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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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209/912

急いで帰領




サムエルは色んな人に誘われていたようで、酒場をはしごしながら飲み明かしたようだ。


サムエルは少し明るくなってきた早朝、グレイザック達の元に戻ってきた。


「……帰ってこないかと思ったぞ」

グレイザックは窓際に座って、外を眺めながらそろりと帰ってきたサムエルに声をかけた。


「遅くなり申し訳ありません」

「……別にお前はここに残っても良いぞ」

グレイザックはそう言った。


「私は残りませんよ。グレイザック様と最期まで共に」

サムエルは膝をついた。

「……すまんな」

グレイザックは苦い顔で言う。

「何か淹れましょうか?」

サムエルはグレイザックの心情に踏み入ることはせず、違うことを尋ねる。


「良い。少しでも寝ておけ」

「それはグレイザック様もでしょう」

あまり寝ていないのが見て分かったサムエルはそう告げる。


「……飲み物を淹れましょうか」

サムエルは再度問うた。

「いや、良い」

グレイザックはそう答え、サムエルに寝るように促す。


「………少しだけ、寝ます。歳には勝てませんので」

サムエルは後ろ髪を引かれながらも、寝室に向かった。




陽が昇りきると、リディオノーレは目を覚ました。

「あれ?」

グレイザックの姿が無いので探し回って、寝室から出る。


窓辺で彼は頬杖をついて眠っていた。

無防備で珍しい姿にリディオノーレは思わず微笑む。


起こさないようにそろりと毛布をかけてあげる。

少しでも彼が休める場所と時間が増えますように、と願いながらリディオノーレはグレイザックの向かいに腰を下ろして、彼が起きるのを待つことにした。





皆が起きてから遅めの朝食を全員で摂り、忘れ物がないか確認すると、ドロゴルミットを後にした。

サムエルに関しては、町民や門番がものすごく別れを惜しんでいた。

何回引き止められたことか。


そして、ディールはケネスと相乗りしている。

天馬に縋りつき、落とされないように乗っている。

行きと面子が変わっていたので、すごい門番に訝しがられたが、グレイザックとサムエルは笑顔で押し通した。



「グレイザック様もサムエル様も睡眠時間足りましたか?」

天馬で駆けながら、リディオノーレは2人に尋ねる。


「大丈夫だ」

「私も大丈夫ですよ」

2人とも同じ答えを返す。

どう足掻いても2、3時間くらいしか寝てなさそうなのに。


早く帰って休んでもらうしかなさそうである。


「急いで帰りましょう」

リディオノーレは手綱を強く打った。






アインズビルに到着したのは陽が沈み、夕食の時間も過ぎた頃合いだった。

まあまあ飛ばした方である。


ムナグレーク達3人が執務室で夕食を摂っている所に帰ってきたグレイザック達。


「お帰りなさいませ!!」

ムナグレークが慌てて立ち上がった。

フェルバールとバルデミアンも出迎えてくれる。


「そのままで良い。俺らはこのまま休む」

グレイザックは手で制すると、リディオノーレと共に自室へ向かおうとする。

彼ら2人の後を追う黒い狼を見て、ムナグレークは目を見開いた。


「グレイザック様、その狼は?」

ムナグレークに指摘され気付いたようで、グレイザックとリディオノーレは足を止めた。


「グレーク様、説明は明日しますので、この子をお願いしてもいいですか?名前はディールです」

リディオノーレはそう言ってディールを撫でて、ムナグレークの元に行くよう促す。


「………分かりました」

ムナグレークは怪訝な顔をしたものの了承した。


「リディ、行くぞ」

グレイザックに呼ばれ、リディオノーレは自室に向かった。


2人が出たのち、サムエルが時間差で執務室に訪れた。

ケネスはアインズビルに帰ってきた瞬間、狼に戻り自分の小屋に帰って行った。


「只今帰りました」

サムエルは頭を下げる。

「お待ちしてました。お疲れ様です」

フェルバールが労う。


「仔細はまた明日お話ししますので、今日はこのまま下がらせてもらっても大丈夫ですか?」

「サムエル様がそう言うくらいですから、よっぽどお疲れなのでしょう。ゆっくり休んで下さい」

バルデミアンが答える。


「すいません、お言葉に甘えますね。結構飛ばして帰ってきましたので」

サムエルは苦笑して部屋を辞した。


ムナグレーク達は残されたディールを見やる。


「……リディについてきたんでしょうね」

ムナグレークはディールと目線を合わすため、しゃがみ込んだ。

「知らない人に囲まれてるのに警戒心が無さすぎますよ」

ムナグレークはそう咎め、ディールの額を弾く。


「っ!」

ディールは少し驚いた顔をした。


「……襲ってきませんか?」

バルデミアンは恐る恐る尋ねる。

「もし襲ってきても躾けますので大丈夫です」

ムナグレークはにっこりと笑って、ディールを見た。


ディールは人間のように目を瞬いて、ムナグレークをジッと見つめたのだった。





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