隷属解除の裏では
「隷属と魔獣化は成功しましたね」
寝台にて、眼鏡をかけた男性が話しかける。
「褒めてつかわす。隷属魔法をよく再現出来たな」
20歳はいってないと思われる女性が、寝台で横になって男を見上げながらそう告げた。
「そこまで古いものでもないですからね。禁忌になったのはこの50年ほど前。それまではありふれていましたから」
男は眼鏡を取って、寝台横の小机に置く。
女は、男に向かって手を伸ばす。
「魔獣化もよく成功させた」
女は男の首に手を回し、抱き寄せた。
男は女の首に口付けを落とす。
「……ん。ほんに、お前は使える奴だ」
女はそう言うと、男と口付けを交わす。
はじめは軽い口付けだったのが、舌を絡めて激しくなり、思わず喘ぎ声が漏れる。
「殿下の為なら、いくらでも」
男は口付けの位置を少しずつ下にずらしていく。
唇から首へ。首から鎖骨へ。鎖骨から胸へと。
男と女はひとときの快楽に溺れていった。
リディオノーレに助けられた狼ディールは、彼女の近くに控えるようにうずくまって目を閉じた。
彼女と狼が寝たのを確認し、グレイザックはこめかみを揉んだ。
「一体何がどうなってる」
グレイザックはため息をつく。
「魔獣化させられていた、ということですか」
サムエルはディールを見つめる。
「魔獣化……。魔獣の血を入れられたのか?」
グレイザックは推測する。
「……だが、あんなに上手く魔獣化はしない」
ケネスが口を挟む。
「魔獣の血を入れられたら、体が耐えきれず死ぬ」
ケネスは言う。
「だが、それくらいしか思いつかん。余程、研究好きと見える」
グレイザックは不穏な笑みを見せた。
「案外、そいつとはウマが合うかもしれんな」
グレイザックは会ったこともない魔獣化を成功させた奴に向かって唇の端を上げながら言った。
「隷属魔法も禁忌ですよ。復活させたということですか」
サムエルが口を開く。
「禁忌だが、そこまで古い魔法ではない。記録を探すのは容易い」
グレイザックは答えた。
相変わらずよく知っている。
「隷属魔法は有無を言わせず、従えさせることが出来る危険性ゆえになくなっただけだ。死ね、と命じられれば死ぬ。そんな魔法は必要ない」
グレイザックは真剣な顔で答えた。
「それに昔は、奴隷が横行していたからな。俺が気になるのは隷属魔法で魔獣たちを従えているところだ。何を考えているかは知らんが、戦力のひとつだということか?戦の準備か?」
グレイザックは考え込む。
「……なるほど。有り得ますね。こちらに攻め込もうと?」
サムエルが言う。
「ああ。色々備えておきたいのだろう。だが、戦を仕掛けるつもりなら俺は止めるぞ」
グレイザックは答える。
「承知しています」
サムエルは目を伏せ、答えた。
「それも大事だが、リディのあの術、精霊魔法だろう」
ケネスが言った。
「ああ。………成功させやがった」
グレイザックは苦笑する。
「あんな風に契約してもないのに力を借りれるのですか」
サムエルは疑問を口にする。
「元々、あいつに付き纏う精霊が3体ほどいたからな。力は貸してくれると思ったが、他の精霊も結構集まっていた」
グレイザックは苦笑したまま告げた。
「契約していない状態での精霊魔法だから、半分以上魔力を吸い取られただろう。心配なのはそれくらいだった」
グレイザックはそう言うが、本音はもう一つあった。
成功率も半々だと思っていたのだが、あっさり成功させる彼女を見て、内心ほくそ笑んでしまった。
精霊師となっても問題無さそうだと安堵した。
「精霊師になるのが楽しみになったのでは?」
サムエルが尋ねる。
「…………ああ」
グレイザックは少し微笑みながら答えた。
「あのディールという狼はどうするつもりだ」
ケネスが尋ねる。
「使役獣としての契約はさせない。とりあえず、ついてくるなら勝手にしたらいいと思っている」
「アインズビルまでついてきたら?」
サムエルは真っ黒の大きいディールをちらりと見て、尋ねた。
「その時はその時だ。………恐らく、ついてくるだろうが。リディに隷属を解いてもらったんだ。リディを主として見ているのは分かる」
グレイザックはため息をつきながら答えた。
「ムナグレーク様が呆れそうですね」
サムエルは苦笑しながら告げた。
「そうだな。仕方ない。リディのやることは規格外だ」
グレイザックは答えた。
その言葉に2人は突っ込もうとして辞めた。
言っても無駄だ。
「あの狼に関しては様子見だ。害があるとみなしたら殺す」
「かしこまりました」
サムエルは返事した。
その頃、アインズビルには手紙が届いていた。
「………アングロード様からリディ宛てに手紙です」
バルデミアンがムナグレークに手紙を渡す。
ムナグレークは遠慮なく開封すると中身を読む。
「義弟の妹が授業について行けてないらしい。早く帰ってきてくれとの懇願の手紙だ」
ムナグレークは手紙をばさりと机に置く。
「……あぁ、スティルナーデ様ですか」
執務を手伝っていたフェルバールが呟く。
「あそこは元々脳筋一族だからな」
ムナグレークは吐き捨てた。
その言葉にバルデミアンとフェルバールは苦笑いだ。
「アブストール様からも届いております」
それも受け取ったムナグレークは、リディオノーレ宛てなのを確認するとまた遠慮なく開封する。
「リディが帰ってきたら連絡してくれ、とのことだ」
ムナグレークはそう言って、またばさりと机の上に放り投げる。
「人気者ですね」
バルデミアンは思わず呟いた。
「楽観的だな」
ムナグレークは突っ込む。
「もしかしたら、バルデが今度は側近として行くかもしれんぞ」
「怖いこと言わないで下さい。リディを止められるような腕は持っていませんよ」
バルデミアンは身震いした。




