急いで帰領
サムエルは色んな人に誘われていたようで、酒場をはしごしながら飲み明かしたようだ。
サムエルは少し明るくなってきた早朝、グレイザック達の元に戻ってきた。
「……帰ってこないかと思ったぞ」
グレイザックは窓際に座って、外を眺めながらそろりと帰ってきたサムエルに声をかけた。
「遅くなり申し訳ありません」
「……別にお前はここに残っても良いぞ」
グレイザックはそう言った。
「私は残りませんよ。グレイザック様と最期まで共に」
サムエルは膝をついた。
「……すまんな」
グレイザックは苦い顔で言う。
「何か淹れましょうか?」
サムエルはグレイザックの心情に踏み入ることはせず、違うことを尋ねる。
「良い。少しでも寝ておけ」
「それはグレイザック様もでしょう」
あまり寝ていないのが見て分かったサムエルはそう告げる。
「……飲み物を淹れましょうか」
サムエルは再度問うた。
「いや、良い」
グレイザックはそう答え、サムエルに寝るように促す。
「………少しだけ、寝ます。歳には勝てませんので」
サムエルは後ろ髪を引かれながらも、寝室に向かった。
陽が昇りきると、リディオノーレは目を覚ました。
「あれ?」
グレイザックの姿が無いので探し回って、寝室から出る。
窓辺で彼は頬杖をついて眠っていた。
無防備で珍しい姿にリディオノーレは思わず微笑む。
起こさないようにそろりと毛布をかけてあげる。
少しでも彼が休める場所と時間が増えますように、と願いながらリディオノーレはグレイザックの向かいに腰を下ろして、彼が起きるのを待つことにした。
皆が起きてから遅めの朝食を全員で摂り、忘れ物がないか確認すると、ドロゴルミットを後にした。
サムエルに関しては、町民や門番がものすごく別れを惜しんでいた。
何回引き止められたことか。
そして、ディールはケネスと相乗りしている。
天馬に縋りつき、落とされないように乗っている。
行きと面子が変わっていたので、すごい門番に訝しがられたが、グレイザックとサムエルは笑顔で押し通した。
「グレイザック様もサムエル様も睡眠時間足りましたか?」
天馬で駆けながら、リディオノーレは2人に尋ねる。
「大丈夫だ」
「私も大丈夫ですよ」
2人とも同じ答えを返す。
どう足掻いても2、3時間くらいしか寝てなさそうなのに。
早く帰って休んでもらうしかなさそうである。
「急いで帰りましょう」
リディオノーレは手綱を強く打った。
アインズビルに到着したのは陽が沈み、夕食の時間も過ぎた頃合いだった。
まあまあ飛ばした方である。
ムナグレーク達3人が執務室で夕食を摂っている所に帰ってきたグレイザック達。
「お帰りなさいませ!!」
ムナグレークが慌てて立ち上がった。
フェルバールとバルデミアンも出迎えてくれる。
「そのままで良い。俺らはこのまま休む」
グレイザックは手で制すると、リディオノーレと共に自室へ向かおうとする。
彼ら2人の後を追う黒い狼を見て、ムナグレークは目を見開いた。
「グレイザック様、その狼は?」
ムナグレークに指摘され気付いたようで、グレイザックとリディオノーレは足を止めた。
「グレーク様、説明は明日しますので、この子をお願いしてもいいですか?名前はディールです」
リディオノーレはそう言ってディールを撫でて、ムナグレークの元に行くよう促す。
「………分かりました」
ムナグレークは怪訝な顔をしたものの了承した。
「リディ、行くぞ」
グレイザックに呼ばれ、リディオノーレは自室に向かった。
2人が出たのち、サムエルが時間差で執務室に訪れた。
ケネスはアインズビルに帰ってきた瞬間、狼に戻り自分の小屋に帰って行った。
「只今帰りました」
サムエルは頭を下げる。
「お待ちしてました。お疲れ様です」
フェルバールが労う。
「仔細はまた明日お話ししますので、今日はこのまま下がらせてもらっても大丈夫ですか?」
「サムエル様がそう言うくらいですから、よっぽどお疲れなのでしょう。ゆっくり休んで下さい」
バルデミアンが答える。
「すいません、お言葉に甘えますね。結構飛ばして帰ってきましたので」
サムエルは苦笑して部屋を辞した。
ムナグレーク達は残されたディールを見やる。
「……リディについてきたんでしょうね」
ムナグレークはディールと目線を合わすため、しゃがみ込んだ。
「知らない人に囲まれてるのに警戒心が無さすぎますよ」
ムナグレークはそう咎め、ディールの額を弾く。
「っ!」
ディールは少し驚いた顔をした。
「……襲ってきませんか?」
バルデミアンは恐る恐る尋ねる。
「もし襲ってきても躾けますので大丈夫です」
ムナグレークはにっこりと笑って、ディールを見た。
ディールは人間のように目を瞬いて、ムナグレークをジッと見つめたのだった。




