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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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寂しい2人




ラルシャーク子息の言った通り、豪華な夕食がリディオノーレ達を待っていた。


『すごいですね』

ここまで豪華なのは結婚式以来である。

魔道具を握って、念話を飛ばすリディオノーレ。


『かなり気合い入ってますね』

バルデミアンも呟く。

3人は横並びで席に着き、ラルシャーク領主一族と向かい合う。


「お元気そうで良かったです」

領主が1番に口を開いた。

「視察ぶりですね」

「たくさん食べて、明日息子と楽しんで来て下さい」

「私如きの為にここまで用意していただき、ありがとうございます」

リディオノーレは頭を下げる。


「いえいえ。これくらいならお安い御用ですので、いつでも来て下さい」

領主はそう言って、食事に口をつけた。

それを皮切りにそれぞれが手をつけ始める。


「相変わらずここの獅子の肉料理は美味しいですね」

リディオノーレは言う。

「普通に焼くだけではこんな柔らかくなりませんよね?」

「そうです。やり方は秘密ですが」

領主は答える。


「ラルシャークに来れば、秘密が分かりますよ」

子息が口を挟んできた。

『……なかなか攻めますね』

バルデミアンが念話を飛ばした。

『……どういう意味ですか?』

リディオノーレはバルデミアンをチラと見る。

相変わらずの鈍さにバルデミアンとサムエルは苦笑する。

遠回しにラルシャークに嫁いではどうかと言っているのに気付かないとは。


苦笑するだけで教えてくれない2人に、リディオノーレは自分なりの解釈で答えることにする。


「じゃあ、料理長に尋ねてみます」

リディオノーレはにこりと微笑む。

「……」

子息は思わぬ返しに目を瞬いた。


サムエルとバルデミアンは揃って下を向いた。

本当に鈍感すぎる。


「いいですよ。料理長にも挨拶してあげて下さい」

子息は我を取り戻してそう答えた。

「時間があれば、是非」

リディオノーレは答え、獅子肉をぺろりと平らげた。


『苦手な野菜、残してもいいですか』

リディオノーレは念話を飛ばして尋ねる。

『この間の視察の際はどうしたのですか』

サムエルが少し咎めるような声音で尋ねた。

『書類を見ながら食事してたので、食事内容を見ていなかったです』

リディオノーレの答えにサムエルはため息をついた。


『それだけ残すのはあまり良くありません。ですので、他の物と一緒に残してお腹いっぱいだということにして下さい』

『分かりました』

リディオノーレは答え、まだ食べられるのだが、お腹いっぱいと称して食事を少しだけ残した。


「では、甘味をお持ちしますのでお待ち下さい」

子息は側近たちに命じる。

すぐに甘味が運ばれてきて、リディオノーレは目を輝かせた。


「美味しそうですね!」

思わず声を上げたリディオノーレ。

彼女の喜んでいる様子に子息はしてやったり、といった顔をする。


「最近領内で流行っているお菓子だそうです。是非、ご賞味下さい。もしかしたら、明日の祭りにも出店があるかもしれませんが」

子息はにこりと笑う。


『……本当に攻めていますね』

バルデミアンは舌を巻く。

怖いもの知らずなのか、本当に本気なのか。

彼女の気を引こうと必死なのは見て分かる。


『だから、何を攻めているんですか。お菓子美味しそうですよ』

リディオノーレは言う。

『……そうですね、食べましょうか』

サムエルは微笑んだ。


この場にグレイザックが居なくて良かったとつくづく思ったサムエルだった。






「………お、お、終わり、ました……」

リディオノーレ達を見送ってから消灯の鐘が鳴るまで、執務をさせられたフェルバールは魂が抜けたように机に突っ伏した。

ひとつ仕事が終わりそうになれば、またひとつ新しい仕事を任され、結局こんな時間になってしまった。


「疲れてる所悪いが、側近の仕事をしてくれ」

グレイザックが追い討ちをかける。

「え………」

驚愕で、目が最大限に開くフェルバール。


「今ここにサムエルはいないからな。この3人の中で側近の仕事が出来るのはお前だけだ。お茶を頼んだ」

グレイザックは読書をしながら告げた。


ムナグレークも読書している。


「お二人共、随分前に仕事を終えてらっしゃったじゃないですか…」

フェルバールは抗議してみた。

「だから何だ?」

グレイザックは答える。


「う」

思わずたじろぐフェルバール。

「今やっと仕事が終わった所なんですが」

フェルバールは勇気を出して抗議する。


「お前が遅すぎるんだ」

ムナグレークが嘲笑する。

「それくらいの量をリディは毎日こなしている」

グレイザックも嘲笑した。


フェルバールは顔が思わず引き攣った。

「この量を?」

「ああ。だから、お前が時間かかりすぎなんだ」

グレイザックは言う。

「まだまだだな、フェル」

ムナグレークは唇の端を上げてそう言った。


「………分かりました、やります」

フェルバールは諦めて重い腰を上げ、人数分お茶を注ぐと、そそくさと自室に戻って行った。


「………虐めすぎましたかね」

ムナグレークはお茶を飲みながらグレイザックに話しかけた。

「そんなことないだろう。あいつの仕事が遅いだけだ。リディと一緒に学院に行ったせいで、大分鈍ってやがる。鍛え直しだ。待ってやっていただけ、優しいだろ」

グレイザックはそう言って、本に栞を挟むとパタンと閉じた。


「明日、朝食後に出る」

「分かりました。おかわりはどうされますか」

飲み干したお茶を見て、ムナグレークは尋ねる。

「いやいい、このまま休む」

「かしこまりました。片付けておきます。朝食はこちらにお持ちしますね」

「頼んだ」

グレイザックはそれだけ言うと、執務室を後にしてリディオノーレの部屋に入る。


彼女の部屋と言うよりは互いの寝室だが、一応名目は彼女の部屋だ。


彼女がいないと寝台でゆっくり寝れるので、グレイザックは彼女がいない間は寝台を借りていた。


でも、やっぱりこの3年はお互いありきの生活をしていたので1人がいないと寂しさを感じつつあるグレイザック。

彼女が入学してからは少し1人で寝ることに慣れてきていたのだが、すぐに帰ってきたので、久々1人の今、少し寂しさを感じているのだが、口が裂けても言えるわけがない。


「……うっ!」

がたん、と隣室から音がして、呻き声も聞こえ、グレイザックは杖を抜いて扉を開けた。


床の転移陣が光り、口を押さえて蹲るリディオノーレがそこにはいた。


「!?」

グレイザックは目を瞬く。

「は?」

思わず声が出る。


「吐きそう………」

リディオノーレは呻く。

「ま、待て待て待て待て。吐くなよ」

グレイザックは慌てて回復魔法をかける。


復活したリディオノーレはグレイザックを見て微笑むと口を開いた。


「寂しいので帰ってきました」

リディオノーレは「えへへ」と笑ってそう言った。





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