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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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201/912

隷属の解除




「お前、魔獣が何か分かっているのか」

「分かっていますよ。使役獣と違って理性がなく、人間を襲うのが特徴ですよね」

リディオノーレはスラスラと答えた。


「そうだ。じゃあ、近付いたら襲われるに決まってるだろう」

「でも、魔獣と言えど隷属はいけません」

リディオノーレはまっすぐグレイザックを見て答えた。


「隷属を解いたからと言って、魔獣は魔獣のままだぞ」

「………分かっています」

リディオノーレは拳を握って答えた。


「それでもやるのか」

グレイザックは尋ねた。

「私がやります。魔力防御と物理防御の装飾品を持っていますし、私が最適ですよね。やり方教えてください」

リディオノーレは言った。

確かにその通りである。


グレイザックは、ぐ、と唇を噛んだ。


「危険すぎる。やらせたくない」

グレイザックは彼女を見つめて言った。

リディオノーレも見つめ返す。


「でも、隷属はいけません」

「でも魔獣だから結局殺すぞ」

「もう命が僅かなのですから逃がしましょう。どうせ、後ほど死にます」


「それならひと思いに殺してやるのが1番だろ」

「いえ。逃がします。残り僅かな命、好きにさせてあげてください」

「………どうしてもやるのか」

「はい」


師弟2人は見つめ合う。


グレイザックは怖い顔で口を開いた。

「初めての呪文が成功するとは限らんぞ。危ないと思ったら止めるし、殺すからな」

「はい」

リディオノーレは真剣な顔で答えた。


「じゃあ、覚えろ」

グレイザックはリディオノーレを見つめる。

「眼鏡を外せ」

グレイザックは彼女から眼鏡を受け取る。


「光が見えるだろう?その光が集まってきたのを確認し、祈るように唱えろ」

グレイザックはそう言って、呪文とやり方を教えた。


リディオノーレはそれを覚えると、一歩一歩隷属の首輪をつけている狼に近付いていく。

一応数歩離れてグレイザックもついてくる。


その狼を守るために他の魔獣たちが彼女に飛び掛かるが、それはグレイザックの盾に防がれる。


首輪の狼は傷だらけだが、力を振り絞って彼女に向かって唸り、噛みついてきた。

だが、物理防御の装飾品によって弾かれる。


リディオノーレは首輪をガッと掴むと、体重をかけて抑えこんだ。

他の魔獣たちが一斉に暴れ出すが、盾によって弾かれる。

首輪の狼も彼女の腕を噛もうとするが、装飾品の防御魔法により噛むことが出来ない。


リディオノーレは息を深く吸い、自分の周りに集う光に祈る。


「我、一時的に力を借りる者なり」

彼女の言葉に反応するように、光がどんどん集まってくる。

眩しくて見られない。


リディオノーレは目を瞑り、呪文を唱えることにした。


呪文に「精霊」という単語があるが、一時的に力を借りることが出来るらしい。

祈るように心を込めて唱えろ、とグレイザックは言っていた。


彼女はもう一度息を吸う。


「天と地を統べる精霊よ」

ここで彼女の魔力が、ぐん、と吸われた。


「我が手に集いて力となり、組み伏せられた全てのものを」

首輪を更にグッと握り締める。

「ここに解き放ち給え」

魔力の半分以上が吸われた。


リディオノーレは驚きながらも、掴んでいた首輪が手の中でさらさらと砂のようになっていくのを感じ、目を開けた。


狼は驚きを露わにし、彼女から距離を取る。

リディオノーレは急な魔力減少に体が傾ぐ。


グレイザックは予想していたので、難なく彼女を受け止める。

(成功させやがった……)

グレイザックは息を呑み、舌を巻いた。


距離を取った狼はゆっくりと彼女に近付いてきた。

他の魔獣たちは攻撃対象をリディオノーレ達ではなく、その狼に変えた。

一斉に飛びかかる。

グレイザックは杖を振るって風刃を出すと、一瞬にして周りの魔獣を殺す。


先程までは狼を守るように人間側に攻撃をしていたのに、急に狼に目標を変えたのだ。

殺していいだろう。

グレイザックはリディオノーレを有無を言わさない顔で見つめた。


狼はゆっくりとリディオノーレの前まで来て、足を止めた。


彼女と彼女を支えるグレイザックは、地面に膝をついている状態だ。

グレイザックはその狼の一挙一動を見逃さないように、杖を握っている。


「……成功したんですよね」

リディオノーレは嬉しそうに呟き、その狼の首元に手を伸ばす。

「リディ」

グレイザックは彼女の手を引っ込めようと引っ張る。


その狼は彼女の手を舐めると、頭を手に擦り付けた。

リディオノーレはよしよしとその狼を撫でる。


その光景に彼女以外が唖然とした。


「………魔獣じゃなくなってる」

ケネスが目を見開き、そう言った。

「どういうことですか」

サムエルも状況が飲み込めず、目を瞬く。


「……どうなってる」

グレイザックも顔をしかめる。

「何でもいいじゃないですか」

リディオノーレは笑って、狼を撫で回す。


「………」

グレイザックは無言。

有り得ない。


魔獣が正気を取り戻すなんて有り得ない。


「…………もしかして、魔獣にさせられていたのか」

グレイザックはリディオノーレを支えながら、身を乗り出した。

その狼はその言葉に対して肯定するかのように、彼女に擦り寄った。


まるで感謝しているかのように。


彼女は杖を引き抜き、魔法陣を描き出す。


「リディ」

グレイザックは咎めの声を出す。

回復の魔法陣だ。まだ魔力を使う気か。

グレイザックの眉間に皺が寄る。


彼女の回復の魔法陣によりその狼は回復したのか、体を震わせた。


「ディール。でどうですか」

リディオノーレは疲労気味の顔で、その狼に向かって告げた。

狼は嬉しそうにまた彼女に擦り寄る。


「………」

グレイザックは呆れたように息を吐き、こめかみを揉んだ。

「リディ、少し休め。………ディール。お前は好きにしろ」

一応リディオノーレがつけた名前を呼んでやるグレイザック。


グレイザックはリディオノーレを横抱きにすると、サムエル達の方に下がる。

サムエルは開けたところに休憩場所を用意し、グレイザックはそこに彼女を座らせる。


「回復薬だけ飲んで寝ろ」

グレイザックは薬を飲ませるとリディオノーレを寝かす。


「寝てろ」

手を彼女の瞼に乗せる。

「……ディールを殺さないでくださいね」

リディオノーレはそれだけ言って、眠りについた。




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