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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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察したリディオノーレ




「私たちは急がなくていいのですか?」

天馬で駆けながら、リディオノーレはグレイザックに尋ねた。


「アブストールとグレークが向かったから大丈夫だ」

「何があったか聞いてもいいですか?」

リディオノーレは尋ねた。


「よく分からん毒にやられた奴がいるらしい」

「………なるほど。解毒薬を渡したということですね」

リディオノーレは納得した。


「そういうことだ」

「こういう時、グレイザック様みたいなお友達がいれば安心ですね」

「確かに、助かりますね」

バルデミアンも同意する。


「アブストールの天馬の速度なら間に合うとは思うがな」

「!?」

その言葉にリディオノーレは目を瞬き、事態を察する。


「猛毒、ですか」

「恐らくな。お前が被った毒と同じだろう」

「!」

リディオノーレは目を見開く。

バルデミアンも、最後尾にいた側近も目を見開いた。

さらりと衝撃の事実を話したグレイザック。


「……グレイザック様の薬なら、大丈夫ですよね?」

リディオノーレは途端に怖くなった。

「間に合えばな。だが、解毒してからが大変なんだ」

グレイザックは言う。


「覚えてないか?体がいうこと聞かなかったろ?」

「……はい」

「最低限の体力だけ残して解毒をするんだ。本当に最低限。呼吸するための体力だけを残して解毒を試みるため、その後が大変なんだ」

体力を戻すのにかなり時間がかかった覚えがある。


「だから、いつ目を覚ますのかも分からん。お前は早かったが、一年先かもしれんし、もっと先かもしれん」

「………回復魔法でも無理なんですか?」

「体力回復は魔法より薬の方がいい。だから、嚥下出来るくらいまでに喉を先に重点的に回復させるのはありだな」

グレイザックは答える。


「魔法も万能ではないんですね」

「まあな。今回のことは、お前が気に病む問題ではない。気にするな」

自分が経験した、あの体力がなかなか戻らない期間は本当にもどかしかった。


「それに、その毒ではないかもしれんしな」

側近だけは少し安堵したような息を吐いたが、リディオノーレとバルデミアンは違った。

グレイザックの読みが外れることはほぼ無い。


「………どうしてそんなことに?」

リディオノーレは思わず尋ねる。

顔が強張っているのが自分でも分かる。


「もう一度言う」

グレイザックは彼女を見て口を開いた。

「気にするな」

「………」

リディオノーレは思わず押し黙る。

表情が一気に曇ったのが見て分かる。


「……天馬が別なのが歯痒いな」

グレイザックはそう言って頭を掻いた。

「バルデ、リディの天馬の手綱を握れるか?」

バルデミアンは無言で彼女が乗っている天馬の手綱に手を伸ばす。


「リディ、来い」

グレイザックは彼女の腕を掴み、脇からグッと力を入れて引き寄せた。


リディオノーレはグレイザックと向かい合わせに座らされると、ぎゅ、と頭を抱き締められる。


グレイザックのまさかの行動に側近の女性は口をあんぐり開けていた。

バルデミアンは苦笑している。


「何を考えてる」

抱き締めながら、グレイザックは尋ねた。

「………」

リディオノーレは無言。


「……何を察した?」

グレイザックは天馬を駆けさせながら、左手で彼女の髪を撫でつつ尋ねた。


「アブストール様が急に来た理由はそれですね」

リディオノーレはグレイザックの胸に顔を埋めながら口を開いた。

「その毒を受けた人は、影の騎士団員ですか」

リディオノーレの問いにグレイザックは髪を撫でるだけ。


「諜報活動ですか?」

リディオノーレは顔を上げて尋ねた。

グレイザックは前を向いている。

彼女の髪を優しく撫でながら、手綱を捌く。


(相変わらず、そういうのは勘がいい)

グレイザックは感心する。


先程の会話だけで、色々と察したリディオノーレの勘の良さにバルデミアンは舌を巻く。

恋愛ごとに関してはその勘は働かない癖に、そういうのだけは鋭い。


「グレイザック様、何かひとつ答えてください」

「……リディ」

グレイザックは前を向いたまま名前を呼んだ。


「もう一度言うぞ。気にするな」

「っ!」

リディオノーレは唇を噛む。

本当に秘密が多い。


「本当に気にするな。その毒でやられた奴が、無事であることだけ祈っておけ」

グレイザックはそれだけ言って、彼女の背中を優しく撫で続けた。





先にアラウィリアに戻ったアブストールは、一目散に瀕死の騎士が休む部屋に向かった。


胸が上下しているのを見て安堵するが、体がどんどん変色してきていた。


アブストールは彼の体を起こし、瓶の蓋を開けて口に薬を流し込んだ。


「〜〜〜っ!!!」

数秒後、その騎士が体を痙攣させ始めた。

変色している部位を押さえ、そこを引きちぎるかのように肉を引っ張ろうとする。


アブストールはそれをさせないように全力で体を押さえ込む。

必死に押さえ込んでいる最中に、グレティアーナとムナグレークが入室してきた。


ムナグレークも慌ててその騎士を押さえ込む。


10分ほどそうしていると、その騎士は急に倒れ込んだ。

「……生きてるのか」

ムナグレークは生存を確認する。


「とりあえずは」

アブストールは息を吐き、座り込んだ。

体の変色もゆっくり消えていっている。


「………流石、グレイザック」

アブストールは呟いた。

「グレイザック様を侮るなよ」

ムナグレークは言う。


「……一体、何の毒だったの」

グレティアーナが声を上げた。

「知る必要はない」

ムナグレークはそう答え、グレティアーナの頭を撫でる。


アブストールも知らない毒なんて、あの毒しかないだろう。

ムナグレークは苦い顔でその騎士を見る。


「本当によく帰ってきた」

ムナグレークはそう呟き、拳を握りしめた。




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