サムエルとケネス
「………海の生き物なのに飛ぶんですね…」
飛んでいるところをはじめ見たとき、リディオノーレは唖然とした。
「書籍では見たことはあるが、実際目の当たりにすると奇妙だったな」
グレイザックも感想を述べる。
それに驚いたくらいで、魔獣狩りは苦も無く終了した。
鮫が5頭に鯱が3頭。
なかなか見ない色の魔石が手に入り、リディオノーレとグレイザックは顔が緩む。
「お前、全部使うなよ」
グレイザックは忠告する。
「え、私のための魔獣狩りではなかったんですか」
「それはそうだが、俺にも分けろよ。師匠だぞ」
師弟2人が少し言い争いを始めたのは無視して、サムエルと人化ケネスはご飯の準備を始める。
「仲が良くて何よりだ」
離れた所で準備しているケネスは、2人を遠目で見てそう呟く。
「ですね。ずっとこのままここで暮らしますか?」
サムエルは思わず口走った。
言った後に口を押さえたサムエル。
「……すいません。聞き流して下さい」
サムエルは謝る。
「気持ちは分かる」
ケネスが苦笑いで述べた。
「ここでもいいんじゃないか。渓谷を抜けないと来れない所だろう?ここならなかなか誰もが辿り着かんだろうしな」
ケネスはそんなことを言う。
彼が同意してくれたことで、サムエルは少し微笑みながら口を開いた。
「帰ったらまた現実に引き戻されます。あの2人が幸せに過ごせるなら、ここでもいいかと思ってしまいました」
サムエルは師弟を見つめながら言った。
「同意見だな。何故わざわざ主が出張らねばならん。それが気に食わん」
ケネスは言う。そして、続ける。
「我はあの国がどうなろうが、戦で負けようが何だって良い。主が幸せになるのであれば、それで何も文句はない。だから、ここで過ごすのも良いと思うし、この国に亡命してくるのも良いと思う」
ケネスの言葉にサムエルは深く頷いた。
全くもって同意見だ。
「精霊師が何だ。何が精霊師だ。別に他の奴と何も変わらん。ただ、人より魔力が多く精霊が見えるだけだ」
ケネスはグレイザックを見た。
ずっとピリピリしながら領地内や学院で過ごしていたグレイザックが、やっと人間らしくなってきた所なのにまた厄介事だ。
ふざけるな。
「禁忌の魔法に手をつける馬鹿のせいで我が主が出張らねばならん。本当にふざけるのも大概にしてほしい」
ケネスは静かに怒っていた。
「あそこの王族は身内に甘いですから。死を受け止めきれないのでしょう」
サムエルは言う。
「それが人間の性だろうに。老いるから、死ぬから、その命大事にするんだろう。不老不死になれば、それは只の化け物だ」
ケネスは吐き捨てる。
ナックルンドの王族のことを言っている。
国王と女王がどういう状況かは知らないが、病なら病でそれは受け止めるべきだ。
仕方のないことなのだから。
それを、精霊師が公表もされてないのに精霊師の力ありきの禁忌の薬に手を出している。
ケネスは知っている。
不老不死の薬に何が必要なのか。
ザファムートと対峙した時に、彼も言っていた。
あとは精霊師の血だけだと。
そして、彼はグレイザックが精霊師だと信じていた。
ならば、グレイザックの血を取るためにナックルンドは何をしてくるのか。
それを考えれば、自ずと選択肢は絞られる。
ひとつ、王宮騎士団長として仕える。
だが、急に来た者を騎士団長として迎えるには反発が多すぎるだろう。
元々ナックルンドは、グレイザックのことを快く思っていない節がある。
学院時代に王女の求婚を断り、王女を貶したグレイザックのことを快く思っているはずがない。
次、宰相として仕える。
グレイザックの頭脳的には何ら問題ないのだが、これもあまりにも反発が大きいし、現在宰相も存命している。
無理な話だ。
その次の案は、研究者だ。
研究者なら自国で何ら構わない。
そんな地位に阿るほど、グレイザックの価値は安くない。
そんな地位ならケネスもサムエルも全力で止める。
残るは、妾か、婿か。
宰相になれるほどの頭脳を持ち、騎士団長になれるほどの戦闘力を持つ者は貴重で希少だ。
しかも精霊師となれば、次期国王でもいいくらいである。
「あっちの国で精霊師として公表すれば、婿の地位は保証されるだろう。………こちらで公表してしまえば、他国にやらんで済むものを」
「公表してしまえば、国に取られてしまいますからね……。今の暮らしが出来なくなるのは私も嫌です」
サムエルは暗い顔で告げた。
「婿になる気なのでしょう。それが1番、内側から壊すのに手っ取り早い手段ですよ」
そう言うサムエルの顔は無表情だった。
「死ぬと分かって行かせるのは、納得、いかん」
ケネスは唇を噛む。
「私も同じです。グレイザック様だけでも帰還できるようにはしたいです」
サムエルは、ぐ、と拳を握る。
「リディはこれを知ったとき、どうなるか…」
ケネスはリディオノーレを見つめた。
「彼女が壊れ無ければよいですが…」
サムエルも彼女を見つめて呟いた。
少しの間、師弟2人を見つめたのち、サムエルは声をかけた。
「グレイザック様!出来上がりましたよ!」
サムエルは暗い思考を振り払った。




