーレ。
それを見て笑う子息やサムエル達。
「勝手に台詞もつけられていたじゃないですか」
リディオノーレは文句を言った。
流石にあの試合の最中の師弟の会話は他には聞こえなかったようで、格好良く台詞がつけられていた。
無駄に格好良く。
しかも「日頃の恨みを晴らしてやる」とか何とか、リディオノーレ役が言っていた。
あんな感じで脚色されていたら、グレイザックの鬼畜の噂なんて払拭出来る筈がない。
「良かったですけどね」
バルデミアンは笑いながら言った。
「良くないですよ。恥ずかしいし、台詞もおかしいし。あんな会話してませんし」
リディオノーレは唇を尖らせたのだった。




