隷属の魔獣
リディオノーレ達は鬱蒼とした樹海に足を踏み入れた。
色んな小動物が現れるし、虫も鬱陶しいし、リディオノーレは辟易していた。
蝙蝠や梟もたくさん飛んでいる。
蛇や兎、狼に鹿なども出没し、樹々が邪魔ですごい戦いにくかった。
樹海に入って早3日経っていた。
「ぅわぁぁ!燃やしたい!この樹を全て燃やしたい!!!」
リディオノーレは苛立ち、思わず叫ぶ。
その苛立ちに男3人は苦笑する。
「まあ落ち着け」
グレイザックは声をかける。
「駄目ですか!?焼け野原にしてしまいましょうよ!」
リディオノーレは言う。
「気持ちは分かる」
「………あぁ、丁度いいところに大型が来るぞ」
ケネスが鼻を鳴らす。
遠いところから地響きがしてきた。
「……犀だな」
グレイザックは言う。
「1人でやるか?」
「いいんですか?」
リディオノーレは目を輝かせる。
「好きにしていいぞ」
グレイザックの許可が出たので、リディオノーレは杖を剣に変えた。
「!?」
驚いて目を見張るグレイザック。
「剣先を見なければいいのではないかと思いまして」
リディオノーレは逆手で剣を握り、剣先は下に向ける。
これなら剣先は見えない。
少し試してみようと思っていたのだ。
「………発想が面白いな」
ケネスは呆れながら述べた。
「でも相手に剣を向けられると無理なので、サムエル様の訓練は続けます」
リディオノーレはそれだけ言うと、剣に魔力を流す。
そうしている間に地響きがどんどん近付いてきた。
犀が樹々を薙ぎ倒しながらやってくるのが見えてくる。
彼女にとって、非常に助かる行為だった。
鬱蒼と茂る樹々は邪魔にしかならない。
彼女は両足にも魔力を流し、犀とぶつかる寸前に跳躍した。
剣を逆手に持ったまま下向きで重力に任せ、ブッ刺すように犀の背中に剣を突き立てる。
「っっ!!!」
硬い。
剣が通らない。跳ね返る。
彼女は背中を踏み台にしてもう一度跳躍する。
犀の魔獣は体全体を震わせると上空を見上げた。
「っ!!」
リディオノーレのことを視認し、重力で落ちてくる彼女に向かって角を向けた。
リディオノーレは雷撃の魔法陣の紙を取り出す。
剣に魔力を込めて、その魔法陣にブッ刺した。
「トルドゥル!!!」
剣で雷撃を発生させながら、体を捻って着地点を変えるリディオノーレ。
表皮は硬いが、魔法攻撃は案外通る。
サムエルは少し感心しながら見ていた。
本当に何だかんだで肉弾戦の筋が良い。
犀の角に剣をぶつけるとそれを支えにし、跳躍する。
全身に魔力を纏うのではなく、流したい所に魔力を流せる彼女は十分に凄かった。
そのまま犀の背中に全力で剣をブッ刺したリディオノーレ。
でもまだ剣は通らない。
そのまま魔力を流し続け、少しずつだが、表皮に剣が近付いていく。
リディオノーレは懐からもう一度雷撃の魔法陣の紙を取り出す。
剣を引っこ抜くと魔法陣の紙に剣を刺して、そしてそのまま同じ箇所に剣を突き立てながら唱える。
「トルドゥル!!」
少し表皮の硬さが弱くなったところに雷撃をかます。
「ぐっ!!!」
リディオノーレは呻き、犀は悲鳴を上げる。
体を捻り暴れ出す。
リディオノーレは振り落とされないよう剣を刺したまま必死に柄を握る。
落ちたら最悪死ぬ。
剣を刺す手に力を込める。
雷撃を纏った剣をそのまま力の限り、深く深く刺していく。
ずぶり、と剣が内側まで深く刺さった瞬間、雷撃をもう一度流した。
犀は断末魔の悲鳴を上げ、背を下にして倒れ始めた。
このままだと下敷きになる。
「リヴァベーレ!」
慌てて剣を解除すると、自分を守る半円型の盾を展開する。
「っ!!」
倒れてくる犀の体に思わず目を瞑ったリディオノーレ。
犀は盾にぶつかったあと、少し弾かれて近くに倒れた。
「……はぁ、良かった」
盾も壊されるかと思った。
リディオノーレは安堵の息を吐く。
「………今の感じで剣を使えるなら逆手持ちで練習するのはありかもしれません。突きが出来なくなりますが。今夜棒相手にやってみますか」
サムエルが提案した。
「ありだな。やってみろ」
グレイザックも賛成する。
「では、とりあえず魔石の回収して樹海を抜けましょう」
魔石を取る人と肉を削ぐ人と分かれ、手分けして作業をしたのち、樹海を抜けた。
「では、ここらで少し休んでからまた向かいます」
と言ったものの、敵意丸出しの中型魔獣たちがじりじりと集まってきた。
「……何だこいつ達は」
今までとがらりと雰囲気が変わった魔獣たち。
殺気がすごい。
グレイザックとサムエルが警戒心剥き出しで杖と剣を構える。
ケネスは狼姿に戻ると唸る。
「………何か、すごく怖いんですけど」
リディオノーレも杖を握るが、ぶる、と体を震わせる。
魔獣たちの様子がおかしい。絶対におかしい。
魔獣たちは警戒を露わに唸る。
リディオノーレは思わずグレイザックの服を掴む。
魔獣たちはケネスと同じくらい大きな一体の狼を守るようにして、リディオノーレ達を見つめている。
その狼は何やら首輪をつけていて、瀕死のように見えた。
「??隷属の首輪か?」
グレイザックは目を細める。
「隷属って……禁忌のやつですか?」
リディオノーレが尋ねる。
「そうだな」
グレイザックは顔をしかめる。
「何で隷属の首輪を嵌めた魔獣がここにいる」
グレイザックの表情が歪む。
「一体どういうことでしょうか」
サムエルも顔をしかめている。
「ケネス。意思疎通ははかれるか」
「魔獣は無理だ。理性がないから、魔獣なんだ」
ケネスは苦い顔で答えた。
「……」
リディオノーレも苦い顔でグレイザックを見つめ、口を開いた。
「あの首輪を嵌めた狼をどうにかする方法はありますか」
「ひと思いに殺してやるのが1番だろう」
グレイザックが答えた。
「あの首輪は取れないのですか」
「嵌めた奴しか取れん」
「解除は?」
リディオノーレは次々と尋ねた。
「……………出来んことはない」
「じゃあ、しましょう。魔獣と言えど、隷属されているのは嫌です」
「………」
その言葉にグレイザックは更に苦い顔になった。




