子息のお誘い
リディオノーレがラルシャーク子息に手紙を出すと、数日後、突如本人がやってきた。
アブストールにも手紙を出したが、都合がついたらすぐに向かうので、また連絡するとの返信だった。
「………グレイザック様、ラルシャークのご子息が来ています」
フェルバールがグレイザックの執務室に報告しに来た。
グレイザックは書類から目を離さず、片眉を上げて口を開いた。
器用な芸当である。
「何の用だ」
「リディに会いたいそうです」
「応接室に通しておけ。リディは今、サムエルと訓練中だ。終わるまでお前かバルデかグレークで対応しろ」
「………分かり、ました」
フェルバールは固い顔で返事して、部屋を去って行った。
グレイザックは何事もなかったように執務を続ける。
彼は訪問者のことを記憶の片隅に押しやった。
フェルバールが報告しに来て1時間ほど経った頃、やっとリディオノーレとサムエルが戻ってきた。
「遅くなりました」
サムエルは水を飲んで汗を拭くと、執務にすぐに戻る。
リディオノーレもサムエルに続いて執務に戻る。
「……そう言えば、リディに何か言うことがあった気がする」
グレイザックはそう言いながらも仕事を2人に割り振る。
「何ですか?」
リディオノーレは首を傾げる。
「あまり重要なことではないと思ったのは確かなんだが……」
「あーーー、訪問者のことでは?」
サムエルがふと思い出して言った。
「あー、それだ」
グレイザックは言う。
「途中、バルデミアン様にお会いしました。フェルバール様が帰ってこないのでどうなってるのかと聞かれた為、詳細を逆に尋ねた次第です」
「あいつ、1時間も1人で相手してるのか」
グレイザックは驚いた。
「そんな前から来ていらっしゃるのですか」
サムエルは苦笑した。
「リディ、行きましょうか。流石にお客様を待たせすぎです」
サムエルが促す。
「グレイザック様はそのまま居て下さい。威圧しそうですので」
サムエルはにこりと笑ってグレイザックの同行を先に断った。
「じゃあ、後で迎えに行く」
グレイザックはサムエルを少し睨んだ。
「分かりました。早急に話をつけます」
サムエルはそう答え、リディオノーレに行きましょうと促した。
応接室に行った2人は、疲れ果てているフェルバールを見て苦笑してしまった。
「お待ちしておりました。リディオノーレ様」
子息は立ち上がって、彼女に向かって微笑んだ。
長い間待っていたにも関わらず、彼女には笑顔を向ける子息に、サムエルは少しだけだが感心した。
本当に少しだけだが。
「こちらこそお待たせしたようで申し訳ありません」
リディオノーレは彼の向かいに腰を下ろした。
「お茶を淹れますね。フェルバール様、戻ってもよろしいですよ。お疲れ様でございました」
サムエルはフェルバールを労う。
「バルデミアン様に廊下での護衛をお願いしてきてもらってもよろしいですか」
「かしこまりました」
フェルバールは頭を下げてから部屋を辞していった。
サムエルは素早くお茶を淹れ、2人の前に置いた。
そして、リディオノーレの後ろに控える。
「……単刀直入にお聞きしますが、私に何の用事でしょうか?」
リディオノーレは首を傾げ尋ねた。
子息は意を決したように口を開いた。
「私にラルシャークを案内させてくれませんか」
「………???」
リディオノーレは首を傾げて、サムエルを振り返った。
サムエルはひとつため息をつくと、口を開く。
「リディオノーレ様は少々鈍いですので、遠回しでは伝わりません」
サムエルは子息に向かってそう言った。
「……」
子息は少し考えたのち、拳を握って口を開いた。
「今度我が領地で祭りがあります。一緒に行きませんか?」
「祭りですか!?」
思わず身を乗り出したリディオノーレ。
その食い付きに子息は嬉しそうな顔をする。
サムエルも思わず苦笑いだ。
こうなれば彼女を止めるのは難しい。
「どんなお祭りなんですか!?」
「市のときのように色んな屋台が出ます。それと特設会場で演劇や踊りなども見られます。夜になれば、魔法使い専用の店に変わり、風魔法を使った輪投げや射的もございます」
「聞くだけですごい面白そうですね!」
リディオノーレは笑顔で言い、サムエルを振り返る。
「行きたいのは分かりますが、そのお祭りは1日中のようですし、保護者に許可を取らないといけません。護衛も必要ですよ」
サムエルは彼女に説明する。
そして、サムエルは子息を見つめ口を開いた。
「ラルシャークご子息様、護衛は2人付けさせてもらいますがよろしいですか?」
「構いません。グレイザック様で無ければ」
子息はハッキリと告げた。
きちんと牽制してくる彼にサムエルは内心、少しだけ感心した。少しだけだが。
「かしこまりました。では、呼んできますのでお待ち下さい」
サムエルは廊下に出て、控えてくれているバルデミアンに言付けを頼む。
すると、1分も経たない内にグレイザックがやってきた。
あまりの早さにサムエルは苦笑しながら、出迎えた。
グレイザックは子息をチラと見て、リディオノーレの隣に腰を下ろした。
思いきり足を組み、腕も組むと子息をまっすぐ見つめた。
子息は少し体を引く。
「……威圧してますよ」
ほんの少しだが。
リディオノーレはグレイザックの様子を見ながら口を開いた。
少し機嫌が悪い気がするのは気のせいではないだろう。
「お話聞きましたか?」
リディオノーレはグレイザックに尋ねる。
「ああ。ラルシャークで開かれる祭りだろう?」
「そうです。行ってみたいのですが、駄目ですか?」
リディオノーレは隣のグレイザックの顔を真正面から見るために、体ごと捻って、彼を見つめる。
「護衛は誰を連れて行く」
行きたい彼女を止めることなく、グレイザックはそう尋ねた。
許可が出たことにリディオノーレは少し嬉しそうな顔をする。
「フェルバール様とバルデミアン様、じゃないですか?」
その言葉にグレイザックは少し考えたのち、口を開いた。
「サムエルとバルデミアンを連れて行け」
「サムエル様を借りてもいいのですか?」
「強さで言えば、サムエルが1番安心だ」
その言葉にリディオノーレはサムエルを振り返った。
「サムエル様、いいですか?」
「構いませんよ」
にこりと微笑むサムエル。
「決まったな。祭りはいつだ?」
グレイザックは相変わらず尊大な態度で子息に尋ねる。
「5日後です。前日お迎えに上がります」
「………分かった」
グレイザックはすごい嫌そうな顔で返事した。
子息は許可が出たことに満面の笑みになり、リディオノーレの方に身を乗り出した。
「食べ物は何が好きですか?何か見たいものやしたいことはございますか?何でも仰って下さい」
「先程言っていたものが全て気になります。案内よろしくお願いします」
「任せて下さい。では、4日後にお迎えに上がります」
子息は喜色満面でアインズビルを去って行った。




