引き返すアブストール
「アインズビルはやっぱり広いわね」
庭を歩きながら、グレティアーナは呟いた。
「そうですよね!私も初めて来たときは驚きました!」
「で、リディは一体どこに旅に出ていたの?」
グレティアーナはにこりと尋ねてきた。
リディオノーレは護衛してくれているバルデミアンを思わず振り返った。
「別に言っても良いのではないですか?」
そう言われ、リディオノーレは「ドロゴルミットです」と答えた。
「ドロゴルミット?何故そんな所に?」
グレティアーナは目を丸くする。
「大型の魔石が欲しくて魔獣狩りに行ってきました」
にこりと答えるリディオノーレ。
「……本当に変わってるわね」
グレティアーナが息を吐く。
わざわざ他国に行ってまで、魔獣狩りをしてくるなんて。
「大型のを大量に欲しいと言ったら、連れて行ってくれました」
リディオノーレは答える。
「それはリディだから連れて行けるのよ。ドロゴルミットの魔獣狩りは、熟練の騎士しか向かえないわ」
「……そうなんですか?」
リディオノーレは首を傾げる。
「別段そこまで強い印象ではなかったですよ?ただ、数が多かっただけで」
「………本当に規格外なんだから」
グレティアーナは少し笑いながら、リディオノーレとの会話を楽しんでいた。
その頃、応接室にいる男性陣はアブストールの話に深刻な顔をしていた。
「そうか。………すまなかったな。サムエル」
グレイザックはサムエルを呼ぶ。
「取って参りますので、お待ち下さいませ」
サムエルは何のことか分かると部屋を素早く辞する。
一瞬で帰ってくると、持っていた袋をグレイザックに渡した。
グレイザックはそこから金貨を10枚出す。
「足しになるか分からんが、その家族に渡せ」
グレイザックはアブストールに金貨を渡した。
「もらいすぎだ」
アブストールは言う。
「いや構わん。もらっておけ。これくらいしか俺は出来んからな」
グレイザックはそう告げた。
「………礼を言う」
アブストールはそう言って、金貨をしまった。
「1人は死んで、1人は瀕死か。よく連れて帰ってこれたな」
グレイザックは感心する。
「瀕死ながらもよく生きて帰ってきたと思う。だが、そいつの様子もおかしいんだ」
「来た理由はそれか。………毒か?」
グレイザックは察し、急に立ち上がって尋ねた。
「毒だと思うが、何の薬も魔法も効かん。お前ならどうにか出来ると思ってここに来た」
部屋を出て行こうとするグレイザックにアブストールは言った。
「いつ帰ってきた?」
「昨夜だ」
「待ってろ」
グレイザックはそれだけ言うと自室に戻り、すぐさま薬瓶を2本持って帰ってきた。
「今すぐ帰れ。まだ間に合う。お前の天馬の速度にグレティアーナがついてこられないなら、お前だけでもすぐに帰れ。彼女と側近は後からこちらで送り届ける」
グレイザックは言う。
「グレイザック様、私が妹と相乗りしても構いませんか?」
グレイザックの台詞で緊迫度が分かり、ムナグレークは口を挟んだ。
「分かった。すぐに行け」
グレイザックは命じる。
そして、部屋の窓を開け、庭を散歩しているリディオノーレを見つけて声を張り上げた。
「リディ!!」
「!?はい!!」
とりあえず返事をし、声がした方を見るリディオノーレ。
急に声をかけられ、肩がびくついた。
「アブストールとグレークの天馬を今すぐ出せ!」
グレイザックの声から緊迫度が分かったらリディオノーレは、すぐさま動く。
アブストールとムナグレークが部屋から出てきた頃には天馬の準備も完了していた。
「先に出る」
アブストールはそう言って、先に天馬で駆けて行く。
何が何だか分かっていないグレティアーナは目をぱちくりさせている。
「ティア、行くぞ」
ムナグレークが先に乗り、グレティアーナに手を出す。
「え、あ、はい」
グレティアーナはムナグレークの後ろに乗る。
「急ぐからな。ちゃんと掴まってろよ」
ムナグレークはそう言って、今まで見たことのない速さで天馬の手綱を打った。
天馬の扱いに関しては、ムナグレークの右に出る者はいない。相乗りだろうが関係なく、先に出たアブストールに追いつくであろう。
姿が見えなくなり、リディオノーレは口を開いた。
「緊急事態ですか?」
「ああ」
グレイザックは答える。
グレティアーナの側近は、呆然としていた。
「俺らはグレティアーナの天馬を連れて向かう。お前がその天馬に乗れ。サムエル、留守を頼む。バルデ、このまま来れるか?」
「大丈夫です」
グレイザックは簡潔に指示を飛ばしていく。
「グレティアーナの側近、お前もついてこいよ。離されるな」
グレイザックの言葉に側近は頷く。
「では、向かうぞ。リディ、バルデついてこい」
4人もあっという間に飛び立って行った。
慌ただしく去って行った皆を見送り、サムエルは肩を回した。
薬も渡した。後は時間との勝負だ。
アブストールの腕なら間に合うだろうと信じている。
「何かあったのですか?」
天馬が次々と飛び立ったのを見ていたフェルバールや騎士達がやってきて、サムエルに尋ねる。
「アラウィリアに向かわれました」
サムエルは答える。
「え?何故急に」
フェルバールは驚く。
「詳しくは知りません。あー、フェルバール様。執務のお手伝い、お願いしますね」
サムエルはにっこりと微笑んだ。
「………」
フェルバール以外の騎士達がそろりと離れていく。
「おや、あなた達も手伝ってくれても良いのですよ?」
離れて行く騎士達に向かって、サムエルは呼びかける。
「いえいえ。我々が手伝った所で邪魔になるだけですので遠慮しておきます」
騎士達はにこりと笑って断った。
「お手伝いしたくなったらいつでもお声掛け下さいね」
サムエルもにっこりと微笑んで答えた。
「ピュー」という擬音が当てはまりそうな速度で、騎士達はそそくさと去って行った。
「……やりますやります」
フェルバールは、はぁと思い切りため息をついて執務に向かうのだった。




