ドロゴルミットを去る前に
その翌日にグレイザック達はまた日数をかけて、渓谷を抜けた。
襲ってくる魔獣は倒しながら。
でも、魔獣になるのは人間のせいだと言われたら、少し殺すことに躊躇いを覚えたリディオノーレである。
だが、躊躇ったらこちらがやられてしまうので、グレイザックとサムエルが悉く倒していた。
行きは長い道のりに感じたが、帰りはあっという間に町まで戻ってきた。
「帰りは早かったですね」
リディオノーレは言う。
「そうだな。宿をとって、1泊して帰るか。土産も買いたいだろ?」
グレイザックの提案にリディオノーレはすごく頷く。
「サムエル、宿を頼めるか。ケネスをつけておく」
「かしこまりました。後ほど向かいますね」
サムエルとケネスが宿を探しに向かう。
グレイザックとリディオノーレとディールは町の散策を始めた。
「アラウィリアみたいに武器屋が多いですね」
「魔獣狩りの国だからな。武器屋が儲かるだろう」
「じゃあ、こういう軽食屋は魔獣狩りに行く人向けですか?」
パンなどの手掴みで食べられるお品書きの飲食店も多い。
「そうだな。何か食べるか?」
「私、あの串焼き食べたいです」
指を差すリディオノーレ。
「前も食べてたな。好きなのか?」
「庶民の味、って感じで好きです」
「お前、庶民じゃないだろ?一応貴族だろうが」
「カルムクラインはそんなお金持ちじゃないですよ。むしろ、節制してましたので平民と変わりありません。町の方が知り合い多かったですし」
「そう言えばそうか。実親は節制の見本だと噂されてたな」
「それに比べて、叔父家族は最悪でした」
リディオノーレはからりと笑う。
その言葉にグレイザックは彼女の手を握った。
「??」
リディオノーレは疑問に思ったが、握り返す。
「……思い出したくないことではなかったか?」
グレイザックの質問にリディオノーレは少し目を瞬くと、嬉しそうに握った手を振り回した。
「優しいですよね、本当に」
その言葉にグレイザックは少し拗ねて手を離そうとしたが、リディオノーレは逆に力強く握りしめる。
「離せ」
「いいじゃないですか」
リディオノーレは嬉しそうにしながら、串焼き屋で串焼きを3本買う。
1本はディールに串を外してあげた。
「タレが美味いな」
「美味しいですね!私、あの果実水も飲みたいです」
リディオノーレはグレイザックの手を引っ張って行く。
「急がなくてもいい」
グレイザックは呆れつつも、彼女に引っ張られながらついて行く。
「うわ!酸っぱ!」
彼女が選んだ果実水はとても酸っぱくて、口を思わず窄める。
「俺のはちょうどいい甘さだ。ほら」
グレイザックは彼女の果実水と交換する。
「……かなり、酸っぱいな」
グレイザックも眉間に皺を寄せる。
「お兄ちゃんたち、これと一緒に食べるんだよ」
店主の女将が切った果物を出してきた。
それを食べてから酸っぱい果実水を飲んでみると、全然酸っぱくなくなって、2人は目を見開いて驚いた。
「美味いな」
「飲み物だから持って帰れないのが残念ですね」
リディオノーレは言う。
「また来よう」
「絶対ですからね」
リディオノーレはそう言って、次はあの素材屋を見たいと言い出す。
「採集した素材を少し売って、金にするぞ」
「分かりました」
グレイザックは採集素材を厳選して売却すると、銀貨10枚になった。
5枚ずつ2人で分ける。
「半分も貰っていいんですか?」
「構わん」
リディオノーレは嬉しそうにお金をしまう。
「次は土産か?」
「そうですね。皆に何買いましょうか」
うーん、と悩むリディオノーレ。
「菓子でいいだろ」
「アインズビルの皆さんにはそうしましょうか。個包装のやつにしましょう。後は………ティルに何か買っておいて機嫌を取っておいた方がいいかもですね…」
リディオノーレは呟く。
「あんな奴どうでもいいと言いたい所だが、その方がいいだろうな」
グレイザックも同意する。
「何にしましょうか……。前は柄飾りに喜んでいましたが」
「意外と髪留めとか使うかもしれんぞ」
「それは思いついてなかったです!それにします」
リディオノーレは早速装飾品を売っているお店に向かう。
色々と物色しながら、グレイザックは話しかける。
「お前はどれがいい?何か欲しいものあるか?」
「もうこれ以上、装飾品つけられませんよ」
リディオノーレは苦笑しながら言った。
髪留めに耳飾りに首飾り。
腕輪もあれば、あとどこにつけられる所があるのか。
「足があるだろ。足が」
「これ以上はつけすぎですよ」
「……そうか?」
「充分です。ありがとうございます。私、ティルの分買ってきますね」
リディオノーレは支払いに行く。
装飾品屋を出た2人は、次に雑貨屋へと向かう。
そんな2人を遠くからサムエルとケネスは見ていた。
宿も決まり、ケネスの鼻を頼りに2人を見つけたのだが、あまりにも雰囲気が恋人のようなので近付けないでいた。
「本当に仲がよろしいことで」
サムエルは笑っている。
「主のこんな姿を見れるとはな」
ケネスも言う。
「あの時、リディの下着姿を1番に隠しましたからね」
サムエルは、くす、と笑う。
鯨と対峙し終わったあと、一目散に彼女の元に駆けつけて下着姿を隠していた。
「もう少し、様子を見ましょうか」
サムエルとケネスは距離をあけて、グレイザック達について行った。
「ここ、おしゃれなお店ですね」
リディオノーレ達が入った雑貨屋は、とても色んな物が揃えてあり、目移りをすごいしてしまう。
「うわー、これも可愛いですし。これも使えそうですね。このマグ、皆でお揃いでどうですか?」
「皆って誰だ」
「グレーク様にサムエル様にフェルバール様にバルデミアン様。そして、ケネス様と」
「いいんじゃないか」
グレイザックは言う。
「これくらいで足りるか?」
グレイザックはお金を彼女に渡す。
「もらいすぎです。これくらいで大丈夫です」
リディオノーレは半分返す。
「買ってきますね!」
彼女は嬉々として購入に向かった。
買った物は全て収納魔法の革袋にしまい、店を出る。
ディールはひたすら2人の後をついて行くだけである。
「ああ、サムエル」
店を出ると、サムエル達に気付いたグレイザックが声をかけた。
気付かれてしまったサムエルとケネスは、苦笑しながらグレイザック達に近付いた。
「お買い物は終わりましたか?」
サムエルが尋ねる。
「とりあえずな。サムエルはどうする?」
「私は構いません。結構町の人たちから色々貰っておりますので」
サムエルは苦笑いで答えた。
確かにその通りだった。
サムエルは本当に人気者だった。
「宿は取れました。私は先にディールと戻っておきましょうか」
「リディ、まだ買う物あるか?」
「もう充分買いました」
「では皆で宿に行くぞ。歩くのも疲れたろう」
「……魔力を流せば問題無いです」
リディオノーレは答えた。
その答えにグレイザックは彼女の額を弾くと、「ディール」と呼ぶ。
「リディを乗せてやれ」
「……私だけですか?グレイザック様も乗りませんか?」
「こんな町中で2人で乗ると目立つだろうが」
グレイザックは呆れたように言う。
「ほら行くぞ。明日にはこの国を出るからな」
「はい」
リディオノーレは返事する。
グレイザックは次にサムエルを見やる。
「サムエル、好きにして良いぞ。明日の朝、陽が昇るまでに帰ってきてくれたらそれで良い」
その発言にサムエルは目を瞬くと微笑んだ。
「では、お言葉に甘えても?」
「構わん」
サムエルは頭を下げると先にその場を去って行く。
足取りがいつもより少し軽やかだった。




