祭り 1
翌日、リディオノーレは起きると転移陣に乗ってラルシャークに帰って行った。
「……」
相変わらず、突拍子もない奴である。
しかも、グレイザックの気持ちを読んだかのような頃合いで帰ってきた。
「よく転移陣も覚えていたな」
グレイザックは彼女が消えて行った転移陣を見つめて、そう呟いた。
「ぉえ」
リディオノーレはラルシャークで与えられた部屋に戻るとまず、口を押さえて蹲った。
「うっ」
部屋から呻き声が聞こえた瞬間、彼女を起こしに来たサムエルが扉を開け放った。
「リディッ!?」
部屋に入ってすぐさま扉を閉めると、サムエルは蹲る彼女に駆け寄った。
「!?」
サムエルは床に描かれている魔法陣を見て目を見開いた。
「………まさか、ね?」
サムエルは片眉を吊り上げながら彼女の顔を見た。
「吐きそう……」
リディオノーレは「うぷっ」と呻く。
「はぁ………」
サムエルはため息をついて、回復の魔法陣をかけてくれた。
「………あは」
リディオノーレは回復したのち、サムエルに笑いかけた。
「誤魔化せるとお思いですか?」
サムエルも微笑み返す。
「……」
リディオノーレは静かに視線を逸らした。
サムエルは彼女の額を弾く。
「今日には来るんですから、少しくらい我慢しなさい」
「……はい」
「さあ、準備をして行きますよ」
サムエルはもう一度彼女の額を弾くと、床に描かれている魔法陣を消去した。
子息に案内され、祭りの広場にやってきたリディオノーレ達は熱気に驚いた。
「すごいですね!」
リディオノーレは感嘆する。
普通の市と違って、人混みが倍以上だ。
下手するとはぐれる。
「手を繋ぎましょうか」
子息が手を出してきたが、リディオノーレはどうしても握れなかった。
エスコートとして手を持つのは許容範囲なのだが、仲良くもない人と手を繋ぐのは抵抗がある。
「サムエル様、手を繋いでてもらえますか」
リディオノーレはサムエルと手を繋ぐことにする。
子息は残念そうな顔をしていたが、諦めて案内を始めた。
「名物の獅子肉の店もございます」
「夕食にそれを食べたいです!朝は軽く食べましたし、今は飲み物が欲しいです」
リディオノーレはねだる。
「果実水でいいですか?」
子息が尋ねる。
「はい。お願いします」
「では、あちらの青い長椅子にいて下さい。お持ちします」
「ありがとうございます」
少し喧騒から離れた所に休憩用に長椅子が設置されている。
リディオノーレ達3人はそちらに移動し、彼女は腰を下ろした。
「グレイザック様たちはいつ来るんでしょうか」
リディオノーレは呟く。
「ここに来てまでグレイザック様ですか」
バルデミアンが呆れたように呟いた。
「後から来るって言ってましたもん」
リディオノーレは唇を尖らせる。
「でも、一緒にまわることはしませんよ?」
バルデミアンが言う。
「……知ってますけど、見える範囲に居て欲しいというか…」
リディオノーレの言葉にサムエルとバルデミアンは呆れる。
『リディ』
そんな時、リディオノーレに念話が届いた。
昨夜はグレイザックが寂しいと思った頃合いだったが、今度はリディオノーレが寂しいと思った頃合いだった。
リディオノーレは慌てて立ち上がる。
『立つな、バレる。俺からは見えてるから問題ない』
リディオノーレはまた腰を下ろす。
『来てるんですね?』
『ああ。夜にはラルシャーク城に迎えに行くから待ってろ』
『分かりました!』
リディオノーレは笑顔になる。
彼女の雰囲気が変わったことに気付いたサムエルとバルデミアンは、グレイザック達が何処かにいることを察する。
そうこうしてる内に子息が果実水を持って帰ってきた。
でも2人分。
子息はリディオノーレの隣に腰を下ろし、彼女に果実水を渡す。
もう1つは子息自身の分で、先に口をつけた。
「さっぱりして美味しいですよ」
子息は笑顔で勧める。
リディオノーレは受け取ったものの、サムエルとバルデミアンを見つめた。
サムエルは無言で首を振る。
『言っては駄目ですよ。これが常識です』
サムエルが魔術具を握りしめて、念話を飛ばした。
『ですが』
リディオノーレは抗議の顔を向ける。
『あちらの側近や護衛も貰っていないでしょう?普通は側近と護衛が一緒に並んで食事したりはしません』
『けど、視察の際は一緒じゃないですか』
『こちらの立場が上ですからね。今は、リディと子息が立場同等となりますが、私たちは同等ではありません』
サムエルの言葉に、リディオノーレは苦い顔になる。
ずっと聞いていたバルデミアンも口を開いた。
『側近は主が何かを望んだりした時に対応しないといけませんし、護衛もその名の通り護衛の仕事をこなさないといけません。いざという時に動けないと意味がないですから、今回は我々の事はお気になさらず』
バルデミアンは微笑んだ。
「……」
何か言いたげだったが、リディオノーレはグッと堪えて子息に向き直った。
「このお祭りってどれくらいの時間までやってるんですか」
「消灯の鐘が鳴るまでです。流石に夕方からの催しで少し遊んだら帰りますよ?」
「そうですね。グレイザック様もお迎えに来ると仰ってましたし」
サムエルが言う。
「え、迎えに来るのですか?」
子息が目を見開く。
「ええ」
サムエルはにこりと微笑む。
子息はリディオノーレを見る。
「何でしょう?」
リディオノーレは果実水を飲み干してから尋ねる。
「あなたとグレイザック様は本当に恋人ではないのですか?」
子息は思い切って問うた。
サムエルとバルデミアンはその問いを予想していたので、リディオノーレの答えを待つ。
「恋人、ですか?恋人のように見えますか?」
リディオノーレは逆に尋ねた。




