報告
翌日。
リディオノーレが目を覚ましたのは、昼前だった。
「……お前の方がよく寝てどうする」
グレイザックが苦笑しながら言った。
彼女が寝ている隣で片膝を立てて、座って読書していた。
「おはようございます」
目をこすりながら起き上がると、眼鏡を探す。
「ここだ」
グレイザックは本を閉じて、渡してやる。
「前より光が多いか?」
「少し、増えてます」
「そうか。異常な眩しさになったら必ず言えよ」
「はい」
「今日はどうするつもりなんですか?」
「報告会だな」
「そうでしたね。あ、ご飯食べたんですか?」
その質問にグレイザックは彼女の額を弾く。
「お前を待ってたんだろ」
その言葉に頬が緩むリディオノーレ。
「気持ち悪いぞ」
グレイザックが眉間に皺を寄せたあと、部屋の扉が叩かれた。
「入りますね」
入ってきたのはサムエルである。
「起きましたか」
リディオノーレを見て、サムエルは少し呆れたように言う。
「疲れは取れましたか?」
「サムエル様こそ大丈夫ですか?」
「リディよりは体力ありますからね」
サムエルはにこりと答える。
「では、まずはご飯を頂きましょう。執務室で皆さんお待ちです」
執務室に行くと本当に全員勢揃いで、皆で久々の再会に話に花を咲かせた。
食事が終わり、互いの報告会へと話が移る。
「ディールはリディの使役獣もどきってことですか」
ムナグレークは言う。
「そうだな。頼めるか?」
グレイザックが問う。
「1匹増えたところで何ら問題ありませんので大丈夫ですが、まさか狼を連れて帰ってくるとは思いませんでしたので驚いただけです」
ムナグレークはにこりと微笑んだ。
「すいません」
リディオノーレは苦笑いになる。
「そっちは?」
グレイザックがムナグレークに尋ねる。
「執務に関しては何ら問題ないです。こちらの報告事項としては2つです。1つ、リディ宛てに手紙が届いています」
ほら見たことか、と上から目線でリディオノーレを見るグレイザック。
彼女は唇を尖らせる。
「アブストールとアングロードからですね」
ムナグレークは彼女に手紙を差し出した。
リディオノーレはアングロードからの手紙を読んで笑ってしまった。
切実に早く帰ってきて欲しいのが、文面からよく伝わる。
アブストールは、帰ってきたら連絡してくれとのことだ。
リディオノーレは手紙をグレイザックにも渡す。
「もう1つは?」
グレイザックが手紙を読みながら尋ねた。
「もう1つもリディの件でして。彼女に会いたいと訪問がございました」
ムナグレークが答える。
ちょっと覚悟したような顔で。
「?」
グレイザックは少し眉間に皺を寄せた。
「私ですか?」
リディオノーレは首を傾げる。
わざわざアインズビルに来てまで、誰が自分に用事があるのだろう、と疑問に思う。
「2人……正確には3人いらっしゃいまして、1人はラルシャークのご子息です」
「??」
リディオノーレは更に首を傾げる。
逆にグレイザックは表情が消えた。
「……」
ムナグレークは唇を噛む。
報告が怖すぎる。
「何と言っていた?」
グレイザックは無表情で尋ねた。
「………帰ってきたら連絡が欲しいとのことです」
フェルバールが答えた。
「フェルが対応したのか」
「ええ、ちょうど」
「詳細は後で直接教えろ」
グレイザックにそう言われ、フェルバールはこくこくと頷いた。
恋文が届いていることは内緒にしておくらしいグレイザックに、フェルバールは頷くことしか出来なかった。
「あとの2人は?」
グレイザックが先を促す。
「ウィスナビア領主子息の長兄と次兄です」
「メディオール様ではなくて、ですか?」
リディオノーレは目を瞬く。
正直、名前すら知らない。
「リディに同意見だ。そいつらがリディに何の用がある?」
グレイザックの視線が怖い。
「こちらは呆れた内容ですので、聞かない方がよろしいかもしれません……」
ムナグレークが口をへの字に曲げながら答えた。
「一体何があったのですか」
サムエルが怪訝な顔をする。
ムナグレークはグレイザックとリディオノーレを交互に見て、意を決して口を開いた。
「メディオール様が領主を目指すことになった為に兄弟関係が悪くなったそうです。それをリディのせいだとぬかしていました」
それを聞いた瞬間、リディオノーレは立ち上がった。
グレイザックは隣に座っていた彼女の腕を持って止める。
「何するんですか」
「何するつもりだ」
グレイザックは眉を上げながら尋ねた。
「殴りに行きます」
「それだけじゃ足らん。半殺しでいけ」
グレイザックはそう答え、手を離した。
それを聞いてリディオノーレは「任せてください」と言って、杖を抜いて執務室の窓から出て行こうとする。
扉からではなく、窓から出て行こうとする行動に本気さを感じる。
「えええっ、ちょ、ちょ、待って下さい」
「おおお、落ちますから!危ないです!」
「グレイザック様も煽らないで下さいっ」
ムナグレークとバルデミアンとフェルバールがリディオノーレを慌てて引き止める。
1人は窓を開けさせないように押さえ、1人は腕を持ち、1人は杖を取り上げようとする。
リディオノーレは止めに入る3人を思いきり睨んだ。




