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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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アブストールの嘆願




「そんなにティルはやばいのですか……」

話を聞いていたリディオノーレは苦い顔になる。


「一緒に授業を受けたろう?寝ていなかったか?」

アブストールが茶菓子をつまみながらリディオノーレに尋ねる。


「………寝て、ました」

がっつり隣で寝ていた記憶がある。

自分は自分で隣で教科書を読み耽り、アリウォーナに怒られた記憶があるが。


「文字や数字を見るとすぐ眠くなるんだ。全然勉強が進んでない。このままだと留年確定だ」

アブストールは頭を抱える。


「そんなものリディが知ったことか」

リディオノーレの隣に座るグレイザックが、尊大な態度で言い放つ。

「グレイザックには言っていない」

アブストールは反論した。


おお、と誰かが一瞬声を上げた。

機嫌がそこまで良くないグレイザックに反論するとはなかなか凄い。


グレイザックがにっこりと微笑む。


「俺はリディの後見人だ」

「だが、学生は基本寮生活だ。元々は、保護者も介入しないはずだろう」

アブストールはグレイザックを睨みつける。


「お前の馬鹿な妹に、何故リディが付き合ってやらねばならん」

グレイザックは微笑むのをやめて、アブストールをまっすぐ見据えて言い返す。


腕を組んでいるグレイザックは、指先でトントンと腕を叩いている。


「お前だって、リディの見張りにティルを使っていただろう」

「文字もろくに書けん奴はいらん」

グレイザックは切り捨てる。


スティルナーデはリディオノーレの近況をアングロードを通じて手紙を出していたのだ。


「………リディ、助けてやってくれ」

アブストールはグレイザックと喋るのをやめて、リディオノーレに話しかける。


「………帰るつもりではいますよ」

リディオノーレは答える。

「いつ?」

「…………」

リディオノーレは唇を引き結ぶ。


スティルナーデを助けてやりたいのもあるが、アインズビルに長く居たい。


「学院が好きではないの?」

グレティアーナが優しく尋ねる。

「好きとか嫌いではなく、アインズビルが好きなんです」

リディオノーレは答えた。


「本人もこう言ってる。すぐに帰すことは出来ん」

グレイザックは唇の端を上げる。


「何かやることがあるのか?」

アブストールは尋ねる。

「んーーーと………」

リディオノーレはグレイザックを見やる。


やることと言えば、数日後のラルシャークの祭りに行くくらいしかちゃんとした用事はない。

後は、魔獣の起源を調べることくらいだ。

まずは、自領の図書室から調べる予定である。

それはそこまで急ぎではないので、ゆっくり調べようと思っていた所だ。


「私が口を挟んでも?」

ムナグレークが口を開いた。

グレイザックは無言で促す。


「アブストール、お前恥ずかしくないのか」

ムナグレークの口調が一気に変わり、リディオノーレは少し驚いた。


「恥ずかしいに決まってるだろ。妹が馬鹿だということを公表しているんだから」

アブストールは全然恥ずかしくなさそうに言い放った。


「お前がどうにかしろ」

ムナグレークも言い放つ。

「出来たらこうはなってない。だが、ティルが珍しく懐いた他人がリディなんだ。リディが帰ってきたら、勉強も頑張ると言っている」


「ええぇぇぇ」

リディオノーレは思わず言ってしまう。

「リディはティルといるのは嫌?」

グレティアーナが尋ねる。


「そういうわけではないんです。ティルは可愛くて面白いですから。そうではなくて……」

リディオノーレはグレイザックをちらりと見る。


「ちょっとだけでいいのよ。ティルが授業についていけるくらいにしてくれたら助かるわ」

グレティアーナは言う。


少し考えたのち、リディオノーレは口を開いた。

「3日とか、1週間とかでもいいですか?」

あまりにも短い日数にグレイザック以外が苦笑する。


「それは短すぎないか?」

アブストールが突っ込む。

「だって、アインズビルが好きですもん」

リディオノーレは唇を尖らせる。


グレティアーナは苦笑しながら口を開く。

「その日数でもいいのだけれど、それでティルがどうにかなりそうかしら?」


「どうにかなりそうではなく、どうにかするのですよ、ティア様」

リディオノーレはにこりと微笑んだ。

あまりにも勇ましい発言でグレイザックは「くく」と笑った。


「どうにかさせればいいんでしょう?留年さえしなければいいんですよね?」

リディオノーレは再度尋ねた。

「ええ。お願いできるかしら」


「大丈夫です。グレイザック様の弟子なので」

リディオノーレは答える。

「グレイザック様、数日後の予定が終わってちょっとしたら一瞬だけ学院に帰ってもいいですか?」

リディオノーレはグレイザックに尋ねる。


「………学生の本分は勉強だからな」

グレイザックは当たり障りのない答えを返す。


「本気でどうにかしてきますので、1週間ください」

リディオノーレはじっとグレイザックを見つめる。

『転移にも慣れないといけないので、その練習もしたいです。なので、毎日帰ってきます』

彼女は念話も飛ばす。


グレイザックは彼女の額を弾いた。


「学院にいないお前がおかしいのだが、まあ気にせんでいい。好きにしろ」

「でも、私がいないと寂しいでしょう?」

「それはお前だろ」

「見送るとき寂しいって言ってたくせに」

「気のせいだ」


師弟2人のやりとりにアブストール夫妻は少し目を丸くしながら聞いている。

他は温かい目で2人を見ている。


「第一、お前がその妹の勉強の面倒を見てやらんでもいいぞ」

グレイザックは彼女の額をまた弾く。

「自分のことを優先しろ」

「……」

グレイザックなりの優しさである。

リディオノーレは思わずにやけてしまった。


「気持ち悪い顔をするな。早く話を終わらせろ」

グレイザックはため息をつく。

リディオノーレはアブストール達の方に向き直る。


「そうですね……1週間後くらいには戻ります」

「ありがとう!」

グレティアーナが微笑む。

「頼んだ、リディ!!」

アブストールがリディオノーレの手を両手で握って、感謝を示す。


グレイザックは彼女の手を握るアブストールの手を不快な顔で叩いた。


「触るな」

その発言にアブストールは目を丸くして、手を引っ込めた。

そして、2人を見てにやりとするアブストール。


「お前も気持ち悪いな」

グレイザックは眉間に皺を寄せる。


グレティアーナはアブストールの手を取って、先に口を開いた。

「急に訪れて無理を言ってごめんなさいね、リディ」

「いえ。大丈夫です」

リディオノーレは微笑む。


「グレイザック様、ありがとうございます」

グレティアーナは頭を下げた。

「構わん」

グレイザックは素っ気なくそう答え、リディオノーレを見た。


「リディ、グレティアーナ様に庭でも案内してやれ」

「いいんですか?」

「構わん。フェルかバルデを連れて行けよ」

「行きましょう、ティア様」

リディオノーレはグレティアーナの手を取る。


女性2人がいなくなった所で、グレイザックは真剣な顔でアブストールを見た。


「わざわざこっちに来るくらいだから、何か報告があるんだろう」


「ああ」

アブストールが一瞬で怖い顔になった。




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